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50.妻に叱られてしまう

 吐く息が白くなることもなくなり、朝夕の冷え込みは相変わらずだが、日中は外で仕事をこなしていても何とかなる。

 早取れの野菜が少しずつ入荷し、市場の店も開き始めた。


 そして、今年は人気の聖女アメリアがやってきた。

 聖者はもちろんそれほど何人もいるわけではない。毎年街に呼び込もうと貴族たちは必死だった。

 ミールスは王都から近く、あまり遠出を嫌う聖者には人気の街だ。

 誰もこないこともないが、アメリアはこの先も来ることはないだろうと言われていたので、街の住人は熱狂した。

 

 聖女アメリアは容姿も美しく、特別な治癒と言う素晴らしい能力を持ち、誰にでも分け隔てなく優しい女性だと言われている。


 カイルにまた誘われはしたが、アリスはお断りした。

 去年もその前も、ずっと聖者がやってきたと広場に行くようなことはしなかった。

 祖父がなんとも否定的なのだ。あんなものに振り回されるなと散々言われている。

 アリスは別にそこまで忌避感はない。単に人混みが苦手なだけだ。

 行って帰ってするのにどれだけかかるか、考えるだけでうんざりだ。


 ちなみに、王都から騎士が付き添ってきているが、ミールスでも護衛や警護をということで、身元の確かな冒険者たちが駆り出されている。ロイたちもまた、広場で人の波が予想外の動きをしないよう、見張る役目を与えられていた。


 なので、今日は誰もこないだろうと踏んで、トシとスミレのもとに来ていた。

 

「聖者様かぁ。俺たちからすりゃ、魔法が使えるロイの坊やも凄いがな」

「うーん、桁違いだし、もう少しこう、なんというか、一つのことに突出してるの。アメリア様は事故で失った手足も元に戻せるくらいの治癒術を使う。上級回復薬並みの力をお持ちなの。あとは、魔法使いのすごい方は賢者と呼ばれることが多いんだけど、一人で森を焼き払ってしまえるような魔法を繰り出せたり、人気なのは壁の賢者様かなぁ」

「壁?」

「街の壁なんかを十分もしないうちに作り上げてしまうの」

「実用的なのね」

 壁の賢者はいつも忙しい。人が増えてきて街を拡張するときなんかに呼ばれる。他には魔物が溢れ出して来たときに、人々を守るため囲い込んだりするのだ。


 アリスの話を二人、は楽しそうに聞きながら過ごしている。

 コタツはぬくぬく暖かく、本当に幸せなひとときだ。

「それにしても、そちらも無事冬が終わってよかったな。アリスはまあ心配なかったが、ロイたちの食べ物は足りたのか?」

「うーん、けっこうギリギリかな? お野菜が調整が難しいみたい。最後の方は一日おきに狩りに行ってたよ。ロイたちだけじゃなくて他にも、お金はあるけど足りなくなってきてる家庭も多いって」


 まあみんな、飢えることなく過ごせてよかったと思う。




 翌日、アリスは店を開けて店内の掃除に勤しんでいた。次の大騒ぎは聖女が帰るときだ。

 それまでは通常通り。

 いや、冬が明けたから本格的に冒険者達の狩りが始まる。回復薬の材料もまた集めに行かないといけない。


 扉の開く音がして、アリスは声を上げる。

「いらっしゃいませ〜」

「アリスちゃん、ちょっといいかな?」

 メルクだった。ロイも一緒だ。

 さらに三人店内へ入ってくる。一人は若い女性だ。薄茶の髪と瞳。身綺麗にしていて平民には見えなかった。

 ただそれ以上に後ろにいる二人のうち左の人物が気になった。

 何がどうというわけではないが、気持ちがざわつく。ピリピリと、その人物の周りの空気が刺激がある。


「どうしてもと言われてね……こちら、レークス様。話しただろ? 例の事件で尽力してくださった騎士団の方だ」

「やあ! あの話を持ちかけたのがこんなかわいらしいお嬢さんだとは思いもしなかったよ! 私もだが妻が本当に感謝していてね。ロイが、いつも茶を買って帰ると聞いた。これを」

 そう言って渡されたのはかなり大きな瓶に入った茶葉だった。


「あ、あの……」

「断らないでくれよ。妻に叱られてしまう」

「アリスちゃん、貰っておいたらいいよ」

 メルクに言われて、ロイを見ると彼も頷く。

「ありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらだ」


 そんなことはと続けようとしたが、最初からフードを取っていた女性がこちらに一歩進み出る。


「レークス様もういいですよね? はじめましてアリスさん。私はターニャと申します。王都で薬師をしております。レークス様から、アリスさんの作った回復薬を見せていただき、試させていただき、その効能のすごさに、ほんとに、もう、私!!!」

 一言話すごとにこちらに一歩進み出てくるので、最後はアリスの手を取り目をキラキラさせて目の前で語る。

 あまりに押されて後ろに倒れそうだと思っていたら、いつの間にかロイが、アリスの背後に立っていた。


「落ち着いてください」

 アリスを右腕で抱え、左手でターニャの肩をぐっと押しやる。すると彼女ははっとして身を引く。

「すみません。ちょっと興奮してしまって」


 ふふふふと口元を隠して笑う姿はやはり品がある。

 直前とのギャップがすごかった。


 そんな彼女に苦笑しながら、レークスが紹介してくれる。

「ターニャさんは王都でも腕の良い薬師なんだ。今回私がミールスに、聖女の警護で来るついでに、アリスさんにお礼をしに行くという話をしたら、是非一緒にと……無理矢理ついてきた」

「無理矢理ついてきました」

 レークスの言い草にもふふふと応えている。


「それで、是非! アリスさんの回復薬制作を見せていただきたいのです。わかっています。こういったことは秘伝の工夫などがあり、それできっと飛躍的に回復薬の性能が上がっているのだと。我々薬師は大なり小なりそういった創意工夫で、自分の薬の売りというものを出していくのだと。ただ、アリスさんの薬の効用は、飛び抜けているのです! 是非、研究させてください!!」


 とても熱い想いを語られたが、どうしたらいいのだろう。


「アリスの作り方が有用だった場合はどうなるんですか?」

「もちろん、王都に招き――」

「却下で」

「それは嫌です」

 ロイが否定し、アリスも拒否する。

 即答にターニャはむむむと考え込んだ。


「特別なのかどうなのか見てみないとわからないんじゃない?」


 さっきから気になっているもう一人の女性。フードを被っていて顔はわからない。


「アリスさん、あれだけ効果が違うと、怪我を負った人々の生存率がかなりあがるのです。たまたまと言うには安定した効用がある。もし何か製造法に秘密があるのなら、……教えたくない気持ちはわかりますが、悪いようにはしません。見合ったお金や物資などをお渡しする準備はあります! ぜひ、ぜひ作るところを一度見せていただけませんか? これは薬師全体に及ぶ問題なのです」


 特別も何も、祖父から教えられた作り方を守っているだけだ。


「とりあえず見せてくれたら金貨五十枚でいいんじゃない?」


 フードの女性の提示した金額にぎょっとする。


「作り方が特別でそれを教えるとなれば十倍じゃすまないわよ」 


ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


アリスの回復役の秘密が!!

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