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35.自分のところの瓶詰めは自分でやるんだ

 肉は自分たちで獲ってくるので、それを加工に出すという。アリスの分も作って、それが指導代金だと言われた。そんな風に勝手に決めていって大丈夫なのだろうか。

 ただ、これもアリスは購入していたので、一緒にお願いすることにする。

 加工代をこちらが払えばいいとも思った。

 

 来月から購入する予定の野菜や、果実の納入予定を立て、加工日をだいたい決めた。

 とはいえ、ロイたちには狩りもある。

 狩りは天候に左右されるので、多少余裕を持って決めないといけないだろう。


 しかし、薪が多い。


 店があるからと昔から魔道具を使用していたのは本当に助かっていたんだなと思う。

 棚が出来上がってから、オイル用の大きな瓶も納入してもらおう。液体は二階から運ぶのは危険なので、一階の棚だ。


 薪の値段をじっと睨んでいると、マリアが顔を寄せてきた。

「どうしたの、アリスちゃん」

「なるべく来年は予算を多めにとって、魔道具を買って薪を減らしましょうね。魔法使い二人もいるんたし、他の三人も魔力ゼロなわけでは無いし」

 魔力供給に人を雇わないなら、三年で元が取れる。

「なんなら今年からでもいいけど? 個人でも多少の貯金はあるから、そこから出し合って……キャルは知らないけど」

「メルクさんの提示してる冬支度予定金額じゃ到底無理ですよ。迷宮頑張ってくださいね」

「おや、迷宮に参入されるんですね。この近くですと、王都の管理下のものですね。迷宮なら三度、それなりの成果を得れば次の冬支度は魔道具を買っても余裕でしょう」

 迷宮産の鉱物や、魔物から得られる素材は高値で売れる。ただ、地上近くはブロンズランクでもなんとか挑めるので、ロイたちが狙うのは中層階だろう。


 だいたいロランとアリスの相談が済んだので、家に棚の大きさを測りに戻ることになった。その前にアリスは避け石の契約だ。

 先に行っていてもらおうとしたら、ロイが残った。

「本当に助かります。この時期よく出る商品なので、早急に発注しなければならないのに、錬金術で生活している方は皆だいたい他の商会と専属契約していますので……どの程度お願いしていいでしょうか?」

「どのくらい必要なんですか?」

「そろそろ店頭にも並べなければならないので、急ぎは二百。本当に欲しい数は三千ほどですね。毎年購入していただく大口のお客様がいらっしゃるので」

 さすが大店。数が恐ろしいことになっている。

 とはいえ、避け石は一度作ると最低でも三百はできる。材料があれば。


「最近は夕方早くに店を閉めるので、それから釜を一度回すことは出来ます。なので一度に三百ですね」

「それは……とても、とても助かります。出来てない日があっても構いませんので、毎朝お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 ということで、常に二回分の材料をアリスの店に置いておくことにして、最終的に二十日間で三千の発注をもらった。

 なかなかよい臨時収入で、アリスとしても嬉しい。粉代の半分が賄えそうな金額だ。


「本当ならぜひ専属契約をと言いたいところですが、アリスさんは薬師としてのお仕事もあるでしょうし、……もしよろしければ手すきの時に他の錬金品の製造に手を貸していただければ」

「冬は薬の出もそこまでではないし、森に素材採取も、私が行くことはないので、あまり腕が問われないものであれば」

 調薬よりはどうしても腕が劣る。錬金専門にしている人から見ればまだまだ甘いと思う。

 今度リストを作るのでその中からやっても良いものがあればということになった。



 ロイと一緒に家に向かう。

「大店の店主さんなのに、偉ぶらない良い人だね」

「大店だからかなぁ」

 実際考えていることは別として、相手によって態度を変えるようでは三流なのだそう。

「ロラン商会の護衛任務はタイミングが合えば請け負うって話もしてるしな」

 お互い持ちつ持たれつだからこそ、良い関係なのだという。

「避け石の値段もたぶん相場より高い」

 素材分を差し引いた技術量だとはいえ、市場に出回っている値段から考えても、アリスにお得になっている。

「急だからじゃないか? あと、次の専属が決まるまでは繋いでおきたいから」

「そうだろうね、それでもありがたいな」

「アリスにはすごく迷惑をかけるから、少しでもアリスの得になることがあるならよかった」

 高い位置からロイが笑って言うので、アリスも笑顔を返す。

「自分のところの瓶詰めは自分でやるんだよ」




 棚は結構しっかり作るらしく、何やら材木の種類の検討までされていた。フォンは案外こだわり屋らしい。

「ロイさん、明後日には届くそうなので、一日で仕上げます」

「手伝う」

「カットまではお願いしたので、狩りで少しでもこの分を取り戻します。明日は三人で狩りです」

 これからの時期、肉は売れる。冬に備えた加工品作りに引く手あまただ。

「三人で大丈夫なの?」

「ロイさんは前衛もこなします。問題はないです。なんならチナ鳥狙いもありかと」

 確かに。

 この間は全部自分たちで食べてしまったが、あれは売っているものは結構高い。保存食でなく、すぐ食べるために買いたい人も絶対にいる。

「しばらくは買い取りが高いもの中心に行きましょう」




 アリスも本格的に準備しなければならない。

 その前に、芋飴をもう一度作るための麦芽作りからだ。

 本当に、手間がかかるが、甘味としては最高なのだ。

 砂糖は、ジャムとしてしか使わない。育成が難しいらしく、ごく一部の地域でしか採れない。ミールスの街からは遠く、少しでも金貨が必要になる。

 それでも、冬の間のジャムに、毎年何瓶か作った。

 ロイたちも作る予定にしていたが、見通しが甘い。砂糖の値段も把握しきれていなかったようだ。ジャムの甘味がない分、芋飴を作ってあげようと思ったのだ。


「結局甘いなぁ」

 初めての冬支度、あまりにひもじい思いは可哀想だと、結局段取りをほとんど考えている自分がいた。

 色々普段から気にかけてくれているので、見放せない。

 冬が始まるまでは忙しくなりそうだ。




 その日の夕方、避け石の材料がどっさり届いた。かなり切羽詰まっているのだろう。

「今日は時間があるので、明日の朝取りに来ていただけますか?」

 アリスの言葉に、荷物を持ってきた男たちが顔を輝かせた。

「助かります! あと、こちらがリストになります。どの商品でも、今は本当に助かりますのでよろしくお願いします」

 読みやすいきれいな字で書かれた、必要な品物と、最低限欲しい数、できればあると助かる数、優先度が高いものと、見やすく表になっている。

 ただこちらは、本職でないので手順の確認が必要なものが多そうだ。

 ちなみに依頼料まで書いてあった。この料金はさすがに他所には見せられない。

 少し検討させてもらうことにした。

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