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第一話 可愛いペンダント

 ある日突然、光る草むらを発見したら。きっと気になって「何だろう?」ってのぞきに行っちゃうよね? そして、そこでステキな何かを見つけたら……


 あなたならどうする――?


 夏に入る少し前のある日。十一歳の誕生日を迎えた、村松華奈(むらまつはな)は、クラブ活動を終えて、ウキウキしながら家へと向かっていました。


「晩ごはん、お母さんと一緒に作るの、楽しみだな! ケーキも楽しみだし、お願いしたプレゼントはもらえるかな……」


 膝丈のスカートと、耳の上あたりに、ピンで止められた肩までの黒い髪は、歩くたびに揺れ、まるで華奈の気持ちを表しているようです。

 いつもと同じ帰り道を行く途中、華奈はふと公園入口にある茂みの方を見ました。すると、その手前にある草むらが光っていました。


「なんだろう、あの光……」


 ゆらめく光に、呼ばれているかのように感じた華奈が、近づき草をよけて見てみると、そこには淡く光りを放つペンダントが一つ落ちていました。可愛い物やアクセサリーが大好きな華奈は、それを拾い見つめます。


「……キレイ……」


(この間、お母さんと一緒に行ったお店で見つけたペンダントと、同じくらいステキ……)


 華奈は、そのペンダントを誕生日に欲しい物の一つとして、お母さんに伝えていました。そして同じように素敵なそれを、吸い込まれるように見つめ。思わず『ほしい』と思ってしまいます。


 自分が何を考えているのか、気づいてはっとした華奈は、とてもおどろきました。そして、首を軽く振りながら、その気持ちを自分の中から追い出しました。


(こんなステキな物、落とした人はきっと探している。だからちゃんと届けなきゃ)


 落とし物を持ち主に返すには、交番に届けるのが一番。けれども、ここからそこまでは、かなり遠回りをしなければなりません。とりあえず家に持って帰って、お母さんに相談しよう。そう思った華奈は、ペンダントをスカートのポケットに入れ、家に向かいました。



 華奈には三年生の京樹(けいき)、一年生の幸樹(こうき)という、二人の弟がいます。低学年の彼らは学校が終わるとすぐ、近所に住むおばあちゃんの所へ行き、過ごします。そして、いつもなら華奈のクラブ活動が終わる頃に、おばあちゃんが弟たちを連れて家まで来ますが、今日は違っていました。


 お母さんが電話で連絡するまで、弟たちは帰って来ません。何故なら、誕生日祝いの晩御飯の用意を、お母さんと華奈の二人ですることになっているからです。


 そして、いつも仕事で帰りの遅いお父さんも、今日は早く帰ってくると約束してくれていて。


(一人でのんびり本が読めるのもうれしい時間だけど、お母さんとお父さんと、三人だけっていう時間も何だかうれしいな)


 そういう、どこか特別な感じのする時間が過ごせることも、華奈は楽しみにしていました。


 ウキウキした気持ちのまま家に着くと、華奈は首から下げていた鍵を取り出し、開けて中に入りました。


 するとその時、トゥルルルルル、トゥルルルルルルルル、と、居間に置いてある、家族専用のスマホが鳴りはじめました。華奈が慌てて玄関の鍵を閉めて居間へ行き、画面を見ると【お母さん】という文字が出ています。


 華奈が帰ってくる、このタイミングでかかってきた電話は、買って帰る物の相談か、もしくは……

 華奈はどきどきしながら電話に出ました。


「もしもし、お母さん?」

『おかえり華奈、留守電に録音するつもりでかけたんだけど、もう帰っていたのね?』

「今ちょうど帰ってきたところよ」


 電話から聞こえるお母さんの声がなぜだか少し申し訳なさそうに聞こえる気がして、華奈の心に不安な気持ちが広がります。


『鍵は閉めた?』

「もちろん!」

『偉いわね! ところでゴメンね……お母さん、急な仕事が入っちゃって、予定より遅くなりそうなの……』

「そうなんだ……」


 期待と良くない予感の間でゆれ動いていた華奈の気持ちは、どんどんとしぼんできてしまいます。


『頑張ってできるだけ早く終わらせるから! でも、もし間に合わなかったら、華奈ちゃんの好きなご飯、買って帰るから……ごめんね……』


 電話向こうのお母さんの声に、

(いけない、お母さんが少しでも私のことを気にしないで、早く仕事が終われるようにしないと……)

 そう思った華奈は、頑張って明るい声で返事をします。


「大丈夫よ! 宿題が終わったら好きな本でも読んで、待っているから。お母さんはお仕事頑張ってね」


 華奈は通話を終えると、スマホを元の棚の上に戻しました。そして電話で頑張って元気なふりをした分、しょんぼりとしながら自分の部屋へと向かいます。


「一緒にご飯、作りたかったなぁ……」


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