第1話 断罪
「シャルロッテ=ストレングスフィールド。貴様を国家転覆の罪で処刑する」
城の最上部から拡声器を使ったように響く第一王子リチャード=サレンダーアバンダンドの発言。さらにそれに沸き、響き渡る群衆の大音声。晴れ渡る空の下。春風が吹き、処刑日和の今日、私、シャルロッテ=ストレングスフィールドは断罪される。無実の罪で。今まで何かそれになりそうなことしたかしら。その前に処刑日和なんて思いついたけど、何それ?まあいいや。昨日は何食べたかしら。硬くなったパンだった気もするし、牢獄の床の石だったかもしれないし、土だったかもしれない。少なくともまともなものではなかった。
記憶を辿り、たった1つだけ罪を思い出した。聖女であるサクラ=ファイアーブレイズにデュクシをしたことだ。しょうもない。記憶を遡って今際の際だと言うのにそれしか出てこない。なんでそれなの?罪状は読み上げて貰えないのだろうか。そう思い、声を上げる。
「私の罪状をお聞かせ願えますか?」
王子に詰め寄るような尖った鋭い声で私は聞く。リチャードは「俺の婚約者を誑かし、デュクシなるものやバリアを教えた事だ」と言う。「いや、あんたの婚約者、私ですが?幼少の頃の約束お忘れですか?そうですか」と心の中で呟く。第一、デュクシは誑かしたことになるのか?どちらかというと弄りとかイジメとか言われそうだが、誑かした?誑かすというのは籠絡とか誘惑とかであろう。
デュクシの何に誘惑されたの?私はこの世界しか知らないけど、大昔に存在したと言われているテンセイシャが伝えたデュクシに誘惑の成分は全く含まれていないだろう。王子もデュクシされているのだろうか?
そもそもデュクシが出てくるなんて意味がわからない。大真面目な顔でデュクシとか言ってるから思い切り腹を抱えて笑いそうになってしまった。
「何か言い残すことはあるか?」
第一王子であるリチャード=サレンダーアバンダンドの声が響く。サクラさんは、さも元々婚約者であったかのように近い距離で王子の腕を掴んでいる。しかも勝ち誇ったように遥か高みから私の目を見ている。腹が立った私は口を開く。
「布団が吹っ飛んだ」
猛吹雪が吹き荒れ、急に実体化した布団が王子目掛けて飛んでいく。このぐらいはしないと気が済まない。だって、私、冤罪だもの。でも、これで犯罪者だわ。国家反逆罪。逃れられない死罪。
我ながら愚かな事をしたものだ。サクラさんに嫉妬して、デュクシした事はあるが、2回目からはサクラさんの方から「バーリア。バリアしてるから効きませーん」と煽ってきたり、「やーい、やーい。親父ギャグ言いながら顔真っ赤で草」と煽ってきたりしたのだ。許せる?無理じゃない?2人ともしていることがしょうもないことは今ならわかる。でも、学園にいたのは12歳。
しかも男性達の間で大流行していた遊びなのだ。ちなみに男性の間ではカンチョーも流行ったらしい。もしこれがテンセイシャの広めた乙女ゲームとやらの世界だとするならどこに向けたゲームなのだろう。
せめて来世があるのなら、もう少しましな生き方をしたいものだ。そんな事を考えているとサクラが「デュクシで断罪されるとか草。マジうちらの愛最強」とか煽ってきた。
腹が立ったので、サクラを近くの草原に転移させた。私は魔術の天才だし、剣も騎士団を1人で潰せるレベルで使える。しかも、公爵家はアレクサスルーン王国で計画停電する役割を先祖代々受け継いでいる。最新のAIなるものが至る所に使われており、計画的にシャットダウンしないと暴走する可能性も示唆されている。
さらに、一括停電の魔法が使えるのはウチの一族だけである。本当にこの世界を作った神は何を考えているのだろう。ちなみに公爵家は皆んな私のことを溺愛している。私を断罪する事は公爵家への反逆になる。
つまり、計画停電ができなくなってしまうのだ。しかも、公布もうちの役割だった為、メンテナンスができなくなってしまうのだ。ザマァ。
簡単に滅ぼせてしまう。私1人で国家を潰せるかもしれない。ちなみにうちで1番強いのも私だ。剣は得意ではないと感じているけど、それでも剣だけでウチの人を完封できる。ちなみに本当の聖女は私。
ただの回復魔法なら聖女様(笑)のサクラさんも使えるが、時空間を戻したり、加速したりして治すという回復魔法の本質的使い方は私しか知らない。
言うなれば、祈るだけの奇跡と神の代行者としての聖女の魔法という違いがある。サクラは精霊には愛されるが、神の代行業務は不可能なのだ。
この結果をそのままにしてもいいが、それでは面白くないので、時間差でかかる回復魔法の本質的使い方で時を戻しつつ元の肉体に戻す術式をねる。
落ちてくるギロチンに間に合うように術式自体にさらに加速術式をかける。応用すれば、サクラさんだけをおばあさんにすることも可能だが、ここは相手の思惑に乗ったふりをして戻る。5歳ぐらいまで戻ろうかしら。
私も嗜む程度に悪役令嬢の小説を読む。だが、その話にはどれもデュクシは出てこない。私は「世界初のデュクシ断罪だなぁ」と思いながらこの人生の幕を閉じる。
おやすみなさい。私。眠りに落ちるように穏やかな心で死ぬ。さようなら、1回目の私。