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45.頭をよくなでてくれたのは覚えてるよ

 扉をあけっぱなしにしたまま、最近はこちらのビニールハウスで夕方まで過ごす。

「電気はソーラーパネルが設置してあるから、使い放題よ」

 なんでも、太陽の光を魔力代わりの電気に変換する装置だとか。工夫して、作ることが好きな人が多いんだそうだ。


 そして最近、アリスは読書にふけっている。

 ひみつシリーズを読破したアリスに、少し難しいかもと言いながら人の身体の仕組みが書かれた書物をくれた。


「アリスちゃんは治癒師でもあるって言っていたじゃない? どうやら身体の構造はさほど違わないようだし、こういったもので勉強するのもいいかなって」

 人の臓器の働き、繋がり方。


「そっくり同じだとは思わないけど……」

「同じですね……」

 アリスは自分の身体に触れながら、その一つ一つを確かめて行く。

「わかるの?」

「魔力を通して行くと、その形がわかるんです。治癒するときはこの形を戻そうとして魔力を流すし。自分のは同じ魔力が通ってて少しわかりにくいけど」

「まあ。すごいわね、治癒師って」


 アリスは首を振る。

「本当にすごいのはこの本。こんな風にまるで見てきた風に書かれてるのが。魔力を通して知ることができないんでしょう? なのにこんな正確に記してあるなんて」

 するとスミレは口元を少しだけ上げて笑った。

「それは、みんなの協力と努力の積み重ねね」


 ただ、一カ所違うのが、心臓の横にある魔力溜まりが記されていないことだ。

 魔力がないからだろう。


「凄腕の治癒師は、魔力を通して欠けた部分を補修していくんです。私はその訓練は全然したことがないから」

 足の骨が折れたとき、中級回復薬と併せて治癒すると治りがさらに早い。


「王都にね、聖女様と呼ばれている治癒師がいて、その人の治癒は本当に神の御業らしい。一瞬で、欠損した部分も元通りにしてしまうんです」

「それは、すごいわね」

「たまにそういった特殊な魔法を使う人がいるの。聖人、聖女、大賢者って各地で言われてる」

 街を覆うほどの結界を張り、森から溢れた魔物から街を救った話や、祈ることで魔物を退けた話なんかを寝物語に聞くのだ。


 アリスは熱心に身体に魔力を通しながら身体の形を覚えた。




 ロイたちが帰ってきたのはかなり夜遅くだったそうで、さすがに獲物を持ってくるわけにはいかなかったと。ギルド依頼なので、まずギルドに納品される。ただ、冬の肉は貴重なので、自分たちで消費するならそれは全部返される。

 食用にならないが素材になるものと、食用になるものを持ち帰ったロイたちは、食用になるものを家で捌いて、そのうちの少しをアリスにも分けてくれるという。


「夜ご飯をこっちでって言われた」

「つまり、私が作るのね」

 ロイがすいっと目をそらす。

 まあ、そうやって作るときに彼らにも覚えさせていくしかない。 

 手土産のロロ芋飴と、獲物の一部を持って、アリスはロイと一緒にララの家に向かった。


「こんにちは!」

 扉をノックすると中から声がしたので挨拶をしながら開ける。

 中には椅子に座ったララと、見知らぬ男が二人。テーブルに広がった陣などを見るに、錬成中だったようだ。


「作業中なら……」

「いや、もう終わりだ。あとは瓶詰めするだけさ」

「瓶詰めしたら帰りますのでお気になさらず」

 男二人がそう言うので、アリスとロイもお邪魔することにした。


 ロイが勝手に奥へ行くと、椅子を持ってくる。こちらには二脚しかなかった。


「ロイ、そこの湯を暖めてくれよ」

「お代は?」

「おうおう、シルバーランク様の魔法にはお代が必要か!」

 いつもの二人のやりとりなのだが、それを知らない手伝いの者は居心地が悪そうだ。


 煮炊きになるとさすがに無理だが、湯を温めるくらいなら魔法で出来る。とはいえ、それもある程度魔法に長けていないと無理なのだが。

 ロイはそういった細やかな調整が上手かった。


 五つのカップにお茶を淹れる。

「ほら、あんたらも飲みなさい」

 ララに言われ、二人も作業の手を止める。

 お茶菓子に持ってきたロロ芋飴を並べた。

「これが噂の、か。収穫祭の時、ロイ目当ての小娘どもが並んだやつだろ?」

「邪魔だった」


 手伝い二人にも勧めると、食べて目を見開く。

「甘いなぁ」

「でしょ。でもお砂糖使ってないから原価は割ってないんだよ」

 原価は大切と、トシに叩き込まれたのだ。

「ただ、手間がものすごく掛かるから、常備は無理。作るのに一日がかりだから」

「そんなもの、どこで作り方を知ったんだい?」


 しまった少し話しすぎた。


 どうしようと思っていたが、ロイは遠慮なしに言う。

「おじいの秘蔵のレシピらしい」

 ララは祖父の知り合いだ。嘘がバレるかもしれない。

 しかし、ララからは以外な言葉が返ってきた。


「ああ、それならキースじゃなくルコのレシピだろう」

「ルコて……おばあちゃん?」

「そう、あれは不思議な女だったからね。私たちが知ってて当然のことを知らないくせに、こちらが知らないことを知ってる女だ……最初はキースがお貴族様を攫ってきたのかと思ったよ」


 祖母は両親が亡くなるさらに前、アリスが本当に小さな頃に亡くなったと、話にしか聞いたことがなかった。

「攫ってって……」

「本当さ。キースがあるとき迷宮から帰ったと、ルコを連れてきたんだ。かなりの腕利きだったのに、そこで冒険者稼業は辞めると、親の薬師を継ぐことにしたんだから。ルコは迷宮の戦利品かって、周りの大人たちは皆言ってたよ。手を使う作業をしたことがないのかと疑うほど綺麗な指をしてた女だった」


 ララはそう言って笑った。

「言葉使いも丁寧でね。魔力関係がからっきしだったから、調薬は出来なかったようだ。キースはその点昔から親の稼業も手伝っていたし、すぐ調薬も出来るようになってたな。冒険者を辞めはしたが、素材の採取も一人で出来るし、魔力の調整もお手の物だ。ただ、手順や物の準備はルコの方が上手かった。何をするにも丁寧な女なんだ。よく私の錬成の準備も手伝ってくれたよ。ルコの手伝いがあると物事がスムーズに運ぶんだ。綺麗好きが過ぎるとは思ったが、言ってることはまともだったしなあ」

 似合いの夫婦だったよ、とララは締めくくる。




「アリスのおばあさんの話は初めて聞いた」

「うん……私も、ほとんど聞いたことなかったから。確か本当の名前はルコじゃないの。なんだったっけなぁ。名前の最後を取っただけなんだって。昔教えてもらったけど忘れちゃった」

「気付いたらもういなかった人だもんな」

 たぶん、三歳、四歳頃なのだ。

「頭をよくなでてくれたのは覚えてるよ」

 ただ、本当にそれだけだ。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


アリスの祖母話をちょろりでした。

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