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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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57.つかぬ事を聞くんだけど

 ここ二週間、回復薬の売れ行きが微妙になっていた。

 街に来る冒険者の数は増えていそうなのだが、どうも、一時期売り上げの上がっていた回復薬がぱたりと売れなくなる。家の周囲で起こった怪我を治すのに、低級回復薬は一定数出るが、中級が出ない。

 まあ、そんなときもあるだろうと、午前中店を開け、午後は三時過ぎまで閉店でスミレと祖母の書き付けを読む毎日だ。

 

 ルコこと薫子の書き付けは、その当時の街の状況がよくわかって面白かった。

 薫子は本当に頭のよい人だったようで、文字も段々と読めるようになり、書けるようになっていった。


 後半の、祖父の書き付けだと思っていた物も、実は薫子のものだった。

 回復薬の効能を上げる処理の仕方を完成させると、次は酔い止めや、もっと安い傷薬などの研究に勤しんでいたらしい。


 そうやって研究できたのは、材料費が祖父が採取するのでほぼかからないおかげでもあった。


 他の薬も手順の違う可能性が出てきて、これも報告すべきなのか悩んでいる。


 王都に帰ったターニャはアリスの回復薬の再現にいそしんでいるそうだ。

 それを教えてくれたのは王都からの使いだった。普通の冒険者の格好で店にやってきて、手紙とともに金貨十枚を置いていった。

 効用と手順がはっきりすれば、もっと多くの報償が与えられるが、とりあえずのお礼だと言う。


 同時に、彼は言った。


 アリスは監視下に置かれることとなった。何かあれば神殿へ行き、聖女アメリアへ連絡を取りたい旨を知らせてくれと。

 何かはすでにあるのだ。

 だが、これを知られて今の生活が消えるのが怖い。

 使いが来て、あちらへ行くことに不安を覚えた。家全体を探られているとすると、アリスの気配が消えたらばれるのではないかと。


 だが、扉の向こうは居心地がよすぎて、また、今は薫子の手記を読むことが楽しくて、結局欲に負けた。これでばれたら仕方ない。ずっとあちらに行かないということはもうできないのだから。


 しかし、特に反応はなかった。

 ということで相変わらず入り浸っている。


「アリスちゃん、これはキースさんとルコさんのお話ね」


 スミレは書き付けを内容で分類し始めた。段ボールを用意して、街のこと、調薬のこと、そして二人のこと。

 調薬で重要なものは、アリスが後から写してもいいかもしれないという話になっている。


『ここにも慣れて、冒険者にとっての迷宮探索は、誉れの一つなのだと理解した。キースに、私はだいぶ慣れたし、迷宮にもぐりたくはないのか聞いてみた。だが、彼は首を振るだけだ』


『彼はまだ若い。十分迷宮に行くだけの力はあると思うのだが、もういいのだと言う。私と初めて出会ったとき、裏切った同行者のせいなのかとも思ったが、それも違うと言われた』


 薫子の手記は、毎日一行二行を重ねていくものだ。ただ、慎重な人だったようで、力に関わるようなことや、ここに来る以前のことは日本語で書かれている。


『何度も聞こうとして、しつこいかなと思いやめてを繰り返していたら、とうとうキースが夜、照れながら言った。迷宮は死と隣り合わせだ。私を一人にしたくないし、自分ももう一人にはなりたくないと。こちらへ連れてきたことを何度も謝る彼に、何度も連れて行ってくれと言ったのは私だと謝っている。私たちは似たもの同士だ』


「二人は愛し合っていたのねえ」

「うん……」

 祖父の姿を知っているだけに、なんともおかしな気分になる。そういった感情と真逆の生活をしていたように思えるのだが、若い頃はまた別だというのか。


 やがて手記は子どもの話が多くなった。

 二年ほどで父が産まれたのだ。

 まったく別世界の二人の間に子どもが産まれ、無事出産するまでは不安が綴られ、産まれてからは子どもの可愛さが書かれていた。


 父もまたある程度の魔力を持っていたが、冒険者よりも薬師の道を選んだ。祖父に学び、祖父の後を継ぐことになった。




 三時のおやつをいただいて、アリスは店に帰る。

 閉店を開店にすると、しばらくしてカイルが来た。

「こんにちは」

「こんにちは、アリスさん」

 なんだろう。今は注文は受けていない。この間避け石も渡したところだ。


「アリスさん、つかぬ事を聞くんだけど、ルート商会と何か揉め事があったりする?」

「ルート商会……ああ、先日回復薬を店頭に置きたいという話があったので、お断りしました。薬師ギルドでお話ししたのでギルド長も知ってますね」

 答えると、カイルがああ、と額に手を当てため息を漏らした。


「そういうことか。わかりました。ルート商会の者がきたときは、絶対にアリスさんだけで話をしないように。店に行くのもなしです。いいですね!」


 言い捨ててカイルは店を飛び出した。一体何がどうなっているのか。ただ、ルート商会が関係していると言うことは、アリスが話を断ったことに関係があるのだろう。

 ここ一年で、トシから色々と気をつけることを聞いている。前よりは自分で考えるようになっている。


 最近の変化と言えばやはり回復薬の売れ行きが悪くなったこと。

 冒険者の怪我がなければそれはそれでいいことだと思っていたのだが、きっとそうじゃないんだろう。

 自分たちの利になるようにアリスが動かないとなれば、アリスが邪魔なのだ。アリスを、店を潰すために彼らが動いているということか。


 先日もらった金貨十枚がある。

 食べていくことはできるし、まあいいかと、結局アリスはいつも通り過ごすことにした。

 正直今は、薫子のことに思いを馳せることが多く、他の出来事が煩わしくもあった。




「アリス、ただいま」

「おかえりなさい、ロイ!」


 笑顔を返すが、一緒に来ているメルクやマリアたちの顔が晴れない。お疲れかな? と思ったが、何も言い出さないからこちらから触れることはない。

「迷宮どうだった?」

「まあ、普通」

 チラリとメルクを見るがそれには何も反応していない。


「アリスちゃん、回復薬お願い」

 マリアがいつも通り中級二つに、そしてお土産をくれる。


「アリス、何か変わりはなかったか?」

「うん? 特にいつも通りよ」

「そうか、ならよかった」

 この会話に後ろの面々は何か言いたそうだ。

 ええ、気になる。


「揚げ焼き作りに行きますか?」

 アリスの提案に、みんなが頷いた。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


アリスも成長しております。

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