34.みんなできちんと覚えてよ?
前向きに考えることにした。
つまり、人手があると。
「粉はたくさん買わないとね。色々と種類があるから」
その前にロラン商会にご挨拶にいかねば。
「とにかく、私はあくまで今回お手伝いするだけだからね? みんなできちんと覚えてよ?」
はーいとの返事だがなんというか、まったく、信用がならない……。
物置部屋を見せてもらったが、見事に何もないので、棚を設置することにした。この先必要だし、簡単でいいから作る。
といったら、材料があればフォンが作ることはできるらしい。
「フォンは器用だからね」
それならばと、木材を調達することにする。
ロラン商会は、色々なことを一手に扱うミールスの街の中でもかなり大きめの店だ。今回冬支度のアドバイス兼調達役として依頼したのは、良い判断だったと思う。商隊でお互い世話になっているから、無茶な取引はないだろう。むしろこれだけの規模のところに面倒を見てもらえるメリットのほうが多い。
四人で顔を出すと、店頭にいた男性がこちらが名乗る前に少々お待ちをと中へ引っ込んだ。そしてロイとも顔見知りの商会長がやってきた。
「先日はありがとうございました」
「こちらこそ、いつも指名依頼をありがとうございます」
マリアが代表して挨拶をする。
「今日は冬支度に関してのご相談ですか?」
「そうなんです。メルクが急な用で王都へ行くことになって……アリスちゃんを中心として冬支度を――」
「違いますよマリアさん! マリアさんたちが中心にやらないと来年も困ることになるんですからっ!!」
「冬支度初心者なのでアリスさんが色々と教えてくれます」
フォンがしゃべった……。
ロランはニコニコと笑いながら頷く。
「薬師のアリスさんですね。薬の出来が非常に良いと噂はかねがね。では奥で相談を承りましょうか」
店先にはたくさんの商品が並んでいるが、ここは大口の話も取り扱いがあるので、奥に商談スペースがいくつもあるそうだ。
「アリスさんの冬支度も一緒になさいますか?」
「お財布は別なので、一緒に頼む物もあるかもしれませんけど、メルクさんが帰って来てからになると思います」
「え、いいじゃない、アリスちゃんも一緒にしたら」
「うーん、私も毎年お願いしているところもあるの。商売をやっている以上そういった不義理はしたくないなぁ」
「アリスさんの考えが至極全うですよ。ただ、もし今年から変更することなどがあったら利用していただいて構いませんから」
はっきりとは言わなかったが、つまり祖父が死んだことにより変更があるならと言ってくれているのだ。確かにそういったことがあれば利用させていただこう。
「とりあえず、倉庫代わりの部屋に棚を作っておきたいんです。その木材の手配をお願いします。作るのはフォンさんです」
「ではでは、一般的な棚のサイズとそれに伴う必要な木材の量を、できればその部屋を見て決めた方がいいですね。この後うちの者を向かわせます」
しっかり使いやすい棚を作っておけば、今後も食料庫として使える。
「あとは、さっさと粉類を手配して、瓶。五人分……どれだけいるんだろう……」
メルクのメモが正直使えなかった。
するとロランが助け船をくれる。
「アリスさんとお祖父様が準備していたものの三倍用意すればなんとかなると思いますよ。それでも足りないかもしれないですね」
「三倍……」
瓶詰め三倍量作るのか。いや、でも作らないと確かに食べるものがなくなる。
「不安だ……後半食べるものがなくなってうちにくるのが不安だよ」
アリスのつぶやきを誰も否定しない。
ロランがそれを見て苦笑する。
「マリアさんたちは冬の間冒険者としての仕事はどうなさいますか?」
「冬は、何かあればするけど……」
「基本宿屋でゴロゴロしてたな」
ロイはうちにごろごろしにきていた。
「なら、うちと契約を結びませんか? 冬の間の狩りをいくつかのパーティーにはお願いをしているんです。後半食料が乏しくなるのはどこも一緒です。狩りに必要な物資を提供して、狩ってきた獲物を半々とするんです。加工もこちらでやりますし」
「へえ、いいんじゃない?」
「メルクに相談すべきだ」
「そうですね、お返事はメルクさんが帰っていらしてからで」
どうせゴロゴロしてるなら、狩りでもしていた方がいいだろうと、皆の気持ちはそちらに傾いていたが、パーティーとしての契約なら相談は必要だ。
「粉類や日持ちのする野菜は早めに用意してしまった方がいいですね。後半になると価格が高騰していきますから。アリスさんはここら辺は個人で買っていたのですか? それなら一緒に準備して納品させていただきますが」
提示された金額が予想よりかなり安かったのでお願いした。いつもは小売店で買って、ロイに運ぶのを手伝ってもらっていたのだ。
あとは薪と瓶。瓶が、ものすごい数になってちょっと引いた。
「棚足りるかなあ……一階にも作れるなら作った方がいいかも」
「棚はあっても困らないからな」
「素人作りでいいなら」
フォンには頑張ってもらおう。
「粉に虫が付かないように避け石は、私が作るからいいよ」
「ああ、アリスさんは錬成陣もお使いなのですね……材料はこちらで揃えますので、うちから避け石を発注してもよろしいですか?」
「えっ、今まで作っていらっしゃった方は?」
こういった大きい商会には、専属契約の人間がいるはずだ。
「実は腕の良い者がいたのですが、先日亡くなりまして。急なのでどうしようかと考えていたところです」
「それは……私としてもありがたいお話ですが」
まあ、避け石に出来不出来はあまりないので実力は問われないのだろう。
「ではそちらはまた後で契約書を。基本材料なども全部こちらで揃えて、後は錬成していただくだけとなります」
保存食は来月辺りから作り始める。今月は薪と、肉だ。
「薪はお願いした方がいいよ」
「そうですね、一応こちらで量を提示して揃えさせていただきます」
これは三倍ではない。基本リビングでしか使わないのだ。
「お金が貯まったら魔力供給で部屋が暖まる魔道具を作る方が、魔法使いが二人もいるんだから絶対いいよ」
「魔力は食いますが、部屋の暖かさは段違いですし、薪は煮炊きに使うだけで済みますからね」
「正直暖を取るために薪なんて使ってられないんだよ……」
「アリスの店はいつも暖かかった」
「うちには魔道具があるの!」
店があるので、どうしても一階にいなければならない。寒いからと言って布団にくるまっているわけにはいかなかった。
「私とおじいで交代で必要な時間に使えるように、魔力を込めてたんだよ」
「言ってくれれば俺が魔力を込めたのに」
ロイが少し怒ってそういった。
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部屋を暖める魔導具……つまりストーブ!!エコです。
 




