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第二話 再び光りだしたペンダント

「一緒にご飯、作りたかったなぁ……」


 部屋に入り扉を閉めると、華奈はつぶやきました。けれども仕事ならしょうがない。と、思わずため息を一つ、ついてしまいます。


 その時、昔おばあちゃんが言っていた「ため息をついたら幸せが逃げてしまうよ」という言葉を思い出しました。これ以上逃げたらいやだ。そう思った華奈は、急いで吐いた分の息を吸いました。


「よし、宿題を早く終わらせて、好きな本を読もう!」


 華奈は頑張って気持ちを切り替えようと、言葉にしました。

 そして宿題をやろうと、算数の教科書とノートを鞄から取り出そうとかがんだ時、スカートのポケットに何かが入っていることを思い出します。


「そういえば……」


 ポケットに手を入れてそれを取り出してみると、先ほど拾ったペンダントがほんわりと光っていました。


「また光ってるし、なんだか温かい……?」


 華奈はそれを左の手のひらに乗せ、よく見てみました。

 紐はうす茶色で、頭から被れそうな長さ。トップの部分は華奈の手のひらにすっぽりと収まる大きさで、ガラスのようにツルツルしていて、紐と同じ色の糸で編まれた枠に、しっかりと包まれています。


「こういうの、レジンカボションにマクラメ編みっていうんだったかしら」


 最近、アクセサリー作りにも興味を持ち始めていた華奈は、そのパーツや技術の名前を思い出しながらつぶやきました。

 光っているのは、その透明なカボション。中には、七色の大きなビーズを中心に、ワイヤーで作られた蔦と葉っぱが伸びているようなチャームが入っています。そしてその周りには、キラキラと輝く虹色の欠片が散らばるように入っていました。


「やっぱりすごくキレイ……」


 キレイなだけではなく、その光と温かさから、何か不思議な力のような物を感じた華奈は、思わずカボションを指でそっとなでました。すると──


「光が強く……! あと、どんどん熱くなってる……?」


 おどろいた華奈はそれをノートの上に置き、じっと見つめます。すると光はだんだんと収まっていき、消えました。

 おそるおそるもう一度カボションにふれてみます。しかし、光りは収まったまま、熱も発していませんでした。そして、その表面は、先ほどとうってかわってひんやりとしています。


 なんだかそれ以上触ったらいけないような気がした華奈は、鉛筆の背でペンダントをツンツンと押して、ノートの上から下ろしました。


「びっくりした……何だったんだろう、今の……」


 よくわからないけれど、とにかく宿題をやってしまおうと、算数の教科書を開いたその時、

 トゥルルルルル、トゥルルルルルルルル、

 と、居間の方でまたスマホが鳴りだしました。


「今度はお父さんかな……」


 もしかしたら、お父さんも帰りが遅くなるのかな……。そんな、不安な気持ちを感じながら、華奈は急いで居間へ行きました。そしてスマホを手に取り画面を見ると、発信者の名前には再び【お母さん】と出ているではありませんか。

 どうしたんだろうと思いながら、華奈が電話に出ると――


『もしもしー!』


 お母さんの、うれしそうな声が聞こえてきました。


「お母さん! どうしたの?」

『あのね! 仕事のことなんだけど、期限を伸ばしてもらえたから、今から材料を買って帰るわ。

 できるだけ早く帰るから、宿題をやっておいてね!』

「……!」


 まさかの間に合うという連絡に、華奈の心は喜びで飛び跳ねました。


「わかった! 何か用意をしておくものとか、ある?」

『そうね、一番大きなお鍋に半分くらい、お湯を沸かしておいてくれると助かるわ』

「宿題が終わったらやっておくわ。気をつけて帰ってきてね!」


 お母さんの仕事場から家までは、二十分くらいかかります。お買い物にいつもと同じくらい時間がかかるなら、合わせて一時間以内には家に戻れるはず。そう考えた華奈は、急いで宿題を済ませ、タイミングを見計らって鍋にお湯を沸かし始めました。するとその時、


「ただいま!」


 玄関の方から、少し楽しそうなお父さんの声がしました。


「おかえりなさい!」


 玄関へ向かうと、お父さんは座って靴を脱いでいるところでした。


「お父さん、早かったね!」


 こんな時、いつもならまっさきに弟たちがお父さんの背中に飛びつきます。華奈も、同じようにしたいなと思いました。

 ですが、靴を脱ぎにくそうにしているお父さんの姿を思い出し、少し離れた所できゅっと手を後ろで組んで、話しかけました。


「あぁ、今日はなんだかラッキーだったんだ」

「何がラッキーだったの?」

「仕事は順調に終わって会社を出発したんだが、珍しく電車が故障で止まってしまってな。時間がかかりそうだったから、バスでなんとか帰ろうと、途中の駅で降りたんだ」


 お父さんは靴を脱いでそろえすみに寄せると、立ちあがって華奈を見ました。


「それで、バス停に向かって歩いていたら、お向かいのおばさんと会ってな。おじさんが駅のロータリーに迎えに来ているから一緒にどうですかって言ってくれて。ここまで乗せてきてもらえたんだ」


 良いことばかりが起きているようで不思議だったけれど、華奈は素直に喜びます。


「そうなんだ、後でお向かいのおじさんとおばさんに、お礼を言わないとね!」


 その後、すぐにお母さんも帰ってきて、晩御飯の用意も進み。予定通り無事に、家族での誕生日パーティーができました。

 プレゼントは、一番にお願いしていたかわいいコスメセットと、気になっていた本です。


「コスメセットは学校につけて行かないこと。今日は早く寝ることと、本は宿題が終わってから読むこと。あとは、ご飯とか、呼ばれた時はすぐ来ること。約束してね?」


 パーティーが終わり、分厚い本を持って自分の部屋へ向かおうとした華奈に、お母さんは念を押しました。


「約束します!」


 そう元気よく答えた華奈は、今すぐ読みたい気持ちを我慢しながらも、ウキウキした気分で眠りにつきました。

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