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4.ろくなことにならない

 索敵で見つけた五人は、ロイのパーティーだった。彼らは次の街への商隊の護衛任務を主に請け負っている。

 今回も一ヶ月ほど前に王都へ向かっていた。その帰りなのだろう。


「アリス。一人で危なくないか?」

「お帰りなさい、ロイ。定期的に索敵しているし、人が近づいてきたら距離を取るようにしてるわ。こんな風に追いかけられたときは緊急の合図を打ち上げるのよ」

「……すまない。索敵の魔力がアリスのものだったから」

 ロイは剣士でもあり、優秀な魔法使いでもある。アリスにはとうていわからないが、索敵で相手の魔力に触れて、それが誰かわかるらしい。

「お仲間はいいの?」

「ああ、今回は帰りは商隊を途中の村まで届けるだけだったんだ。どうせすぐに追いつくし、行こう」

 ロイはアリスと同じく今年で十六だった。それなのに頭二つ分近く身長が違う。アリスはもう伸びしろはなさそうだ。見上げていると青い瞳と目が合う。

「ん? どうした?」

「ううん。忙しそうだなって思って」

「まあ、冬になれば商隊の移動もなくなるから、それまでにしっかり働いておかないとな」

「王都の往復基本一ヶ月だもんね。あと三回?」

「かな。復路の商隊がすぐ決まれば四回いけるかな」

 ロイの親はロイの兄たちと同居し、帰る家はない。宿屋に滞在することになるから、街に留まる期間は少ない方がいいのだ。


「商隊護衛なんかやめて、迷宮にこもればいいのに。ロイの腕ならいけるっていわれてるんでしょう?」

「……迷宮は性に合わないからいいんだ」

「イライザはかなり稼いできたらしいわよ」

 アリスがその名を口に出すと、ロイの顔が歪む。

「あいつがまた来たのか?」

「そりゃ……彼女の親が住んでるからね。寄っているんじゃない?」

「店にあいつを入れるなよ? ろくなことにならない」

 ロイはイライザを毛嫌いしている。

 また入れるなと毎回言われるのだが、ロイとイライザが鉢合わせすることはほとんどないのだ。

 二人とも代わる代わる店にやってくる。


「あ、ほら、追って来たみたいだよ」

 いつも同じメンバー。

「ロイ! 先に行かないでよ」

「やあアリスちゃん。また後で回復薬の補充に向かわせてもらうよ」

「お待ちしてますね、メルクさん」

 彼らが買うのは街の中の人々が買う物よりもう少し効果の高い物で、利幅も大きい。

「ギルドで証明もらったら、打ち上げしよっ」

 斥候のキャルが、ロイの腕に絡みつくが、彼はそれをするりと躱す。

「街に着くごとに打ち上げをしているから、なかなか次の武器を新調できないんでしょ? 少し控えたら?」

 魔法使いのマリアに言われて、キャルがむっとする。

「少し飲むくらい変わらないわよ」

「少しで済めばいいけれど。王都で飲んだし、今回は私はパスするわ。分配が終わったら次の予定を立ててしばらく休み、かな?」

「いい仕事があれば連絡する。宿はいつものところだろう?」

「ええ。アリスちゃん、私も後でお店に伺うわね。中級二つくらいお願いしたいの」

「準備しておきますね」

「アリスちゃんの回復薬は中級でも他のものより効きが良いからね。助かるわ」


 そうして彼らはギルドへと向かった。

 が、ロイはこちらにいっしょに来るので首を傾げた。

「ギルドへぞろぞろ行っても意味ないし。回復薬を買いに、結局みんなアリスの店に来るから、送りがてら一緒に行く方が効率的だ」

 いつもの街の道なのだから、何も危ないことなんて無い。こんな真っ昼間の大通りで追い剥ぎなんて現れない。

 ロイは昔から心配性だ。


 店の鍵を開けて入ると、カウンター横の扉を開けて我が物顔で奥に来る。

「お客様、こちらは従業員専用ですが?」

「土産あるんだけど?」

「わーい、ロイ、大好き」

 目の前に掲げられた小瓶には、アリスの好きな茶葉が入っている。高いものらしく、本当にたまに、二杯分くらいを買って来てくれるのだ。

「一緒に飲む?」

「アリスの分がなくなるけど?」

 まあ、それはそうだが、今飲みたい。

 お湯を沸かしていると、ロイは装備を外して椅子に座る。胸当てや剣、旅程のための荷物は、なんだかんだと多い。

「埃っぽいなぁ」

「仕方ないだろ。宿屋でやっと水を浴びることができる……」

「お茶を飲んだ後に、中庭で水浴びしてもいいけど?」

 近隣六軒の中央に、小さな中庭がある。昔々、仲の良いこの六軒で、水場を確保しようと費用を出し合って作ったらしい。今も仲良くさせてもらってる。アリスはさすがに無理だが、男性や子供は夏場になるとそこで水浴びをしていた。

「俺はこの家の人間じゃないから……」

「今さらよ。小さな頃からよく浴びていたじゃない」

 ロイが井戸を使うことに反対する者などいないだろう。

 街に帰ってくるたびに、魔力で解決できる困りごとを請け負っているのだから。

 湯が沸いて、ポットに注ぐ。

 茶葉が開くのをゆっくりと待つ。香りがいいのだ。

「はい、どうぞ」

 アリスも向かいの席に座った。ふわりと鼻先の空間に広がる、清涼感のある香り。

「はぁ……今回のも素敵」

 うっとりとお茶を味わう。

「いつもありがとう」

「まあ、冬の蓄え以外に金使うところもないし」

 それは嘘だ。冒険者は何かと金がかかる。武器のメンテナンスや、回復薬だってそうだ。最悪の事態に備えて金が必要になる。

 そして宿。

 街に滞在するということは、宿屋に泊まるのだ。宿代もバカにならない。

 リーダーのメルクとキャルは、実家に泊まる。マリアの家は家族が多い上に、兄が嫁と家業を継いで実家に泊まる部屋はもうない。ロイと一緒だ。なので定宿に泊まる。フォンはもともとこの街出身ではなかった。

 マリアが飲みを断っていたのもそうした理由があるからだろう。

「どちらにせよ、最低でも二日は休むだろうから、その間に採取に行こうか」

「えっ!? 帰ってきたばっかりだよ」

「村からは自分たちだけだったし、護衛の気疲れはゼロだ。問題ない。それより、俺がいないと行けない場所の素材が多いだろ? 行けるときに行っておこう」

 ロイはいつもこうやって、アリスを手伝ってくれるのだ。申し訳ないが、本当にありがたい。でもお礼のお金はもらってくれない。

「せめてご飯は食べてってね」

「ごちそうしてもらおう」

 



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こちらの幼馴染とは良好な関係。

パーティー名とか……つけるのかなぁ。ギルドで仕事請け負う時に必要なのかなぁとか思いつつ。

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