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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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16.私はお金を出さない

 キッチンで、キュウリとショウガの油で和えた物をつまみに、イライザは持ってきた酒を飲んでいた。

「この緑のとすごく合う。美味しいわ」

「それはよかった」

 ハンナのパンを買ってきていたので、トマトとキュウリとこちらで買ったチーズとハムを挟んで出すと、珍しそうに見た後、美味しい美味しいと言って食べていた。

 ハンナのパンは、スミレのパンと違って固いが、その分薄く切ることができる。スミレのパンは最初から薄く切ってあったが。


「なに、最近料理に目覚めたの?」

「そんなわけじゃないけど……美味しい方がいいなって」

「それは絶対そう。間違いないわ」


 そう言いながら、金貨を八枚、テーブルに置いた。

「はい、約束の金貨八枚。今回も結構な量がとれたの。いやー、儲けたわ」

 アリスは自然な動作でその金貨を縦に積む。


「よかったね。おばさんたちにも勧めた?」

「ううん。実家は基本金ないから。まあ、私が稼いだ分あとで渡してあげればいいかなってさ」


 イライザの実家も子だくさんだ。

 一人っ子なのはアリスだけだ。街暮らしでは子どもが一人の方が珍しい。


 やっぱりイライザは優しい。

 そう思った。


 コップの酒をぐっと飲み干す。

「で、さすがに金を換金しすぎて、ばれつつあるのよね~。金脈があるってことが。で、ドーザさんもさすがにもうそろそろ隠し通すのは難しいだろうって、大々的に事業にするつもりらしいの」


 ドキっと胸が跳ね上がる。


「今はあの山は誰の物でもない場所でしょ? ギリギリ王都の土地って認識かな。誰かに横取りされる前に、貴族を担ぎ出して占有権を得ようって話になってるのよ。今度は倍になるとかいう話じゃないのよ。事業に出資した額に応じて、配分が決まるの。どう? アリスも出さない?」

 金貨の上に置いた指を動かせない。

「最低金貨十五……いや、二十あれば、ひと月ごとの決済で金貨五枚くらいは返ってくるはずよ。四ヶ月で元が取れる。あとは店で薬売ってるだけで毎月金貨五枚がはいるんだから、すごいと思わない?」


「それは……すごいね」

 ドキドキと、胸の音が耳の側で鳴っているように感じる。


 カモだ。

 詐欺だ。


 トシの言葉が頭の中をぐるぐるする。

「どう? 最近お客さん増えてるんでしょ? 聞いてるよ~。金貨二十枚で次五枚、三十枚ならもっと」

 金貨の上に置いた指が震える。


 『事業拡大』『二十枚以上の金貨要求』


 長年付き合いのある幼なじみだ。

 アリスをいつも元気づけてくれた、大切な友だち。


 金貨八枚をすっと握りしめると、アリスはそのまま素材倉庫に行く。自分がかけた防御魔法なので、なんの問題もなく、金庫という名の木箱に金貨を納めた。木箱の中には、最近回復薬がよく売れたので、結構な額が入っていた。

 アリスは改めて防御魔法がきちんと発動しているか確かめる。


 キッチンに戻ると、イライザがご機嫌で残りの酒を飲み干していた。

「持ってきてくれた?」

「ごめんね、イライザ。明後日の、午前中に来てくれる? 金貨三十枚にはちょっと足りないから」

 アリスの返事に、イライザはぱっと顔を輝かせた。

「わかった。明後日ね。金貨三十枚なら、毎月七枚か八枚は還元されると思うよ!」

 アリスは、笑顔を貼り付けたままなんとかイライザが帰るまで耐えることができた。




 

 カランと来店を告げる音がした。

「アリス、来たよ!」

「いらっしゃい、イライザ」


 笑顔で入ってきたイライザは、店内に人がいるのに気付いて少し顔をしかめた。

「お客さんがいるなら後にするよ」


 そういって踵を返すので、アリスはその背中に向かってはっきりと宣言する。

「イライザ、あの件はお断りするね。私はお金を出さない」


 ピタリと歩を止める。ゆっくり振り向いた顔が、こわばっている。


「どういうこと?」

「これまでの分で十分だよ。金貨二枚が八枚になった。これ以上はお手伝いできない」


「は? 正気? とんでもない儲けになるんだよ!?」


 思わず出た大きな声に、店内の男が二人の方をチラリと見やる。それに気付いてイライザは声を落とした。

「四ヶ月で取り戻せる、すごく大きな儲けだよ?」

「うん。でももうこれ以上は出せないかな。金貨三十枚は私にとってとっても大きなお金なの」

「べ、別に三十枚じゃなくても、二十枚でも十分な儲けに……」


「イライザ、私はもう、この件に出資はしないの」


 はっきりと言うと、口をゆがめて拳をふるわせている。

「なんで怒るの? イライザ」

「あたしは、アリスのためを思ってこの話を持ってきたのに」

「そうだね。でも、十分儲けさせてもらったよ、イライザ。私はやっぱり地道に稼ぐ方が性に合ってる」

「地道に稼ぐ分はこれからも稼いでいけばいいでしょ? それとは別口の収入源を持っていればいいじゃない」

「イライザ……」

 彼女は後に引けないのだ。


 トシやスミレの言うとおりなら、ここで引いたら金貨六枚の損だ。


 金の話なんて嘘で、ここまで金貨を増やしてきたのはイライザだ。

 今のアリスならそれがわかる。


 それでももしかして、もしかしたら、本当の話かもしれない。それなら秘密裏に行っていることだから、誰彼構わずことの真偽を尋ねるわけにはいかなかった。

 もしかしたら、本当に金脈はあるのかもしれないのだから。


 だが、それもこの反応で嘘なのだろうと、さすがのアリスにもわかってしまった。


 あんなに優しかった、イライザが、自分をはめようとしていたなんて信じたくなかった。


「ごめんねイライザ。何度言われても私はお金を出さない」

 その強い意志を感じたのか、イライザは舌打ちをして出ていった。

 はあ、と大きなため息をつく。

 心臓がドキドキ音を立てている。


「すみません。助かりました」

 アリスは店内にいる男に声を掛ける。

 彼は、よく手を振ってくれる門兵だ。

 イライザに強く押し切られたら困る。アリスは、それをはねつける自信がなかった。誰かに来てもらいたいが、女性よりは男性の方が抑止力になると思い、考えた末に頼んだのが門兵だ。

 しかも理由をほとんど話していない。

 申し訳ないが、少し面倒ごとが起こるかもしれないので、今日、午前中、開店してからしばらく店にいてもらうことはできないかとお願いした。

 彼は快く了解してくれた。むしろ誰が行くかで揉めていた。何人もだと目立つし、一人でいいということで、彼が来てくれたのだ。


「事情はよくわからないが……ちょっとよくない感じだね」

「……はい」

「お金がらみの事件はよくあることだけど、十分身辺に気をつけてね。街を巡回する兵士に、このあたりをよく見て回るようには言っておくよ」

「ありがとうございます」

 見送って、開店の看板を閉店に差し替える。


 カウンターに座って、はあ、と大きなため息をついた。  

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


投資詐欺でした……

まあここまで簡単なのは平民同士の口約束だから。

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