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48.食べ物足りそう?

 ごんごんと大きな音を立てて、目の前の白い小さな箱が動いている。

「餅つき器はホント、うるさいわね」

「また古いやつだからな……そろそろ換え時か?」

「壊れたら餅つき終わりって言っていたじゃないですか」

「……アリスがいるし、食べきれるだろうよ」


 二人は楽しそうにそれぞれの準備をしながら、軽口をたたき合っていた。

 トシはダイコンをこすっている。ごりごり、とげとげに向かってこすっていた。ダイコンオロシができあがる。


 スミレは甘い匂いをさせるものを作っている。木の実を細かく砕いて醤油と砂糖を混ぜていた。


「アリスちゃんはどれが好きかしらね~」

「つきたてには断然、からみ餅だろう」

「あんこときなこは定番だけど、このくるみ餅も美味しいわよ」


 二人がこうやって競って勧めるときはどちらも美味しいので楽しみだ。


 しばらくすると、ビーッっと大きな音が、餅つき器からした。

 木の箱に、粉を敷いてそこに餅を取り出す。


「今食べる分だけとって、後は棒にしておきましょう」

「もう一回白作って、後は豆とエビか」

「ですね。孫たちはエビ餅好きですし。二回目の白の半分を餡入りにしましょうか」

「おう、じゃあ食べちまおう」


「おはぎと全然違う! 伸びる!」

「ああ! 確かにそれはまったく別物になるわね。元は一緒なんだけど。さあ、喉に詰まらせないように気をつけて食べてね」

 

 ダイコンオロシとお醤油のからみ餅はさっぱりしていていくらでも入るし、くるみ餅は甘くて香ばしくて美味しかった。


「これを風通しの良いところで乾かして、固くならないうちに切り分けるの。で、火であぶって食べるのよ。お醤油つけてね」

「砂糖醤油も旨い」

 二人が語るお餅に思いを馳せながら、口の中のくるみ餅を味わう。

「保存食の一つなのよ。あと、鏡餅っていうお祝いのお餅もあるわね。神様にお供えするの」

 ラミス様にお供え……花や果物はよく神殿に供えとして持って行く。それと同じようなものか。


「それで、からみ餅とくるみ餅、どっちが好き?」


 トシとスミレがこちらを向く。

 うーん、これは、答えが危険なヤツである。




 冬も後半になり、食料がちょうど半分ほどになる頃。

 アリスの店も、もうほとんど開けていない。冒険者も宿屋で大人しくしている時期だ。狩りに出たとしても、回復薬は門近くの店でまかなうだろう。

 店の扉が叩かれると、二階から降りて扉を開ける。


「アリス、パン焼くわよ、どうする?」

「あ! お願いします」

 ハンナだ。こうやって、自分のところの在庫の粉がなくなると、定期的に近場の家から粉を募ってパンを焼いてくれるのだ。薪も一緒に渡す。

「あの、ロイのところが……」

「わかってる。ちゃんとメルクからお願いされてるわ。彼ら元気も残ってるだろうし、労働力としても使う予定」

 しっかりしている。


「アリスはどう? 在庫の具合は」

「大丈夫だよ。冬は越せる」

「それはよかった」

 道を進んでいると声を掛けながらきていたのだろう。あちこちの家の扉が開く。

 あとは店で粉の分量を量って、後で渡す分を計算するのだ。


「ロイとフォンが来たのね。じゃあ手伝ってね」

 ええ、とフォンは面食らっているが、アリスはこのお手伝いは結構好きだった。こねるのは大変だが、それはハンナの旦那さんがほとんどやってくれる。

 冬に何もやることがない子どもも、よくこのパン作りの日は覗きに来た。


「どうだい? 集まった?」

 ハンナの問いかけに旦那さんは頷く。

「二回分だな」

「じゃあ始めよう」


 集めた粉はもちろんパン用だ。麺にも使える。どこの家庭でも同じ物を準備している。分量を量り、しっかりとこねる。フォンが指導されていた。ロイは何度も見ているし、去年も手伝っていたので上手にやっている。


「ハンナ、干したフルーツ混ぜていい?」

「ああ。じゃあ分けてから混ぜ込めばいいよ」

 余計なことが出来るのも、お手伝いの特権だ。

 いつもなら、ドライフルーツは冬の甘味だった。買った物を瓶に入れておいて、おじいと少しずつ楽しむ物だ。

 しかし今年は、ビニールハウスのあちら側に甘味が溢れているのだ。

 ドライフルーツを楽しむ隙間が生まれない。


「ロイのところにも入れる?」

「いや、いいよ。アリスの冬支度の分だ」

 フォンがちょっと物欲しそうな顔をしていたので、そのまま一つあげる。ロイにじろりと睨まれた。


「アリスの分が足りなくなったら困る」

「足りるから大丈夫だよ」

 このやりとりをハンナが笑った。

「五人で五人分を管理するより、一人で一人分を管理する方がよっぽど楽よ。あんたたちのところはよく食べるのが多いから大変だろうね」

「……マリアが」

「マリアさんが」

 マリアなのか……。


「来年はマリアは自費で干し果物を自室に置いておくべきだね」

「自室に? 一瞬で終わる」

「自費で買った物を、他に頼み込んで保管していてもらって、冬が半分過ぎるまでは何があろうとも渡さないという契約を結ばないとダメですね」

 フォン、何をされたんだろう。ご飯をとられたのかもしれない。




 焼き上がったパンを受け取って、店へ帰る。

「あ、ジャム持っていかない? 今年はかなり余裕があるの」

 なぜなら、あちらで食べているから。

「では買います」

「お金は別に……」

「冬の食べ物は貴重だ」

 二人が頑なだ。


「じゃあ、今度春になったら、依頼の合間に素材狩りに付き合ってもらうということで」

「それなら、フォンと俺で行った方がたくさん採れるな」

「ではそういうことにしましょう」

 一緒に行ってもらうのが、素材採集依頼になってしまった。それはさすがにダメだと思う。


「依頼は結構なお金を出してやることだし」

「なら、ロイさんを森の中でしごくついでに素材を採ってきましょう」

「それがいいな」

 アリスがいない方がたくさん採れると言うのもあるのか?


 二人がいれば倉庫が開く。ロイがいるときに倉庫に移動しておいたジャムを二つ持ってきた。

「それじゃあ春になったらついでにちょっと素材採ってきてもらうことにするね」

 二人は満足そうに頷く。

「食べ物足りそう?」

「野菜がかなり減ってきてるから、明後日くらいに狩りに行くことにした。肉多めで誤魔化す」

「夕食にはアリスさんをお誘いします」

「じゃあ、またみんなで作ろうね」

 麺作りは、かなり上手くなっている。基本みんな器用にそれなりにこなせるのだ。マリアに味付けさえさせなければいい。

 気付けばあと一月ほどで冬も開ける。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


冬もクライマックスですね。

冬ももう少しです。

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