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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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23/97

23.明後日から台風が来るのよ

 ロイたちがミールスに拠点を持つことになり、その準備に追われている間に、夏が終わろうとしていた。

 たまに素材を取りに行く。フォンがついてくるようになり、中級素材もかなり楽に確保できた。というのも、魔物を避けなくなったからだ。スウェンとハリーが二人で普段の三倍の量を採ってきたように、フォンがいると三倍近くの素材がとれてかなり助かる。

 お礼に低級回復薬を渡すようにした。スウェンたちと同じだけだ。

 最初ロイが固持したが、そうなるとフォンも受け取ってくれないのだと言いくるめて受け取らせた。

 そして、冬になる前にもう一仕事と、商隊の護衛で王都に向かったのが一昨日。

 アリスは今日も昼を倉庫の向こうで過ごしている。


「トマトの収穫も終わりですか?」

 段々と準備されるトマトが小さくなっていく気がする。

「そうね、表のトマトは終わりかしら。あと少し。でも、ビニールハウス内ならまた作れるし、作るつもりよ。トマトは身体にいいからね。年中食べたいわ」

 ビニールハウスの中はさらに進化していた。テーブルの下には石のタイルが敷かれ、ホースとやらが伸びて水も確保されている。コンロも二つに増えている。

 今日はカボチャの煮物を一緒に作った。甘塩っぱくて美味しい。

 スミレはさらに、クリームチーズとカボチャのサラダを作ってくれていた。横で見ながら分量をメモしている。

 最近はこうして料理を教えてもらいながら、こちらの世界の本に触れることが多い。

 漫画というものが面白い。難しい文章よりも、漫画で色々なことが語られている。今はひみつシリーズがお気に入りだ。


「そうそう、アリスちゃん。もしかしたら万が一があるから、このブタちゃん持って帰っておいてくれる?」

「え?」

「あのね、明後日から台風が来るのよ。直撃ではないけど、かなりの雨風になるの」

「台風って、危ないって……」

 『天候のひみつ』で読んだ。

「ちゃんと備えれば大丈夫よ。ここら辺はもともと被害は少ない方だから。海辺よりは雨風はそこまで酷くないし、土砂崩れするような場所でもないの」

「ただなあ、ビニールハウスは飛ばされちまうこともあるんだよ」

「予報ではかする程度みたいだけどね」

 かする程度。だけど、ブタちゃんを持って行けということは……。

「ビニールが吹き飛んで、ここがやられたらこっちとの繋がりも絶たれるかもしれないだろう?」

 困り顔で言うトシに、アリスは目を見開く。

「そんな顔しないで、アリスちゃん。ずーっとはないんだから」

「だけど……」

「テレビも言ってたから、ここら辺の被害はそうでないって」

「だけど…………」

 二人は割り切っている。アリスとのこのひとときは、ひとときでしかないと。

 だが、アリスの小さな世界の中で、トシとスミレの存在は、この短期間でかなりの部分を占めてきているのだ。


 


 ぱたんと扉が後ろで閉まる。

 腕には可愛い可愛いブタちゃんがある。いつの間にかずっしりと重くなっていた。

 もともと無駄に何か買ったりするタイプではない。あるとすれば素材くらいだ。まだ上級回復薬の素材の補充は終わっていない。それを買えばこのブタちゃんも半分くらいの重さになる。

 トシに言われてから、こちらでもきちんとお金を貯めていた。

 だから、実際ブタちゃんを失っても、まあなんとかやっていける。トシたちにもそう言って、ブタちゃんに金貨を入れていたのだ。

 それを万が一を考えて持って行けと言われて、想像以上に動揺している自分がいた。

 とにかく、このかわいさから中身を知らない人にも狙われそうなので、寝室へ置きに階段を上がる。


 マンガは、子どもにもわかりやすく、簡単にかみ砕いて描かれているんだと、トシが言っていた。前提の物事がわかっておらず、理解ができないときは、スミレが丁寧に補ってくれた。

 アリスのお気に入りは人体について書かれたものだった。概ね、あちらの世界とアリスの世界の人の身体のつくりは同じように思えた。


 つまり、とてもわかりやすく描かれたものなのだ。


 とてもわかりやすく『天候のひみつ』の中で、台風の恐ろしさについてもページが割かれていたのだ。



 今日は朝から人がひっきりなしだった。

 二日酔いの薬や、ちょっとした傷薬。低級回復薬を使うほどでもないやつだ。近所の子どもが転んで泣きながらやってきたら、傷の処置をしてあげるしかない。だいたい親が後からやってきて、食べ物を置いていく。咳が酷いと咳止めの薬も調合した。

 久しぶりに回復薬以外を山ほど作った。


 そうやって忙しさにかまけているうちは、忘れていられるのだが、人の波が引くと、後ろが気になる。倉庫が気になるのだ。

 

 一つ確かめる方法はわかった。

 ノブに触れると雷の精霊のいたずらがあれば、まだ繋がっている。

 ことあるごとに触れて、感触を確かめてしまう。


 ちょうど来ているときだと危ないから、二日くらいはあちらに行かないようにと言われてしまったのだ。

 扉の前で何度も逡巡してしまった。

 触ってぴりりと来なかったとき、しばらく立ち直れないかもしれない。


 結局一日ばたばたとしていた日だった。

 カボチャとクリームチーズのサラダと、パン、スープで一日を終えて、早めに寝た。布団にくるまり、無理矢理目を閉じてあと一日過ぎるのを待とうと耐えている。


 が、どうしても気になる……。気になってしまう。


 アリスはランタンを持つと、階段を降りた。


 倉庫の前に立つと、そっと触れる。ぴりりと指先がしびれる。

 ノブを掴む手に力を込める。そして思い切って引くと、大音響に包まれた。


 外は真っ暗。太陽の上り下りは大体同じなのだ。一日も同じスパン。アリスの世界が夜中だったのでこちらも完全なる夜中である。

 バリバリと大きな音がビニールからする。あまりの音に耳を塞ぐが、片手はランタンなので難しい。さらに、ビニールがバタバタと形を変える。あの柔らかい素材。どうやら風に翻弄されているようだ。

 台風。

 『天候のひみつ』で知った情報しかないが、時には屋根が飛び、家が飛ぶ恐ろしい災害。トシとスミレが住んでいるニホンは、その台風の通り道になることが多いそうだ。

 

 と、ひときわ大きな音がした。そちらにランタンを向けると、何かがはためいている。

 暗くてよく見えないのだ。

 畑を踏まないよう、そちらへ向かうと、水しぶきがかかる。

「えっ!?」

 雨が吹き込んでいる。

 そんなはずがない。だって、ビニールは雨を通さないと。

 つまり――

「破れたの!?」

 家が飛ばされるくらいだ。ビニールハウスも飛ばされる。アリスの世界とここが、どういった法則で繋がっているのかはわからないが、ビニールが飛ばされたら、空間が消える気がした。

「やだ、ダメ!」

 バリバリとまた反対で音がした。


 それはダメだ!

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


ひみつシリーズは私も好きでよく読みました。

漫画タイプのものでぱっと思い出せるのが、星座と妖怪。山姥とか。

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