28.値段設定間違ったか?
アリスがロロ芋を買い込んでいるのはばれていたので、商品名もロロ芋飴にした。粒を小さくして十個で銅貨一枚だ。今日だけは、店の前にテーブル代わりの木箱を置き、外で売る。
不思議と収穫祭の初日は晴れることが多かった。
去年までは祖父が店内、アリスが外でのど飴を売っていたのだが、今年はロイが外でロロ芋飴を売るという。
「大丈夫? 計算とかは心配していないけど」
どうしても街の中心の広場の方が賑やかなので、こちらはそこまで人は来ない。飴だったので子どもがちらほらとやってくるだけだ。正直暇なのだ。
「じっと待つのは馴れてる」
「獲物を待つのとは違うんだけどなぁ」
街歩き用のラフな格好のロイは、上から下まで黒づくめ。
近所の子どもは知っているだろうが、少し遠くから来た子どもが怯えないだろうか。人相は悪くないが愛想はなく、眼光は鋭い。
「泣かさないでね?」
なるべくアリスも外に出ることにした。客が店の中の商品に用事があるときは一緒に入る。そうしよう。
だが、色々と予想外の流れになった。
「ボクも十個!」
「はい。落とすなよ」
「銅貨一枚ね」
近所の子が気に入るまでは予定通りだ。本当になかなか甘くて美味しい物が出来たのだ。
が、気付けばまったく見たことのない子どもたちが列をなしている。
店の中のことをやっている暇などなく、仕方なく閉店の看板をかけて、アリスがお金を徴収し、ロイが彼らの手に飴を十個落とす。
そして二時間もせずに売り切れ。明日の分もなくなった。麦芽は確かにまだあるが、収穫祭は十日間続くのに、これでは半分で終わってしまう。
「……俺の分がなくなった」
「私だってびっくりだよ! さすがに日程の半分で終わっちゃうのはまずいかなぁ」
収穫祭は街をあげてのお祭りなので、これだけ売れるならば連日店を出していた方がいい。
「ロロ芋買ってくるか?」
「ひと箱が一時間で消えるのに……作るのに半日かかるの」
「労力に見合わないな」
「いくらお祭りだからといってもね……うーん、やっぱりこれはもう、その日の分が売り切れたら終わりにした方がいいかも。中日の二日間休んでもう少し追加して作って、最終日前日まで売れるようにして」
「作るの手伝うよ」
「そうだね、手伝ってもらうかも」
絞るのに結構力がいった。
「値段設定間違ったか?」
「かもしれない。銅貨一枚で五粒なら、もう少し緩やかに出たかな」
「来年はそうしよう」
「やっぱりこれ、来年も作るよね……」
お昼にハンナのパンを食べながら、今後の芋飴の製造方針を決める。
作る手順でロイに力を借りたいところなどを説明した。
「この芋飴、いつ作り方知ったんだ?」
ドキっとするが、事前に考えていた言い訳を述べる。
「おじいの秘蔵のレシピなんだけど、とにかく手間がかかるから、めんどくさがってずっと作ってなかったの。ただ、のど飴もお砂糖使うから金銭的に大変だし、今年は挑戦してみようかなって。そしたら……こんなことになった」
「おじいの……知らなかった」
「若い頃なのかな? 私も聞いたことはあったけど食べたことはなかったよ。ほら、ロイにやってもらいたい、こしたり絞ったりするところ、本当に大変なんだよ!」
「まあ、手伝う。俺の分も作る」
「お高いお砂糖使わなくても甘いのがいいよね」
アリスの言葉にロイは頷く。なんとかごまかせたようだ。
「アリスは祭、いつ行く?」
「見に行きたいとは思うけど、盛り上がるのは後半だから、後半かな?」
「せっかくだし夜行こう」
「ロイはパーティーのみんなと行くんじゃないの?」
「収穫祭まであいつらと一緒に行動する必要はない」
「夜のお祭りは初めてかな。夕方は行ったことあるけど」
「金は俺が持ってれば擦られることもないし」
「あー、たくさん出るって言うよね~」
ロイが念を押す。
「最終日は反対に何ももう売ってないかもだし、最終日前日で」
「わかったよ。売り上げプラスになったらそれで買い物しよう」
次の日からは客層が変わった。
女性がぐんと増えたのだ。昨日はほぼ子どものみだったというのに。
そして一回ずつのやりとりが長い。
「大人は五つで銅貨一枚」
何を思ったか、ロイがとんでもないことを言い始めて、止めようとしたが女性は素直に五つもらっている。
「子ども用だからな」
「そんなことより、ロイ、今日の夜一緒に祭りにいかない?」
お金を受け取る係のアリスには目もくれず、彼女たちは同じことを繰り返す。
「忙しいから無理」
にべもない言い方に怒るでもなく、女性たちは少しだけ頬を膨らませ、それでも嬉しそうに去っていった。
ということで、今日の分は少し売れるのに時間がかかった。子ども混じるが、ほとんどが女性。たまに、フォン。
「これ、すごく旨い」
「うん。気に入ってもらえてよかった」
翌日は、子ども限定にしました。
売り上げ的にはいいのだが、本来子ども狙いの商品なのだ。
しかも女性たちはロイと話をしたいのか、なかなか立ち去らない。列の長さがさらに延びて、近隣に迷惑になりそうだったので、思い切って子どもにしか売らないようにした。
かなりご不満な声が聞こえて来たが、ロイが蹴散らしていた。
「子ども用の物を欲しがるな」
ロイに一蹴され、途中から女性が来ることはなくなった。どこからか情報は回るらしい。これでやっと本来の購買層にロロ芋飴が届く。
三日目まで売り、四日目は芋飴作り。ロロ芋を買おうかとも思ったが、トシが本当に芋が余っているというので、一日目の夜にお芋をくださいとテーブルにメモを置いておいたら、二日目の夜に紙の箱いっぱいに芋が詰まっていた。
麦芽は多く作ったので足りる。
なんとか最終日前日までやりくりできそうだ。
「ロイ、本当にありがとう。これ、毎年はちょっと大変だ」
「だけど、絶対来年も期待される」
「ううん……日持ちもそんなにするわけじゃないから、収穫祭前にお手伝いを頼むしかない」
「たぶん、フォンなら手伝ってくれるんじゃないか?」
来年の相談をしながら、芋飴をこれでもかと作った。
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作り方本当に大変そうでした。