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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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14.めんつゆは神の調味料

 定期的に中級回復薬が売れるので、かなり余裕が出来た。嬉しい限りだ。

 これならわりと早く、使ってしまった分の上級回復薬の素材を買いそろえることができるかもしれない。


 最近は昼休みの時間を倉庫の向こうの世界で過ごしている。

 二人とおしゃべりしていると、気付きが多い。

 お金のこともしかり、生活もしかり。二人がまさか六十歳以上とは思わなかった。


「そっちの平均寿命はいくつなんだ? 日本は六十なんてまだバリバリ働かされる年齢だからなあ」

「私たちは早期退職したからね。若い頃よく働いてため込んだし、親のこの土地があったから思い切れたのよ。今はゆっくり田舎暮らしを楽しんでいたんだけど……やっぱりちょっと退屈だったみたい。アリスちゃんが来てから生活に張りが出てるわ」

「アリスの食べっぷりが良いのもあるな。スミレさんが最近また新しい料理に手を出してる」

「若者のニーズに合わせていかないとね」


 今日も菜っ葉とじゃこのおむすびが美味しい。

 米という食材が、アリスの世界にないのが残念だが、今日も新しいおかずを教えてもらった。


「それにしても、キュウリがちょっと多すぎて困るわね。来年は少し減らさないと」

「出来たもんは食わないともったいないからなぁ」

「キュウリは美味しいのに」

「美味しいんだけどな、夏野菜は育つスピードがすごい」

 ロイが美味しいと言っていた。アリスも美味しいと思う。


「もらって行ってもいい?」

「もちろん。アリスちゃんを実験台にしたみたいで悪いけど、こちらの食材を食べてもなんともなさそうだし」

 ということで、あまりにあまったキュウリとオクラとトマトをいただいた。


「オクラは、醤油と相性がいいからね。どうしましょう。あちらで出来るいいレシピがあるかしら?」

「鰹とめんつゆで和えるだけで旨いが、めんつゆがなぁ」

「めんつゆは神の調味料ですもんねえ、ちょっと待ってね」

 スミレはそう言って、ポケットから四角い小さな板を取り出しなにやら触っている。


 この世界には神が与えし調味料があるのか。


「これなんか良さそう。アリスちゃん、チーズってある? 柔らかめのクリームチーズならなお良いんだけど……あるなら、ちょっと待っててね」

 そう言って伝授されたのが、塩ゆでしたオクラを斜めに切って、トマトもころころと切り、さらにクリームチーズを適当な大きさにちぎった物を、油と少量の塩で混ぜた物だ。


「コショウがあるならなお良し、かしら」

「これもなかなか旨いな。酒に合いそうだ」

「クリームチーズと日本酒は合う物も多いですしね」

 メモをしっかり取って、そろそろ昼休憩も終わる時間だ。

「いつもたくさんのご飯をありがとうございます」

「おうおう、また来い。スミレさんが喜ぶ」

「トシさんも喜んでるくせに。ふふふ。またお話聞かせてね」






 午後からは客のいない間はせっせと先ほどもらった野菜を調理した。先日ハンナに立ち会ってもらったので、お礼をしたいなと思っていたのだ。が、普通の料理ならハンナの方が断然上手だ。アリスの料理はお腹が膨れたらいい料理でしかなかった。


 スミレに少し教えてもらって、調味料を入れるタイミングなどを学んだ。調薬とかわらない、それなりのルールがあることに気付いた。


 最近は四時には店を閉める。夏なのでまだまだ日は長いが、五時を過ぎれば通りの店もほとんど終わるので、アリスもそれに倣うことにした。

 木のボウルにトマトとチーズとオクラの和えたものを入れて、店を出る。チーズはそっくりな物があると言ったら、じゃあもうこのまま持って行きなさいともらってしまったものだ。


「あら、アリスじゃない」

「こんばんは。この間はありがとう。お礼になるかわからないんだけど、これ」

 差し出したボウルを見て、ハンナが首を傾げる。

「変わったお野菜ね」

「珍しいでしょ。でも食感が面白くて美味しいよ」

 ハンナはオクラを指でつまんでパクリと食べた。

「あらホント、プチプチする。でも美味しい。ちょっとまってて」


 奥に引っ込みすぐ戻ってくる。手には大きめの皿があった。

「全部あげる」

「あらいいの? ごちそうになるわ。これ持っていって」

 丸いパンが二つ出てきた。


「お礼に持ってきたのに……」

「今夜のパンになさいな。ありがとうね」

 本当はキュウリも渡したかったが手が足りなかった。また明日持ってこよう。素材の倉庫に置いておけばいい。

 せっかくだし、このパンとオクラで夕飯にしよう。


 そう決めて歩き出し、店の前に人影があることに気付いた。

「アリスー!」

「イライザ……」

 最近は回復薬が以前より売れるようになった。そして、トシとスミレに出会えたことがなによりも喜ばしい。

 金貨ざくざくではないけれど、あの壺は、確かに運をもたらしてくれたかも?




「この赤いの美味しいね。緑のやつも美味しい」

 イライザは遠慮なくトマトやオクラ、キュウリを食べまくる。パンも一瞬で消えた。


 まあ、普段から二食のアリスは、最近昼間しっかり食べているのでそこまで夕飯は食べない。美味しいというなら良かった。


「迷宮はどうだったの?」

「まあまあかなー。迷宮産の品物を売って多少プラスってところ。一緒に潜ったパーティーメンバーがちょっとイマイチだったから」

「でも無事でよかったよ」


「アリスの回復薬があったから助かったわ。補充したい。ちょうだい」

「何がいるの?」

「中級二本と低級一本」

「金貨二枚と銀貨一枚ね」

「えー、幼なじみのよしみでちょうだいよ」

「ダメ。ご飯を食べていくのはいいけど、回復薬は融通しない」


 これだけは譲らない。ロイにもダメだと言われてるし、薬師の仕事で負けたりは絶対にしない。

「ま、いっか。ハイ。お金」

 きちんと渡されたので倉庫へ行き、三本持ってくる。


 イライザは受け取ると腰のポーチへしまった。瓶同士がぶつからないように回復薬を入れる小さな細長いポケット付きのものだ。


「実は迷宮とは別に良いお話をもらったんだ。王都に行く途中にさ、山があるじゃない? あそこに流れてる川から金が見つかったんですって」

「それはすごいね」

「でしょう。まだ誰にも知られてない奥の方にあるらしいんだけど、ただ、取りに行くのにも費用がかかるでしょう? 出来ればなるべく長い間知られないようにしたいんだって。で、口の固い人を集めてるの」

「イライザも行くの? 見つけたらこっそり見せて」


「良いわよ。内緒でね。アリスは冒険者じゃないしお店もあるから取りに行けないのが残念よね。見つけた人がドーザさんって言うんだけど、一緒に行ける人か、行くための準備の資金を提供してる人を集めてるんですって。そうだ、アリスあんた資金提供したら? 基本倍にして返すって話をしてたよ」

「資金提供だけで?」

「道具を揃えたりするのが大変みたい。たまたま渓谷を滑り落ちて怪我をしてしまったときに見つけたから、冒険者としてはまだまだなのよ。つまり、初期費用がない」


 何をするにも前準備のお金がいるのだ。

「大体一週間ごとに街に帰ってきて精算するって。明日から出かけるんだけど、どうする? アリスなら私の幼なじみだってことで口利きするけど。いつもお世話になってるし」

 イライザはこうやっていつもアリスのことを気に掛けてくれるのだ。


「うーん、ちょっと素材を買い足さなきゃいけなくて、あんまりお金がないのよ」


「でも、ほらこの金貨があるじゃない。そうよ、そうしなさい。金貨二枚預かるね。一週間後倍にして返してあげる。金も見せに来るよ!」

 そう言って驚くほど素早い動作で最後のパンを食べると金貨二枚を持ち、もう出口にいる。

「一週間後楽しみにしてて!」

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


めんつゆ最高ですから!!

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まさかのポンジスキームの前段階か?!
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