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33.条例で禁止されてますからね

「作れる?」

「うん……、錬成陣を持ってると作れるんだけど、本当にそこら辺に落ちてる石を綺麗な石に見せる手法があるのよ。ただし、錬成陣を使う者がこれを使って本物の宝石だと売ることは禁止されてるけど。露店の人も、本物じゃないけど綺麗だろって売ってたでしょ? 彼らは絶対本物だって言って売らないよ。法律で禁止されてるし、これにはかなり厳しい罰則があるから。見つかったら終わり」

 しかも簡単な見分け方がある。水に一日沈めれば元の石ころになる。

「お貴族様のドレスなんかにも、使われるんだよ。本物の宝石はなかなか手に入らないし。それは周知されているし。腕輪は証だから、金銭的な意味なんてないというのならばそこまでだけど」

 腕輪についている赤い石がかなり小さいものなのもポイントだ。

「わかってつけている人もいるけど、明言していないならそれなりの価値があると思っている人も多いのかなって」

 腕輪作りに関わっている者が上層部にいるのだ。もしかしたら一人目の人間なのかもしれない。

「どう、すればいいんだろう」

 絞り出したキャルの言葉に皆、頭を悩ませる。

「みんな善意というか、誰かをはめようと思ってやってることじゃないのが難しいことだな。そのキャルに紹介したってやつも、友だちなんだろう? それにお前が紹介した相手も。最終的には友だちとの間に亀裂が入るかもしれない」

「……あんたたちに紹介してなくてよかった。紹介したやつにはすぐ事情を話してくる。この紙借りて良い?」

「まて、キャル。これは結構難しい問題だぞ? お前がここでこれは破綻する組織だと声をあげるだろう? 上手く続いてたところにその話が届いたとき、恨まれるのはお前だ」

 新しい紹介者が入らなくなるのだ。

「でも……」

「安易にそんなものに参加したやつが悪いだろ。後先考えずに。放っておけよ。キャルだけが悪者になる必要はないだろう。悪いのはそのトップの人間だ」

 とはロイ。割り切り方がロイらしい。

「でも……」

「ちょっと待て。どう考えても悪いのはトップの、上層部の人間だ。楽して金を稼げる方法とかでも思ってるんだろうよ。……会員は王都の方が多いのか?」

「わからない」

「トップの人間に会える機会はないのか?」

「わからない」

 ふうっとメルクが深く息を吐く。

「罪らしい罪を犯していないのが問題だな」

 彼のその言葉に、アリスはそれは違うと声を上げた。

「偽晶石って言うんだけど、これを売買するときは、明確に、これは本物の宝石じゃないと言わなければいけないの」

「へえ。もっと詳しく」

「露店の人たちも、『本物の宝石じゃないが』ってきちんと言って売ってるよ。だけど、綺麗だろう、記念品ならお手頃だろうって言葉もつくけど。今回キャルはこれは会員の証だと言って金銭のやりとりをしているでしょう? キャルに『この赤い石は本物じゃないけど、証としては十分だ』とか、本来は説明しなければならないのよ」

「ふむ……」

 メルクはじっと黙っていたが立ち上がる。

「キャル準備しろ。王都に行くぞ」

「えっ!? 今から?」

「早いほうがいい。新しい会員が増えれば増えるだけ、割を食うやつが増える」

「ロイ、しばらく留守にするから、……お前らで冬支度頑張っといてくれ」

「はっ!?」

「一応簡単なリストは作ったから、それ見ながらやってくれ。後始末とか考えると一ヶ月は普通に帰ってこないかもしれない。ロラン商会のロランさんが色々と教えてくれるって言ってたから、マリアとフォンと頑張ってくれ」

 じゃあなと、アリスの書いた紙を持って、本当にすぐ出かけてしまった。

 残されたアリスはその速さに呆然とする。


「アリス……どうしよう」

 ロイが眉尻を下げてこちらを見ている。

「どうしよう、ね」

 一番しっかり者のメルクが冬支度から戦線離脱してしまった。




 今年はアリスも初めて一人で準備をする。だが、去年一昨年と、祖父の指導のもとアリスがほとんど二人分の冬支度をした。正直、同じ量を準備したら確実に大丈夫だとはわかっている。あとはどれだけ減らしていいかを、数年で探りながら自分の適量を考えようと思っていた。

 のだが、急に五人分の冬支度を一緒に考えるはめになった。


 出かけていたマリアとフォンが合流し、今後の予定を考える。

「保存食はなるべく作った方がいいよ。買うととても高い」

「作り方わからないし~」

「マリアには作らせたくない」

「マリアさん……」

「冬の間安全な食べ物を食べたいじゃない?」

 非協力的でどうしたらいいんだろう。かといって勝手にしろと見捨てることは、アリスにはできなかった。

「役割分担?」

「するするー! 狩り!」

「薪です!!」

 薪は買うこともできるが、集めるのが基本。

「魔道具買うって話にもなってたわよ」

「えっ……高いのに?」

 魔力を供給すれば部屋全体を暖められる魔道具があるのだ。が、とても高い。メルクの渡してくれた冬の準備に薪も書いてあるのだが。

「あら、じゃあ必要なのかしら。薪は乾燥させないとだし、今からとってきて……ロイの魔法ねっ!」

「めんどくせー」

 森の木を勝手に切るのは禁止されている。街が許可した業者が決められた分だけ伐採し、それはもう切って乾燥の過程に入るところだろう。

 森で落ちてたり倒れたりしている木を拾ってくるしかない。

「ちょっと魔法で、倒しちゃえばいいんじゃないの?」

「条例で禁止されてますからね……やめてくださいよ」

 やりそうで怖い。

「正直薪は業者から買うのが手っ取り早い。うちは毎年買ってるよ」

 祖父とアリスという、薪を取りに行くには戦力として微妙な二人だったから。本来薪拾いは子どもの仕事だ。小さな頃はアリスもやったが、店もあるし、冬支度もしなければならないしとなって、結局薪は買っていた。

「お金で大半は解決できるけど、自作の保存食や麺を乾燥させて保存しておく方が断然お金も掛からないし安心でしょう? 作れるって。粉はたくさん買い込まないと」

 粉さえあればハンナのパン屋を稼働できるし、麺も作れる。

「とりあえず一冬越すくらいなら、今から揃えてても悪くならない物から揃えて行こう!」


ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


冬支度の戦力が消え、見捨てられないアリスが頑張ることになりました。

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