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11.シルバーランクおめでとう

 アリスはお酒を飲まない。

 薬草の匂いがわからなくなるから、酒と煙草はやらない。

 だから酒場にも行くことはない。

 ロイの試験が終わったあと、そのまま帰ろうとしたらマリアに引き留められた。 

 そしてなぜかアリスも一緒にお祝いに参加することになったのだ。

 あの場にいたのはほとんどがロイを応援する女性と、同じくロイを応援する冒険者だった。かなりの人数がいて、門近くの酒場が貸し切りにされている。参加者は入り口でキャルが金を徴収していた。アリスの分はマリアが出した。

 初めての酒場の雰囲気にあてられて、隅の方で果実酢を飲んでいた。最初はマリアが一緒にいたが、あちこちに呼ばれ、いつの間にか一人になっている。

 ミールスの街はとても大きくて、アリスの生活圏にいない人での知り合いは、薬師ギルドの面々と、神殿の神官、他数名くらいだ。つまり、ほとんど知らない。

 ロイのパーティーメンバーしか知らない状態での参加のメリットはタダ飯でしかなかった。

 ので、ずっとモグモグ食べていた。

 スミレの料理が食べたいなぁと思いながら。

「君がマリアお勧めの、薬師アリスちゃんだよね」

 ロイを応援していた冒険者だ。

「店はどこらへん?」

 そうか、これは、新しい販路を築く集まりだったのだ!

 マリアの意図を理解したと、アリスは店の位置を説明する。

「東区の南西側で、ハンナのパン屋知ってますか?」

「ああ、たまに行くよ。あそこのパンは美味いよな」

「あの道を真っ直ぐ東に行って……」

 アリスの説明に彼らはうんうんと頷いている。もう一つはっきりさせておかねばならない。

「回復薬は負けません」

 一拍置いて彼らは笑い出した。

「聞いてる。トールのやつらがやらかしたんだろ? 命綱の回復薬を値切るなんてしないよ」

「ロイが半殺しにしたって話じゃないか」

「えっ!?」

 アリスがびっくりすると、彼らはそれに驚いた。

「あれ、聞いてない? 門兵もかなりやり込められたって。結構噂になってる」

「まあ、あいつらだけじゃなく、そういったことして金を得ようとするやつがいるのは事実だし、アリスちゃんも気をつけてね。門兵は単なる阿呆だけど」

「アリスちゃん可愛いし、俺らも通うよ〜」

「自然と悪さする奴らが近づけないようになるからメリットしかないね」

「明後日から依頼入ってるし、その前に寄ろうかな」

「よろしくお願いしま……す?」

 影がさしたと思ったら、なんだか険しい顔をしたロイがいた。

 ヒェッと声を漏らして彼らはそれじゃあと席を立つ。その代わりにロイが、隣に座った。ふわりとアルコールの香りがした。

「シルバーランクおめでとう」

「うん」

「飲み過ぎ?」

「少し……」

 冒険者になるならと、祖父が何度か飲むよう促していたのを思い出す。最初は不味いと言っていたのが、いつの間にかグイグイと飲めるようになっているのが不思議だ。不味いものをどうやったら好きになれるのだろうか?

 ちなみに祖父もアリスと一緒で酒も煙草もやらなかった。薬師としては手を付けるべきものではないから。

「魔物討伐とか、やっぱり危険?」

「シルバーに回ってくる程度は、今のパーティーなら大丈夫。それに、森と渓谷あたりがメインになる。首都に行くよりは、ミールスにいるのが長くなるから、まあ、それはそれで」

 やはりブロンズとシルバーではがらりと仕事が変わるようだ。

「回復薬、もう少し多く持っていってね」

「うん、買い足さないと」

 ロイは目を閉じて何か考えていた。

 と、マリアがこちらへやってくる。

「ロイのそれ、寝る直前よ。早く宿に運びましょう」

「えっ!?」

 こんな大きいのが動かなくなったら困る。アリスは慌てて立ち上がり、騒いでこちらにまったく気づいていない皆には悪いが、主役を宿へと引っ張って行った。


 宿の前で何度も送って行くというロイをなだめて、マリアに店まで送ってもらう。

「楽しかったね」

「そうですね」

 美味しくはあったが、楽しいには少し疑問だ。でもなんだかとても楽しそうなマリアを見ていると、楽しくなってきた気もする。

 夜のミールスは昼間の突き刺すような日差しが消え、少し空気が落ち着いていた。

「ロイがシルバーになったら変わりますか?」

「そうね、まず、依頼主が払う金額が上がる。ブロンズ混じりのパーティーと、シルバーのみで構成されたパーティーとでは箔が違う。ロイが気にしていたのはそこね。自分が足を引っ張っているって」

 んん?

「ロイもそう思ってたならなんで昇格試験をもっと早く受けなかったの?」

 実力は十分にあるのだ。足を引っ張っていると思っていたならとっとと試験を受ければよかったのに。

「言ったでしょ。依頼料が上がるのよ。ロイは、この街を離れる気はないから。依頼と依頼の間にも、街の、みんなが受けないような依頼を掲示板から見つけては受けているような子よ? でもそれはもう、シルバーがやるようなことじゃない。依頼内容のランクが上がればそれだけ危険も増える。ロイは……絶対にミールスに帰ってくるっていうのが条件だから」

「皆がいるから、無事に帰って来たいんですね」

 アリスの言葉に、またケラケラと笑う。

「そうよ、皆がいるからきちんと帰ってきたいのよ。さあ、着いた。おやすみアリスちゃん。ロイが言っていたように、朝の開店の時間を遅らせて、夜の閉店の時間を早めなさい。女の子一人が店をやっているのは皆心配している」

 忠告通り、それはそうしようと思っていたので頷く。

「おやすみなさい、マリアさん。ごちそうさまでした」




 朝、アリスはいつも通り起きて、素材倉庫の整理をしていた。ロイに上級をプレゼントすると、在庫を使い切ってしまう。常に上級は作れるように準備しておかなければならないという、祖父の教えを守り、何が足りないかをきちんと把握して、素材屋へ買い付けにいかなければならない。

 それでも、買い付けは明日だ。ロイが明日出発してしまうから、プレゼントするなら今日中だ。

 久しぶりの上級作りに腕がなる。量は一本分、微々たるものだが、使う素材の高価さと、数と量がすごい。上級はぎゅっと圧縮されたものだった。

 慎重に準備した材料がそろうと、陣と釜を準備する。

「さあ、始めよう」

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