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61.将来のことは考えたことはありますか

 宣言通りチナ鳥を八羽も捕まえてきた。シチューの素は作っておいて、鍋をメルクが運んでくれた。料理は彼らの家で作ることになった。

 下ごしらえを皆でやる。

 マリアもキャルも文句を言わずに手伝うので、かなり早く作業が進んだ。五人分手が増えるとかなり違う。


 オーブンで丸々焼き、揚げ焼き、シチュー。肉だらけの食卓に、皆大喜びしていた。

 アリスも久しぶりのチナ鳥はやはりとても美味しかった。




 お土産にチナ鳥の肉を一羽分もらったので、明日はこれを焼いていつもお世話になっているハンナのところへ持って行くつもりだ。

「ロイ、そろそろまた街を出るのよね?」

「三日後、かな」

「明日って用事ある?」

 いつも通り送ってくれたロイに、アリスは心を決めて尋ねた。


「特にないけど、何かする?」

「あのね、……ロイの身体に魔力を通させて欲しいの」

 先日のキノコの事件でも、アリスはもう少し治癒術を学んでいればもっと早くに回復させることができたのではないかと思うようになった。

 スミレが見せてくれる人の身体のつくりの本のせいもある。

 もっと知っていれば治癒の効率がよくなる。


「どこも悪くないけど」

「うん……私の勉強。魔力がそこまで多いわけじゃないから、より効果的に治癒ができるように、少ない魔力でもできるように、人の身体の構造? 本来の形? を知っておきたくて。自分で試したけど、自分はどうしても同じ魔力があるからはっきりしなくて」


「まあいいけど、もしかして、回復薬が売れなくなると思ってる?」

「ん? どういうこと?」

「アリスのレシピが広まれば、アリスの回復薬の効果だけがいいわけじゃなくなる」

「ああ……それは違うよ。最近売り上げは確かにいいけど、別に前の売り上げで暮らせないわけじゃないし」


 そんな心配をしてくれてたのか。


「一本の値段があがるしね。そうじゃなくて……ロイがシルバーランクになって、頑張ってるのを見て、私も頑張れることはないかなって、ね」

 錬金は、今回いろいろやってみてやはり才能がないと思い知った。

 調薬のようにすいすい書けないし、手際も悪い。経験だと言われればそれだけだが、何か根本的に違う気がする。


「まあ、構わないけど。明日何もなければ来るよ」



 それからロイが街を出るまで、魔力通しをさせてもらった。何やらくすぐったいらしく、身体を震わせているロイが面白かった。

 おかげさまで、スミレに見せてもらったかなりリアルな身体の臓器の配置を、感じ取ることができた。


「他のヤツに頼むなよ?」

「さすがに、直接肌に触れないといけないし、やらないよ」

 なるべく魔力溜まりに近い方がいいので、ロイにも上半身は服を脱いでもらい、背中に手を当てているのだ。


「特にあいつとか、絶対にダメだからな?」

「あいつ?」

 ロイが少し口を尖らせて横を向く。

「ロラン商会のやつ」

「ああ、カイルさん? カイルさんは素材持ってきてくれるだけだよ」


「アリスは!」

 ぐっとこちらに迫ってきて、思わず身を引く。後ろの壁にぶつかった。

「ロイ、わかったから」

 両手で肩を押し返すと、彼は慌てて離れた。


「ごめん」

 服を着て、扉へ向かう。


「また土産買ってくるから」

「迷宮、気をつけてね」


 危ないところには行って欲しくないが、冒険者の彼はそんなことを言われても困るだろう。アリスは、無事に帰ってくることを神に祈るしかなかった。いつだって、そうするしかないのだ。





「アリスさん、今日、夕飯を一緒にどうですか?」

 今日は保存石を受け取りに来たカイルが、唐突に言い出した。


「夕飯? ですか?」

「ええ、もしよかったら。煮込みがとても美味しい店があるんですよ……いつもお世話になっていますし、是非」

 そんな気を遣ってもらう必要はないと言ったのだが、彼も折れない。


「毎回本当に助かっているんです。行きましょう?」

 あまりに断りすぎるのも失礼だと思い、了承する。


「では、夕方仕事が終わったら迎えに来ますね」

 カイルは嬉しそうに保存石の入った袋を抱えて帰って行った。




「あら、デートのお誘い? いいわねー若いって」

「えっ!? そんな話じゃないですよ。お仕事のお礼って」

「あらー、お礼はちゃんと普段からお金で払われているでしょう? というか、きちんと対価が払われて商売の関係なんだから、お礼なんてのは口実でしょう」


 そんな可能性まったく考えていなかった。



「アリスはそこら辺鈍そうだな」

「ええ!?」

 そんな、わけではない。はずだ。


「今ロイくんは街にいるの?」

「え。ロイ? い、いないです」

「完全に鬼の居ぬ間にだなぁ……アリスの人生に口を出す気はねえけど、あんまりホイホイついていくなよ?」

「基本的に人間関係の情報は全部アリスちゃん伝手ですもんねぇ」


 二人の言い方に、さすがに言ってる意味はわかる。


「か、カイルさんはそんなんじゃないですよ! 取引相手だし」

「アリスはそう思ってても相手も同じだとは限らねえってことだよ」

「アリスちゃん、可愛いものね。栗色の髪も、緑色の瞳も宝石みたい。小柄で、守ってあげたいって思っちゃう感じよ」

「そっちの世界の結婚ってどうなってるんだ? 籍入れて、税金収めるとか。そもそも戸籍があるのか?」

「えっ、えっ」

「子どもができたら結婚って感じ?」

「ええっ」




 昼間二人にあんなことを言われてて、余計に意識してしまう。

 夕方迎えに来たカイルは、商会のお仕着せではなく、街の若者の普段着に着替えていた。案内されたのは街の中心から少し外れたところだ。それでも、人の通りは多く、日が暮れても街頭が明るく光っている。


「煮込みはこちらと、こちらがお勧めですよ」

「それじゃあ、こっちの方を」

「アリスさんはお酒は飲まれないんですよね。果実酢にしましょうか」


 アリスが困らないよう色々と気を遣ってくれている。

 新しく入った錬金術師が、まだまだ経験が浅く、最近ララに少し面倒を見てもらっている話や、王都に行ったときにあった商売の話、話題が豊富で、アリスはすっかり聞き役となっていた。ただ、聞かされているではなく、聞きたくなる話なのでまったく苦痛ではない。

 夕食の間という短い時間だったが、とても楽しく過ごせた。


「商売の笑顔じゃなくて、本心から笑った顔が見れてよかった」


 家まで送ってくれて、扉の前でそう言われたときの意味が頭にすんなり入ってきたのは、昼間のトシとスミレのおかげだ。


「アリスさん、今後の、将来のことは考えたことはありますか?」

 開きかけていた扉をさらに押され、カイルはするりと店の中まで入ってきた。


「普段の仕事に対する態度や、周囲の方たちへの気遣いを、私は……いや、俺はとっても好ましく思ってる。アリスさん、俺と付き合ってもらえないかな?」

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


鬼の居ぬ間に告白されたアリスちゃんです。

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