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6話 ジャンジャンバリバリ、パチンコデート(?)


 二十代前半の頃――僕は自分で言うのもなんだが、酒もタバコもギャンブルもやらない真面目な青年――悪くいえば真面目以外取り柄が無い、つまらない青年だった。


 けれど、バラちゃんと出会ってしまった事で、僕は今まで味わった事の無い刺激的な体験をする。


 まずその手始めがこのパチンコ店での初デートだった。

 

 さて、この時訪れたパチンコ店の外観は地域の中では規模が大きくて、綺麗な雰囲気の店だった。


 だが、いざ店内に侵入して自動ドアが開いた瞬間、耳が悪くなりそうな爆音がそこら中で鳴っていて外との違いに驚愕した。


 そして、客層は老若男女、それから普通そうな見た目の人から、ガラが悪そうなヤ◯ザな見た目の人まで、あらゆるタイプの人が居た。


 特にその客層で印象的だったのが、白髪だらけのお婆さん居て、必死にパチンコ台の真ん中をボタン強くぶっ叩いてる(全く意味ない)そしてハズレがわかった瞬間、今度は台のガラスを強くぶっ叩いて警報が鳴っていた――流石にこの現場を目撃した時はドン引きして帰りたくなった。


 一方バラちゃんはというと、そんなのカオスな状況などお構いなしに店内を移動して進み続ける。さすがに僕だけ帰るわけにもいかない。だから結局僕は内心嫌々ながら、バラちゃんに付き従うことにした。

 

「うーん……この台はダメ……コレもダメ……今日は良い台が無いかも」

「……?」


 バラちゃんは何を見てパチンコ台を判断しているのか分からなかった。なので彼女に尋てみたら、どうやらデータと釘を確認しているらしい。正直だから何って感じで僕は全く理解してなかったけれど、バラちゃんはとても真剣な様子だったので黙って彼女の様子を見守ることにした。

 

「ハヤシ、この台良いかも! 座って! あとはここにお金を投入したら玉が出てくるから、適当にハンドルを捻って打って!」

「こう?」

「もうちょっと加減して調整して……そう、それくらい。それからここの穴(※ヘソ)に入ったら液晶画面が動き出して同じ数字が揃ったら当たりだから。簡単でしょ?」

「うん、そうだね……」

「それじゃ私も隣で打っとくからわかんない事があったら聞いて!」


 こうして暫く二人並んでパチンコとやらを打っていた。だが正直いうと、あまり面白くなかった。なにせやってる事は、ハンドルを捻って玉を打ち続けて、玉がヘソに入った瞬間、画面に映ってランダムに回転する数字をひたすら眺めているだけだからだ。(※だからパチンコを打つ事を、台を回すと言ったりします)

 

「――! ――!?」

「えっ……バラちゃんなに!?」


 バラちゃんが何かを話しかけているが、周りが大音量で全く聞こえない。


「ハヤシ!! 調子はどうって聞いてんの!!!」

「あ……えーと!! 多分ダメなんじゃないかな!! 全く数字が揃わないよ!!」

「ここでやめたら当たんないから!! 頑張って!!」


 何を頑張ればいいのだろう。かれこれこの台に5千円程投資していた。本当にコレは当たりが揃うんだろうか、詐欺じゃないのだろうか。


 『リーチ!!』


「バラちゃん!! コレってどうなの!?」

「ハヤシ!! コレ激アツだよ!!」

「激アツ? なにそれ?」


 キュインキュインキュインキュイン!!!!


 僕のパチンコ台からけたたましい音が鳴り響いて、周りに居る客達が一斉に振り返ってきて僕の台に注目する。そして見守り続けていると、液晶画面に7の数字が三つ揃った。


「やったじゃんハヤシ! これ大当たりだよ!! 今日は勝ち確定!!」


 ジュージャンで負けない僕の勝負運がここでも発揮されたようだった。しかもこの日はなんとバラちゃんも大当たりを引いて怖いくらいツイていた。


 ……。


「すごいじゃんハヤシ! 初めてなのに今日は大勝ちしたじゃん。やるねぇ!」

「だね……てか、パチンコって、打ったらこんな簡単に大金が手に入るんだ。信じられない」

「ま、中々無い事だけどね――てか、ちょっとタバコ吸いたいだけどさぁ、ハヤシも吸っとく?」

「うん、せっかくだしもらうよ」


 喫煙所で二人でタバコを吸って勝利の狼煙を上げながら、今日あった事を興奮しながら楽しく話した。

 

 このときの会話で、「ハヤシは強運の持ち主で凄い、羨ましい」とバラちゃんが言って褒めてくれた。

 

 それで、今まで他人から褒めて貰った経験が無かった僕は、一瞬でバラちゃんの事を再び好きになった――まぁ今にして思えば別に凄くもなんともないのだが、要するに今度は、オタクに優しいヤンキーが居てコロッと惚れてしまったわけだ。


「今日僕が勝てたのはバラちゃんのおかげだよ。お礼がしたいな」

「別にお礼なんていいよ、ハヤシの運が良かっただけだし」

「それでも君に礼がしたい。あ、そうだ! バラちゃんジャージしか服が無いんだよね? だったら新しい服買ってあげるよ」

「えっ……いらない」

「!?」


 まさかこの時、バラちゃんが真顔で断るとは思ってもみなかった。


 女の子は皆彼氏から服を買ってもらえば喜ぶものじゃないのか――そう思い込んでいた僕は何故バラちゃんが断るのか尋ねた。


「私、あんまり他人から物を貰いたく無いんだよね」

「なんで?」

「例えばキャバクラで働いてるとさぁ、なんか私に好意を抱いてるお客さんから、突然意味不明な理由でプレゼントを渡される事があるんだけど、全部私の好みを聞かずに微妙な物ばっかりでさぁ、それなのに『俺がこの前プレゼントしたアクセサリーなんでつけてないの?』とか聞いてきたり、 あとそいつが見返りで過剰なサービス求めてきたりしてウザいしキモかった。だからあいつから貰ったセンスが無い物なんて即売って自分で好きな物買ってやったわ」

「はは……そうなんだ。(僕も気をつけよう)」


 男性諸君――女性にプレゼントを送る時はサプライズも大切だけど、ちゃんと好みも聞いた方がいいぞ。


「あと多分私、他人から()()()()()と、自分がダメになるような気がするんだよね」

「へぇ……バラちゃんって以外と真面目なんだね」

「は? 何その上からの言い方、ムカつくんだけど」

「ごめん悪気は無かった」

「まぁいいわ、確かに私こんな見た目だしね……それよりハヤシは今夜は帰っちゃうの?」

「うん、明日は仕事あるし、バラちゃんはどうなの?」

「私もこのあとまたお店に出なきゃなんない。正直面倒くさくなってきた……サボろうかな。だからさハヤシ、今晩私とホテルに泊まろうよ」

 突拍子もないことだが、要するにバラちゃんから()()()()お誘いだった。

 

 続く――以下余談。


 10年後。


「うわぁ、やっちまった! 今日1日でスロットで三万負けたーーー!! 我慢してたのにやるんじゃ無かったー(泣)」


 バラちゃんがきっかけでパチンコ・スロットを覚えた俺は、昔ほど強運も無く、常に負けている。

 

 しかもこの10年間の負けをトータルで計算すると、きっと余裕で数百万円は超えている筈だ。俺をこんなに沼らせるきっかけを作ったバラちゃんは罪深い。

 


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