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7話 バラちゃんの由来


「ハヤシ……今晩ホテルに泊まらない?」


 これは――『男女関係』の誘いだ。


 だが、僕とバラちゃんは付き合ってすぐの関係であり、しかも初デートの後だ。

 

 普通はもう少しデートの回数を重ねてからそういう関係になるものではないのか。


 僕は悩んだ末決断し――


 結果、断った。


「そっか……じゃあね」

「うん……じゃあね」

 

 バラちゃんとその日は別れて駐屯地に帰隊した。

 

「おうハヤシ、どないやったんや初デートは、上手く行ったんか?」

「津山、それがさぁ……」

「ファーーーー(笑) 初デートがパチンコ店とか終わっとるやないかい! 厳つ過ぎるで(笑)」

「本当に参ったよ。でもバラちゃんがさぁ……、……、」


 津山にデートの内容を話した。※但しバラちゃんからホテルに誘われた事は黙って置いた。


「ほぉ、バラちゃんパチンコ詳しんやな。俺もパチンコ打つし、今度一緒に打とうかな(笑)」

()()()と遊びに行こうとすんなよ!」

「おっ! 自分の女呼びかいな。一気に気が強くなったやないかいハヤシ、どういう心境や?」

「別に……唯そう言ってみたかっただけだよ」


 津山にはこう言って余裕ぶってみたが、実際はこの時全く余裕が無かった。

 

 もしかすれば、今日バラちゃんの誘いを断ったから、バラちゃんは他の男を代わりにホテルに誘っているかもしれない。


 バラちゃんはキャバクラで働いているから、僕以外に良い客がやって来たら、そいつになびくかもしれない――などなど、こんな事ばかり考えてしまう。


 そうしてこの日の消灯時間、嫉妬と不安で苛々して眠る事ができなかった。


(早くバラちゃんに会いたい。他の男に取られるくらいなら、どうして誘いを断っちゃたんだろう)


 僕は、消灯時間で携帯を操作するのを禁じられているのにも関わらず、こっそり取り出して、見回りの当直にバレないように、バラちゃんに次の休日にまた会えないかメールした――返事は返って来なかった。


 バラちゃんとの関係は終わってしまった。

 

 その結果、僕は気持ちが絶望して訓練にも身が入らず、教官にも怒られる負の連鎖に陥った――けれど気持ちを立て直すチャンスが起きた。

 

 ある金曜日、やっとバラちゃんからメールの返信が来た。どうやらまた休日に会ってくれるらしい。多分これがラストチャンスだ。


 こうしてデート当日、いつもより念入りに身嗜みをチェックして整えて外出し、待ち合わせ場所のコンビニに行って、ゴムも一応買った。


「ごめんハヤシ、待った?」

「別に、ちょうど仲間と暇潰してたとこだし、気にしてないよ」

「そうなんだ、ということは今日もあのムカつくハゲ(津山)居るの?」

「大丈夫、もうとっくに別れたから。(津山は嫌われてるなぁ)」


 その後、同期と別れてバラちゃんと二人きりになった。因みにバラちゃんは前と同じジャージ姿だった。

 

 それを見て、いつかもっとバラちゃんが僕に気を許してくれたなら、彼女の好みの服を買ってあげたいと思った。


「移動する前にさ、タバコ一本吸っても良い?」

「うんいいよ。それとさ、僕もあれから自分のタバコを買ってみたんだ」

「えっ、どんなの? 気になる!」

「これなんだけど……」

「あ、メンソール系にしたんだ。いいよね。初心者には吸いやすいよ。一本くれない」

「勿論」


 バラちゃんが僕のタバコを咥えた瞬間、すかさず持っていたライターでバラちゃんのタバコに火を付けてあげた。


「ありがとハヤシ……ふぅ〜……あぁ……甘くはないけど、たまにはこういうのもいいかも」


 バラちゃんがタバコを吸ってる横で、僕もタバコを吸った――そして思ったのは、好きな人と同じ物を共有して堪能するのはなんだか気持ちが一つになった気がする。


(そっか……だからあの日、デートの最後にバラちゃんは僕を誘ったんだ。なのに断ったから暫くメールの返信も来なくなったんだ)


 都合の良い解釈かもしれないがそう思った。


「ハヤシ、今日はどこ行く?」

「またパチンコ打ちに行こう」

「えっ、もしかしてハマっちゃった?」

「まだわからない。けど今度はスロットってやつが面白そうだからやってみたい」

「スロットぉ? 初心者には難しいよ?」

「けどバラちゃんはわかるんでしょ?」

「一応わかるけど……私スロット相性よくないんだよね」

「だったらやめてパチンコにしようか?」

「ううん、せっかくハヤシが興味持ってるんだし、たまにはスロット打とう。子役とか目押しは任せといて♪」

「うん(子役? 目押し?)」


 僕達は前回と同じパチンコ店に向かった。


 だが今回は幸運とは行かずに散々負けて、昼にはパチンコ店を後にした。それから、今日のパチンコの反省をしながらタバコを吸う以外やる事が無かった。


「ごめん、僕がスロットやりたいって言ったばっかりに……」

「いいよ別に、こういう運がない日の方が殆どだから、勝ち続けるなんてないよ。だから辞め時が肝心、勝てそうに無かったらさっさと店を出るの。……ところでこの後どうする? もう帰る?」

「……」


 このままだとデートが終了してしまう。そうなれば次は確実にない。けど誘い方がわからない。


 改めて前回のデートの最後が、ベストなタイミングだったと認識できた。こういう誘いは雰囲気が大事なのだ。


「……このタバコ、吸い終わったら帰ろっか」


 タイムリミットはタバコが一本無くなるまで――あまりにも時間がない。こうなったら恥も何もかも捨てて勇気を出すのだ


「あのさ……まだ明るいけどさ、疲れたし休憩しない……ホテルで」

「うん……いいよ。行こっかハヤシ」


 バラちゃんまだタバコが半分以上残ってるのに、さっさと火を消して僕とホテルに向かう準備を始めた。


「あのさ……誘っといてアレなんだけど、ホテルがある場所知らないんだ」

「私知ってるから行こう」

「……(知ってるんだ。誰かと行った事があるのかな)


 バラちゃんの案内で、二人でホテル街へとやって来た。

 

 ここはきっと夜になればカップルがイチャつきながら歩き、ピンクや青のネオンの看板で輝く怪しい大人の雰囲気を醸し出す通りとなるだろう。しかし現在、昼に来みれば、誰一人歩いていない普通の静かな通りだった。


「手繋いで歩こうよハヤシ」

「うん」

「凄い手汗、もしかして緊張してんの? 前の彼女とこういう所に来なかったの?」

「一回だけしか来たことない」

「じゃあ経験も一回だけ?」

「うん……バラちゃんは?」

「……ここのホテル入ろ」


 バラちゃんは質問に答えてくれなかった。けれど、なんとなくバラちゃんは経験人数が豊富なんだろうと察した。複雑な気分だ。

 

 こうしてホテルに入ると、受付にくたびれた姿のおばちゃんが出てきた。そして滞在時間はどうするのか尋ねてくる。


「今日は勿論ずっと居るよね♪ 私、今日仕事休みにしちゃったから」

「えっ……あぁ、うん……」


 バラちゃん今晩僕を逃さない気だ。

 

 しかも眼の前で僕達のやり取りを見ていた受付のおばちゃんは「あらあら、若いねえ。お兄ちゃん良かったらそこの自販機で栄養ドリンクがあるから買って行きなさい」とか余計なお節介までしてくる。目茶苦茶恥ずかしい。


 すぐにおばちゃんから鍵を受け取ってバラちゃんを連れて部屋に入った。


「……」

「……」


 部屋に入って、取り敢えずベットに二人並んで座った。


(このあとどういう流れになるんだっけ? 押し倒せばいいのか? けどいくらバラちゃん相手でも乱暴過ぎないか? 確かK子さんの時はどうしたかな)


 元恋人のK子さんとは花火大会の後、雰囲気がよくて、お互いになんとなくそういう流れになって、自然に進んだ。だが今回は雰囲気も全く無い。


「ハヤシ、汗かいたからシャワー浴びよ」

「あ、うん……お先にどうぞ」

「何いってんの? 一緒に浴びようよ」

「いや、流石にそれは無理! 一人で落ち着いてシャワー浴びたいから、バラちゃん先に行って」

「あっそ……」

「……」


 バラちゃんは不機嫌そうな顔をする。多分また選択をミスしたかもしれない。バラちゃんの僕に対する好感度が下がっていくのを勝手に想像してしまう。


「じゃあさ……シャワー浴びてくる前に、私をちょっとだけ見ててよ」


 バラちゃんは、いきなり僕の眼の前で服を脱ぎ始めた。そして下着姿になって振り返り、僕に背を向けた。


「私さぁ、()()入れちゃってるんだよね……どう?」

「……」


 そう、これが()()()()()()()()――彼女は背中の右に、薔薇のタトゥーが入っていた。


 続く。

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