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第三話 ペンダントと小さな少年シオン

 次の日、華奈はいつもと同じように、弟たちとのあわただしい朝を迎え、学校へと向かいました。違うのは、楽しかった昨日の気持ちが胸に残っていることです。


 コスメセットを早く使ってみたいけれど、今日もクラブがあるので、帰りが遅くなります。せっかくつけるのに、短い時間じゃもったいないと思った華奈は、使うのは週末にしようと決めました。

 今日は宿題を終わらせたら、プレゼントでもらった本を読もう。そう考えながら歩いていると、昨日ペンダントを拾った草むらの前までやってきました。


「あ……」


 華奈は拾ったペンダントについて、お母さんに相談していなかったことを思い出しました。


 昨日、宿題が終わった後、弟たちがさわってこわれてはいけないと思い、宿題のノート、筆箱と一緒に、ハンカチに包んだペンダントをカバンに入れました。そして、ご飯の用意やパーティーに夢中で、その事をすっかり忘れてしまっていたのです。

 だから、ペンダントは今もカバンの底に入ったまま──


 華奈が立ち止まって草むらの方を見た時のことです。突然、その後ろの茂みがガサガサと音を立てて動きました。

 びっくりした華奈は、つないでいた幸樹の手を思わずぎゅっとにぎります。


「どうしたの? おねーちゃん」


 幸樹は、突然立ち止まったのが気になったのか、聞きました。


「うぅん、なんでもないよ。行こうか」


 そう言うと華奈は、幸樹の手を引いて少し先を行く京樹を追いかけました。


 もしかして、元の場所に戻しておいた方が良かったかな? とも思ったけれど、時間的にもう戻ることはできません。


(帰る時に様子を見て、決めよう)


 華奈は歩きながら茂みをチラリと見て、学校へと向かいました。


 学校に必要のない物を持っていくのが初めてな華奈は、授業中も休み時間も、ドキドキしたまますごしました。


 そしてクラブ活動も終わり、ようやく帰る時間がきました。華奈はねんのためすぐに出せるよう、ペンダントをスカートの右ポケットに入れてから下駄箱へと向かいます。

 靴をはいて校舎から出ようとすると、ポツポツと雨が降り始めました。


「雨だ……」


 見ると、空は厚い雲でおおわれて暗くなっています。


「朝の天気予報では、雨が降るとは言ってなかったのになぁ」


 雨はどんどん増えて、あっという間に沢山、ザーザーと降ってきました。空の色からも、とてもすぐに晴れるとは思えません。

 カサを持ってきていない華奈は、ぬれて帰った後のことを考えて、少し困ったような顔をしてつぶやきました。


「ぬれるの、イヤだな……」


 すると、突然ポケットがじんわりと温かくなってきました。おどろいた華奈は、自分のポケットを見つめて考えます。そこには先ほど入れたペンダントしか入っていません。


「まさか──」


 まわりに誰もいないことを確認してから、そっと取り出してみました。するとなんと、ペンダントが昨日と同じように光っているではありませんか。


「また光ってる……」


 華奈がペンダントを見つめていると、その光が一瞬だけ強くなり、するとその直後、ザーザー降っていた雨がおさまりはじめました。


「もしかして、わたしの願いを叶えてくれているの……?」


 あっという間に雨がやんだので空を見上げてみると、あつい雲で暗かった空が明るくなっていました。雲に切れ間もできていて、間から青い空も見えています。


(こんな不思議なことってあるんだろうか……もしこのペンダントにそんな力があるのなら、本当に早く返さないと……!)


 そう思った華奈は、まだほんわりと光るペンダントを見ます。すると、まるで何かにとりつかれたかのように目が離せなくなり──


『自分の物にしてしまいたい』


 そんな言葉が華奈の頭にうかんできました。

 それは昨日『ほしい』と思ってしまった時よりもずっと強く、良くない感じがして……。自分の中にとつぜん現れたその言葉に華奈は驚き、怖くなりました。


(コレは拾った物! だから早く持ち主に返さなきゃ……!)


 目をつむってそう強く自分に言い聞かせた華奈は、ペンダントを急いでポケットに戻しました。

 やっぱり元あった場所に戻してこよう。そう決めて、急いでそこへと向かいます。


 青い空がどんどん広がっていき、残った白い雲が少し赤みを帯びてきた頃、華奈はその場所に着きました。公園で遊んでいた子供たちは、もうほとんど帰ったらしく、奥の砂場で小さな子が二人遊んでいるのが見えます。

 華奈は辺りを見回し、誰もいないことを確認してから、公園入り口の茂みに少しだけ近寄りました。


「この茂みの前で見つけたのよね……」


 朝、ガサガサと不自然に動いた茂みを、おそるおそる見つめてみますが、今は風で葉が少しゆれているだけのようでした。


「朝は何か動物でもいたのかな……」


 そう言いながら、ペンダントを元の場所に置くためにしゃがむと――


「おい! お前!」


 突然、どこからか怒っているような小さな声が聞こえてきました。

 華奈は驚いて、慌てて辺りを見回し、声の主を探します。ですが、周りには誰もいません。


「ここだ、ここ! 目の前にいるじゃないか、ちゃんと見ろ!」


 再び聞こえたその声に、華奈はまさかと思いながら、目の前の草を両手でよけてみました。

 するとそこには、とてもキレイな顔をした、金色にかがやく小さな少年が、両手を腰にあてて立っていました。


「見えたか⁈」

「手のひらサイズの……小人さん……?」


 よく見ると、金色にかがやいているのは彼の髪で、長くやわらかそうな三つ編みが、その右肩からたれています。

 服は白地に金の刺繍、金色のボタンがついていて、足首まである赤いマントはそよ風でなびいていて。まるで物語に出てくる王子様みたい、と華奈は思いました。


「小人じゃねぇ! 力が足りなくなって小さくなっちまっただけだ!」


 何やらものすごい怒った顔とその乱暴な物言いに、ちょっと驚いたけれど。なにせサイズが小さいので、怖くはありませんでした。


「小さくなっちゃっただけの……人……?

 私は華奈、あなたの名前は?」


 華奈は興味津々、自己紹介をして小さい少年に名前を聞きました。


「俺の名前はシオン!」


 少年はプリプリと怒りながらも教えてくれます。


「そんなことより、お前! 勝手に使っただろう、俺の力の結晶を!」

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