6.また幼なじみかっ!
タッパーを綺麗に洗って、鞄に詰める。この鞄もこちらにはない内側が不思議な手触りのもので、あまり人目に付くのはダメだ。
自室に隠しておこうと思って、階段の前に来たところで止まる。そうだ。倉庫に入れればいいのだ。確か、物がごちゃごちゃと置いてあったはず。あそこに詰め込んでおけば片付けをしない限り見つからない。
そう思って倉庫のノブを触ると、ピリリと雷の精霊。
そっくりの事態に緊張しつつ、扉を引く。
ぶわっと溢れる湿度と熱風。
そして明るい太陽。
「あら、アリスちゃん」
「なんだ、アリス。また来たのか」
二人の姿を見つけて、心が躍る。
「こんにちは。トシさん、スミレさん」
アリスの倉庫は不思議の国へ、また繋がった。
何度か出入りを繰り返し、繋がったままだということを確認した。つまり、アリスの倉庫は二度と開かれることがない。
まあ、あの中に惜しい物はなかったので、冬の貯蔵問題がちょっとあるくらいだ。今は考えるのを止めよう。
「また来るのならたくさんお惣菜作っておいたんだけどねえ」
そう言ってブルーシートの上でアリスたちはお茶とお漬物を囲んでいた。
謎の材質ビニールは、何度つついても楽しい。
「とりあえずお土産にキュウリとトマトと茄子持っていってもらおうかしら」
「同じような野菜がないなら、調理の仕方に困るんじゃねえか?」
「そうねえ、確かにそうだわ。よかったらうちに来て一緒におかず作る?」
スミレの提案にアリスも頷く。
「スミレさんのご飯とても美味しかった」
「あら、嬉しいわ。じゃあ行きましょうか」
二人に先導されて、アリスは来た扉と真反対の扉に向かう。それがビニールハウスの唯一の出入り口らしい。
が。
トシが以前、アリスの扉の向こうに行けないと示したように、アリスも突然の見えない壁にぶち当たる。
「ぎゃっ」
「あら!」
「あー、残念だなアリス。お前さんもここまでだ」
つまり、このビニールハウスだけがアリスの行動範囲だということだった。
「落ち込まないで、アリスちゃん。このビニールハウス内なら色々できるってことよ? ちょっと待っててね」
「ビニールハウス内は好きにできるんだ。いいだろう。ここは広いぞ」
「……そうですね。トシさんとスミレさんに会えるからもういいかな」
アリスの言葉に虚を突かれたような顔をしたあと、トシがそっぽを向いた。
「スミレさんも、アリスはどうしてるかってずっと言ってたからな、また会えて良かった良かった」
スミレはまた新たなタッパーを持ってきた。他にもたくさん道具を抱えてきたのだ。
「この緑色のはキュウリね。これに、この塩昆布を混ぜて、ショウガの千切りを加えて、ごま油……ごま油はそちらにはあるかしら?」
「あります」
「ならよかった。材料は四つだけよ。分量も適当。こうやって混ぜて少し置いておくだけで、ずっと食べていられるキュウリのできあがりよ」
ずっと食べていられるキュウリ。
「次はトマトね。この間はミニトマトで作ったけれど、こうやってトマトをスライスして。薄切りしたタマネギも良いわね。トマトを角切りにして、水で戻して茹でた大豆を加えてもいいのよ。最後にマリネ液を……砂糖とお酢と食用油と塩ね。パンが主食だっていってたでしょう? 漬けたものをパンと一緒に食べても美味しいわよ」
目の前で手早く作るその腕。
「スミレさんは料理人だったんですか?」
「あら、違うわよ。まあ、長年ご飯は作ってきたけど、最近はこうやって収穫した物から色々作るのが趣味なの。メモを書いて渡すわね」
メモと聞いて思い出す。
「あ、スミレさんの書いた文字、ここでなら読めたんですけど、あちらだと読めなくなっちゃって……」
「あら……、それも不思議の一つなのかしらね」
と言うわけでアリスが自分でメモをすることにした。
このメモも不思議アイテムだ。なぜ、張り付く?
「付箋は、便利よねえ。ペタペタと」
ボールペンとやらもすごかった。
「インク瓶が無くていいのはすごくいい」
「あら、もしかしてつけペンなの? 情緒があって良いわね」
ミールスにはない便利な物がたくさんある世界だ。
「こっちは科学技術が発達してるからな。アリスんところは魔法があるんだろう? 科学技術ってのはさ、誰でも使える便利な技術なんだよ」
魔法は、魔法を使う素質がある人しか使えない。だが、科学技術は持っていれば誰でも使えるらしい。
「便利な物発明するのが好きなやつが多いんだろうさ」
「どうする? ご飯またたくさん持って行く?」
スミレの美味しいご飯。その魅力にはあらがいがたいものがある。が、アリスは首を振った。
「今、ロイが帰って来てるの」
「ロイ、くん?」
スミレの問いかけに頷く。
「幼なじみで魔法使いの、あ、剣も使うんだけど」
「また幼なじみかっ!」
どうもアリスの幼なじみはよく思われないらしい。イライザの第一印象がすこぶる悪かったようだ。
「あの、ロイは普段は冒険者稼業で街にいないんだけど、帰ってきたときは素材採取とか手伝ってくれるの。私だけでは危ないところへの採取とか。ロイは強い冒険者だから」
「ふうん」
なんとなく必死に擁護してしまう。
「で、お礼のお金を受け取ってくれないの。護衛代、本来なら結構するんだけど。だからだいたい採取に行ったときはうちでご飯を食べるし、一緒に作るから今日はやめておく」
出来てましただと不審がられそう。
ミールスは王都に一番近い街ということで、色々なところから食材も入ってくる。珍しいものがあっても問題はない。
「だから、トマトとキュウリはもらって行ってもいいかな? これ、この間そのままで食べた気もするし」
「おうおう、塩だけで十分美味しいぞ」
「塩昆布はちょっと向こうにはまずない食材だからなぁ……」
キュウリやトマトは似たようなものが、よくわからない食材として売っていたのを、見た気がする。
「塩昆布いれなくても、お塩と刻み生姜とごま油でも美味しいわよ」
「じゃあ、それで作ってみる。……でも、スミレさんのご飯美味しいから、また、ロイが街を出たらご飯食べに来てもいい?」
アリスの言葉にトシとスミレは破顔した。
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再び不思議の国へ