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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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22/97

22.私のお嫁さんにならない?

 大量の酒と甘味を抱えて、メルクとマリアが入ってきた。

「とっっっても良い匂いがする!」

 マリアが思いきり深呼吸する。

 昨晩帰ってきたロイとフォンに宿屋で出くわしたそうだ。そして、二人から良い匂いがすると、謎の嗅覚を発揮した。

「チナ鳥とかー! 私も行くのにっ!」

「マリアはいつも、仕事が終わった翌日は一日宿で寝て過ごすからだろう」

「でも、チナ鳥となれば別っ!」

 メルクは椅子も持ってきていた。どこで調達したのかと思えば、実家から今日だけ拝借してきたという。

「キャルも誘いにいったが、あいつは友だちと飲み過ぎて寝込んでいた」

 出かけるのは無理だと思うと、親が言っていたらしい。

「えー、ロイたちまだなのー? 私はお昼も抜いてるわよ」


 家のテーブルは広い。そこが作業場にもなるので、店舗奥のキッチンスペースのほとんどを使っているといっても過言ではない広さだ。二人増えたところで問題はないと思っていたが、それなら量が足りないかもしれない。

「俺たちが増えるならパンを買って行くといっていた」

「麺でもいいんじゃない?」

「じゃあマリアが作れ」

「私の料理を食べたいと?」

「すまん……俺が浅はかだった」

 二人は食べていないから、追加でまだ残っていたチナ鳥をオーブンで焼いてもいいかもしれない。ロイとフォンが来てから聞いてみることにする。


「アリスちゃ~ん、私、もう我慢できないわ?」

 小首を傾げて可愛く頼まれてしまった。

「マリア……、とってきたのはロイとフォンだ。せめて来るまで待て」

 といいつつ、メルクもコンロが足りなくてテーブルに置かれたシチューに釘付けだ。

 今は午後三時。今日は昼からもう閉店の看板を出している。

 ゆっくり、早めに食べ出して、夜遅くならないうちに解散だと思っていたが、これは叶わないかもしれない。

 飲まない自分のために果実酢を素材倉庫から持ってくるべきか。


 どうせすぐ来るだろう。昼抜きの人に、目の前のこの良い匂いは辛かろうと、アリスは皿に盛り付ける。五人、お皿の数もスプーンやナイフもギリギリだ。トマトの煮込みの方は、この後麺を小さく作って、茹でてから入れるつもりだ。

 作業をテーブルの隅でしている間に、クリームシチューを食べていてもらおう。

「今回のシチューは、謎に上手くいきました」

 そう言って二人の前に皿を置く。

 謎じゃなくて、スミレの魔法の調味料、ルーのおかげだ。

「!?」

 マリアが一口食べて目を見開く。

 その反応はわかる。アリスも味見をしてびっくりしたのだから。

「本当に、旨いな、これ。ミルクだよな?」

「ミルクと、お肉のうまみと、あと、粉でとろみをつけたり?」

「チナ鳥のせいかこれは……」

「たぶん? 私もここまで美味しいのは初めてです」

 おいしさはチナ鳥のせいにしてしまおう!

「なにこれ~最高じゃないのよお」

 マリアが旨さに震えている。

「パンをつけて食べても美味しそうでしょう?」

「絶対美味しい! 早く来ないかしらあの二人」

 シチューは今日中に食べきらなくてもいいだろうと、多めに作ってあるので、食べ尽くされないと思いたい。


 代わる代わる美味しい美味しいと言ってる二人をよそに、アリスは麺作りを始めた。

 生地はすでに作ってあるのだ。

 そして、タマネギに似た赤ケーパをみじん切りにしたものと、市場で買った肉の切れ端を集めたものを、炒めた。これが具になる。

 生地を台の上で薄く伸ばし、四角にカットする。

 中に具を詰めて、三角に折って、さらにくるりと丸めてその先をぎゅっとくっつける。

 チナ鳥で十分旨みは出ているし、赤ケーパは炒めると甘みが増して美味しい。それに茹でるととろみが出るのだ。くず肉に絡んでとろっとなるのが気に入っている。

「あらなあに、それは」

「あっちのトマトの煮込みにいれるんですよ」

「ふうん……私も手伝おうかしら」

「止めろ! マリアがやるくらいなら俺がやる」

 ということで、メルクが隣で手伝ってくれた。大きな手で、器用にたたんで丸めている。


 あらかたできあがったところで、店の扉が開いた。

 ロイとフォンがたくさんのパンを抱えていた。食べきれないだろうそれは……。

「待ちきれなくてお先してるわ。パンちょうだい」

 差し出された手に、ハンナのパン屋の定番パン、ちょうど手のひらの大きさくらいの、丸いバリバリと固いものを渡す。

「アリスさん、食材の買い出しに行きましたね。いくらかかりました? そこの二人に出させましょう」

「別に大丈夫だよ?」

「いえ、我々がチナ鳥を捕ってきました。そこの二人はただ食べるだけです」

「私も何もしてないけど……」

 結局メルクとマリアが必要以上に金を出そうとするので、きちんとかかった分だけをもらった。

 新しい鍋に湯を沸かし、包んだものをどんどん湯がいていく。穴の空いたレードルですくって、トマト煮込みの中に入れた。最後に軽く火を入れたら、トマトとナスとチナ鳥の煮込みも完成だ。


 新しくテーブルに置かれた煮込みに、マリアが目を輝かせる。シチューを空にした皿を一度洗って入れて渡す。

「おいしいー!」

「この赤いのは前に麺に入っていたものですね。とても美味しいです」

「旨い。アリスちゃんは料理上手だなぁ」

 チナ鳥とスミレのおかげだと思う。

 お代わりは任せておいて、アリスはフライパンにたっぷりの油を入れて、熱した。そこに漬け込んでおいたチナ鳥に、粉をまぶして並べる。

 じゅうじゅうと香ばしい香りが辺りに広がる。


「え、何それ。すごい、良い匂いなんだけど!?」

 ちなみに、粉には細かく削った固いチーズも入っている。これもスミレの提案だ。

 しっかり熱が通ったところで皿に移してテーブルへ。

 最初に出した分が一瞬で消えた。

「やだあ、これもすごい美味しい。お酒に合う!! すごい、アリスちゃん。私のお嫁さんにならない?」

 メルクがむせる。

 アイデアはスミレのものだが、こうやって褒められると素直に嬉しい。

 一つ食べてみると、外はサクサクだし、中は漬け込んでいたおかげでほどよい塩味。じゅわっと溢れてくるチナ鳥の肉汁に、やけどしてしまいそうだ。


 結局皆からのリクエストで、残りのチナ鳥も揚げ焼きに化けた。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


最近のお気に入りは、鶏むねを細めに切って衣をつけて揚げたところへ、粒マスタード、はちみつ、マヨのディップにつけて食べるやつです!

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