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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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20/97

20.フォンの矢は正確なんだ

 森は歩きにくい。が、ロイやフォンは慣れているので、アリスは必ず彼らの通った道を進むようにする。そうすればとりあえずは、変なところに引っかかって足をくじいたりは、しない。

 フォンは弓師だが、斥候の役割もこなすらしく、少し先を常に進んでいた。

「半日以上歩くから、無理するな」

「森歩きで無理はしないよ。キツかったらすぐに言う」

 とは言え、アリスも一人で森の端くらいなら薬草を採りに来るし、歩くのはそこまで苦ではない。

 ただ、森の奥まで行くのが少し、――怖いわけではない。楽しみなわけでもない。この感情に名前をつけるのが難しかった。

「ロイさん、魔物が二体。中型だから、オオカミ系なら矢を使う」

 ロイは目を閉じて指輪に魔力を込めていた。

「……オオカミだな。左を任せる。どちらも一瞬だが固定する。アリスはここに。防御をいつでも使えるようにしておいて」

 素材や金庫を守る防御の魔法は本来は人を守るものだ。ただ、戦闘慣れしていないアリスは使うためには準備がいる。

 素早い動きで先へ行く二人の背中を見つめながら、アリスは手を握りしめ、準備をした。

 ロイはすぐに帰ってきて、手招きをする。

「この場を早く離れよう」

 オオカミはだいぶ先にいた。一匹はさほど外傷はなく、もう一匹は首が飛んでいる。

「フォンの矢は正確なんだ」

「急ごう、血の匂いが流れてる」

 余計な戦いは避けたい。いつもはこのオオカミすら避けるのだが、今日は進む距離が多いのでこれくらいは始末した。

 オオカミは鼻がいいので、避けるにしてもかなり大回りしなければならないということもある。その後も二回、魔物に当たり、最後はウサギを見つけてフォンが矢を放った。

 そろそろチナ鳥の住む場所に来たところで、ロロミの花を見つけた。

 ロロミの花は、アリスの顔ほどあり、蜜袋が甘い香りを放つ。

 採取は、蜜袋に少しだけ穴を開けて、清潔な瓶に流し込むのだ。

「これが、ロロミか。初めて見た」

 フォンが赤い花弁を物珍しそうに眺めている。

「上級回復薬の素材の一つで、この瓶一つ分で金貨三枚するの。売るのはもう少し安いだろうけど」

「……俺も取っていくべきか?」

「一つから一瓶くらいしか取れないから、もう一つ花を見つけたら採取用の瓶をあげるわ」

「いや、アリスさんが持っていけばいいよ」

「上級回復薬はほとんど出ないから、二瓶はいらないの」

 上級は、高レベル冒険者のお守りのようなものだ。それを使う事態が死地にあるということだ。

「フォン、チナ鳥だ」

 ここは細い川の近くで、その向こうに虹色の毛並みが見えた。

 チナ鳥の肉は焼いても煮込んでも最高に美味い。どんな料理下手でも素晴らしいおもてなし料理ができると言われていた。

 が、生息地が森深くの川の近くでなかなか捕りに向かうのが難しく、とても、凶暴だ。

 体の大きさはそれほどでもない。細長い首と、丸々とした胴体部分。アリスが片手で抱えられるほどだ。

 だが、細長い足の先に、とても鋭い爪がある。近接は危険だった。さらにはだいたい五羽ほどでまとまって行動し、一匹でもやられると、逃げるのではなく向かってくる。

「二体撃つ。向かってきた三体のうち一つはこちらに来る前に魔法で仕留めろ」

「了解」

 基本フォンが指示する。

「アリスさんは少し下がって、もしものために防御の準備を」

 言われた通りに少しだけ下がる。

「行くぞ」

 二体撃つというのは、一体を撃って、向かってきたところをもう一体だと思っていたのに、まさかの矢を二本つがえた。

 ヒュンと空を切る音がして、二体が倒れる。他三体がけたたましい鳴き声をあげた。

 ロイの指輪がふわりと魔力をまとうと、川の水がしぶきを上げながら、何本もチナ鳥へ向かう。先端が細く針のようになった水の柱が、一番水辺にいたチナ鳥を襲った。キケーッと声を上げた瞬間、首を貫き、弾けた。

「欲張るな!」

 さらに飛び上がったチナ鳥を追撃しようとするのを、フォンが止める。

 フォンはすでに弓を背負い、ロイのものより短い剣を抜いていた。ロイもそれにならい、片手剣と言われる一般的な長さの剣を抜く。

 また新しくなっている。


 ロイが冒険者を始めたのは二年前。十四の時だ。それまでは森の浅い部分で狩りをしていた。祖父と一緒に素材採取にも出かけた。祖父も魔法も剣も使えた。なぜ冒険者をやめたのかと言われるくらいには強かった。

 今のロイを育てたのは祖父でもあった。

 

 宙から鋭い爪をこちらに向けて降りてくるチナ鳥を、二人は余裕で避ける。ロイが剣を横に払うが、チナ鳥は風魔法を少し使う。空中で急に向きを変え、それを躱した。

 アリスは木の陰に隠れてそのやりとりを、息を凝らしじっと見ている。

 フォンはとても身軽だ。避けたついでに石を二発投げる。それを風で反らして逃げた先にまた石が飛んだ。

 左の羽根にあたり、一瞬揺らいだチナ鳥の足が一本消える。

 痛みから出た鳴き声にもう一匹がフォンに襲いかかろうとするが、地を這うツタが突然チナ鳥の足に巻き付く。ロイはその瞬間チナ鳥の身体を剣で突き刺した。

 そして片足を失ったチナ鳥は、そのロイを見ている間にフォンにもう片足を吹き飛ばされ、首を失っていた。


「ロイさん、胴体部分を傷つけたら肉の質が落ちる。せっかく細いんだ。足か首を飛ばせ」

「……はい」

 ロイは手早く羽根をむしり、首と足を切り落としたあと内臓を取り出した。そして、獲物を入れる袋に放り込んでいく。

 さっさと捌いてこの場を離れなければならない。その作業をしながら戦闘のダメだしが行われている。何もしていないアリスはちょっと居心地が悪い。

「水の柱も一つでいい。いくつも出すなら相手の行動を制限するような動きでなくてはならない。どいつもこいつも首を狙いにいってるのが丸わかりだ」

「……うん」

「得意が風だから他の魔法の精度がどうしても下がってしまうんだろう。しばらく風を使わずに他の属性を伸ばすことも考えた方がいいかもな。今回みたいな風の加護を受けた魔物相手に、手数が急に減る」

「やってみる」

 ロイの答えは簡潔だが、深く考えこんでいるようだった。


「さあ、野営が出来る場所を探そう」

 手早く片付けるとその場を離れる。戻りつつ、急な襲撃にも対応出来そうな場所を探す。森の深い場所だ。夜はさらに見えにくくなる。二人は暗視の魔法を使っているというが、アリスは使えない。早めに落ち着ける場所を探さなければならなかった。

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高級鳥みたいな。

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