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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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37.甘い物は大歓迎だ

 夕方、店を閉め、避け石作りを始める。

 避け石は虫除けの石だ。冬だけでなく通年を通して需要の高い物だ。材料がかなり安価なのもあって、錬金術を囓るものは自宅用に必ず作るので、一番最初に学ぶものでもあった。

 アリスは祖父が錬金術も使う薬師だったので、調薬を教えられる中で、ついでだと錬金術もいくつも教えてもらっている。

 避け石はアリスが作る物になっていた。保って半年くらいの品物なのだ。


 材料は、道ばたにある石。大きくなくてもいい。大きい方が範囲が広くなるが、他の材料との効率を考えると小さめのをいくつも置く方がよい。大きいと中まで浸透しないからだ。 そのほかに、虫除けとなる草。除虫草のファビラ草。それを定着させるためのパラの実。これを規定分量入れて、錬金釜で魔力を通しながら煮詰めると、元の石が青く染まって避け石となる。


 さすがと言うか、よくわかっているようで同じ大きさの石で揃えてくれていた。

 アリスは分量を量って混ぜるだけという簡単な仕事になる。

 錬成陣は、濃い紫色のもので、基本の円陣はすでに糸で刺繍している。その中に、必要な記号を錬成杖で書いて行くのだ。この記号が肝となるし、お手本と寸部違わぬ形であればあるほど効果が高い。

 最初の頃、アリスは完璧にまねできたと思っている記号を何度も消された。


 とりあえず約束の三百を作り終える。五十ずつ六回。それを袋に詰めるのがなかなかの重労働。

 粉代の半分が得られるのだから頑張れた。


 夕飯の準備をしながら、渡された表を眺めている。一番欲しがっているのからやってあげるべきなのだろうが、正直記号の正確さに不安がある。

 請け負って作る前に、記号が大丈夫かどうか確認したいところだ。

 となると、アリスが頼るのは一人だった。




 翌朝、引き取りに来たロラン商会の人に尋ねる。

「久しぶりの錬成なので、記号に少し不安があります。知り合いの錬金術師に、ロラン商会さんから依頼が来ていることを話しても大丈夫ですか? その際もちろん提示されているお代は言いません」

「それは……問題はないと思います」

 少し言いよどんでいる意味はわかっている。

「私も避け石はよく作りますし、臨時収入になってありがたかったんですが、やはり本職ではありません。もし知り合いの錬金術師が手が空いているならこの表の物を作る余裕はあるか聞いてみましょうか? 祖父の友人ですのでそれなりに高齢の方なので、今はあまり仕事はしてらっしゃらない方です」

「……ロランに確認して参ります」


 若ければ今後ともずっと契約したいとでも思ったのだろうか、祖父と同じ高齢というところでピクリと眉が動いていた。

 残念だけれど、祖父より年齢が上の方だ。

 土産に何を持って行くか悩んだ。甘い味の好きな人だったから、芋飴があればそれがよかったが、今はまだ麦芽を育てているところだ。明日くらいには作ることはできるかもしれない。それから行くことにしようか。

 ああそれとも、とキッチンにあるものに思いを馳せる。

 前にスミレが干し芋と言っていたので、作り方を聞いた。多分同じような種類であろうロロ芋で、アリスも作ってみたのだ。

 今朝湯を沸かすときに一緒にあぶってみたが、ほんのり甘くて美味しかった。


 それこそ本当に走って聞きに帰ったのだろう。

 使いの人は新しいリストを持って来た。

「とにかく今年は人手が足りなくて、もし助けていただけると助かりますと、ロランからもよろしくお願いしますとのことです。こちらが表と代金になります。急ぎ料金なので少し高くしていますので、先方にも値段は外に漏らさぬよう、念押しをお願いします」

 渡されたものは、アリスに対する価格よりは安かったが、それでも高めらしい。


 この様子だとロロ芋飴ができあがるのを待つより聞いてあげた方がよさそうなので、彼らが帰ったあとさっそく出かける準備をした。リストは落としてはいけないので大事にポケットにしまい、干し芋を布に包むと鞄へ入れた。




 知り合いの錬金術師の名はララという。祖父の知り合いだった。だが仲が良かったのは祖母だ。祖母はアリスが小さい頃に亡くなったのでまったく覚えていないが、祖母が亡くなったあとも交流は細々と続いていた。

 父と母が事故で亡くなった時、祖父を助けてくれたのはララだった。もちろん近所の人たちもたくさん助けてはくれたが、ずっと泣いていて動かないアリスの面倒を見ていてくれたのはララだ。祖父にはたくさんのやらなければいけないことがあったからだ。


 元は赤かった、今ではすっかり色あせた家の扉をノックすると、遠くから声がする。

「ララ、アリスです」

 するとまた応える声がした。入っていいということだろう。

「お邪魔します」

「奥だ!」

 錬金術師としての腕前はなかなかで、ただ、足を悪くしてからは子どもたちが面倒をみてくれると積極的に仕事を取ることはしなくなった。子どもたちもまた街の錬金術師なので、顧客をそっくりそのまま引き継いだのだ。

 店舗として使っていた家も彼らに譲って、独り身の小さな家に移り住んだ。

「お久しぶりです」

「やあ、アリス。ご無沙汰だったね。忙しそうでなにより」

 ララはすっかり色の抜けた白髪を後ろに一つにまとめている。錬金術師は髪に力が宿ると、長い髪の者が多い。だがそれも、もう仕事は受けないとすっかり短くしていた。

 奥の扉から杖をついて出てくる。

「あ、いいよ、そっちに行っていいなら行くよ」

「なに、ちょうど茶でも飲もうと思っていたところだ」

 部屋は二間。奥は寝室で手前が小さな煮炊きの出来るかまどとテーブルだけ。

 アリスはララを椅子に座らせると火をつけて湯を沸かす。


 ララに指示されながら茶を入れ、干し芋をテーブルに出した。

「甘くていいなこれは。そうだ、なんか収穫祭で新しい飴を披露したらしいじゃないか」

「そうなの。今度冬前にもう一度だけ作るつもりだから、出来たら持ってくるね」

「甘い物は大歓迎だ」

 ひとしきり昔話をしつつ、本題に入る。

「あのね、実はロラン商会さんから少し錬成を頼まれてて」

「ロラン……ああ、あの大きな。あそこは、そうか、あいつこの間ぽっくり逝ったって言ってたな。専属がいなくなって困ってるのか」

「そうなの。ロイがね、パーティーメンバーと家を持って冬を越すことになって、色々と商品注文にロラン商会さんを使っててその関係で、私も避け石を納品することになったの」

「あんな金にならん仕事をしてるのか」

 優秀なララには避け石は技術のない錬金術師が作る物なのだろう。

「ふふ、私は本職じゃないから。で、避け石以外ももし出来るならって頼まれてて……ただ、記号の出来が不安だから一度ララに見てもらいたいんだ」

 すると、その青い目が面白そうに細められた。祖父に記号が甘いと散々言われた。ララには、まったくダメだと言われ続けていたのだ。

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おばあちゃん錬金術師の登場。

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