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5話 持つべきものは仲間、それとモテる為に大事な教え


 僕は出会ってすぐのバラちゃんと交際することができた。そしてあっという間にデートまですることになった。今思えば、この一連の流れは奇跡であり、僕はこの件で人生ほぼ全ての運を使い果たしてしまったんじゃないだろうか。


 仮にそうだとすれば本当にバラちゃんは僕の人生に大きな爪痕を残しすぎた。


 ……。

 

「ばいばいハヤシ、また明日ね♡」


 バラちゃんとの分かれを惜しみつつ、夜の街を後にした。


 駐屯地に帰隊すると、営門の入口に来て気分が下がった――何故ならここはシャバとの境界線。一歩超えれば規律だらけの不自由な世界になる。


 だが、明日バラちゃんとデートできると思えば別にどうでも良いと思えた。そして営門を守っている若い隊員に同情して「今日1日ご苦労さん(笑)」と話しかけたりして調子に乗った。


 そして隊舎に戻って外出証を当直に返納する際、コンビニで買った高い菓子類の差し入れなどした。僕の幸せをおすそ分けだ。

 

 ……。

 

「お、ハヤシが帰ってきたで。どないやった(笑)」


 僕が営内※(自衛官の居住する部屋)に戻ると、津山をはじめ、僕の悲報をからかってやろうと待ちわびる同期達が集まった。


 さて、今からこいつ等を悔しさと羨ましさのドン底に突き落としてやる。


「あぁうん……バラちゃんと付き合う事になったよ」


 ここはできるだけ余裕そうな態度をして、調子に乗れる時にとことん乗る。こんな気分は滅多に味わえない。


 当然全員から嘘をつくなとブーイングコールが湧く――だが想定済み。

 

 某時代劇のクライマックスのように僕はポケットから携帯を取り出して「このメールが目に入らぬか!」と宣言して全員に内容を読ませた。


「は……え? 嘘やろ? ホンマか!? もう一度見してみい!」


 津山はかなり動揺しながら僕から携帯を奪った。


 メール。


【今日はとっても楽しかったね♡ 明日ハヤシと会うのも楽しみー♡】


 終わり。

 

 ※記憶がもう殆ど曖昧だが、実際はもっとギャルっぽい文面で中々男心をくすぐる内容だった。


 ……。


「うわ、マジやコイツ、ホンマに告ってきて成功しやがった……。しかもなんなん? いきなり明日デートとか展開が早すぎるやろ」

「……うん、実はちょっとそこは僕も気になる。なんかうまく行き過ぎて不安だ」

「おっ! ええやんハヤシ、そういう疑う気持ちは持っといた方がええで、じゃないと詐欺かもしれんしなぁ」

「それじゃあ明日俺達も待ち合わせの場所について行ってハヤシの彼女見てみようぜ」

「お、ええやん! 明日はおもろそうやなぁ、けどその前にハヤシのデートプラン考えようや」

「余計なお世話だ」

「はぁ? 何が余計なお世話や、今までお前の考えたデートプランが上手くなかったんやから前の彼女と分かれたんやろが! そやけど俺を含めてここに居る殆どの同期が彼女持ちで続いとるんやし、アドバイス聞けや」

「うっ……」


 津山に反論しても勝てない。ここはプライドを捨てて津山の言う通りにしよう。


 あと実際、後に他の女性と付き合った際、津山から教わった事がとても役にたった。


 以下、津山の教え。


 一つ、内面より、まずは見た目が重要。清潔感のある格好をしろ!


 二つ、聞き上手に徹しろ、決して相手を否定するな、自分の意見はいらんから相手が求めてる答えを察して返答しろ!


 三つ、とにかく気遣い! あと絶対にデートで割り勘なんかすな!


 以上。

 

「――たったこれだけや。他にも色々あるけど、今のハヤシには無理やから、最低限これだけは守って行動しとけや」

「わかった。因みに僕の見た目の評価はどうなの?」

「ん? そんなん当たり前やん、最低やで(笑)」

「……」

「ぷはははは! 俺がもし女やったらお前みたいな丸坊主でオタクみたいな服装の奴は絶対に無理やわ(笑)」

「じゃあなんでバラちゃんは僕と付き合ってくれだんだよ! あと言っとくけどお前だって頭ハゲてるじゃないか!」

「それはソレ、コレはこれや。あと俺とハヤシの徹底的な違いわこことここやで」


 そう言って津山は自分の頭と腕を叩いてアピールした。要するに経験と腕っぷし。これさえ備わっとけばモテると津山は最後に言った。


 ……。


 次の日、デート当日。


「まぁ見た目はマシやな」

「そうか……ありがとう津山、貸してくれた服はクリーニングして返すよ」

「そんなんせんでええ、俺はなんだかんだいうて、ハヤシが女の子と上手くいくことを願ってるんや」

「津山……本当にありがとう」


 津山はこのデートの為に服を貸してくれた。そのお陰でこの日の僕の格好はオタクから若干ストリート系の格好へと生まれ変わった。


「あと香水も貸してやるからつけとけ……一振りでええんやぞ、それ以上振ったら臭くなるで」


 そうそう――この時人生で初めて香水も教わって身体に、匂いをつけた。


「さて、これで準備万端や! 頑張れよハヤシ!」


 この時、僕をからかうために他の仲に良い同期達も待ち合わせ場所について来ていたが、皆僕に「頑張れよ」「デート楽しんで来いよ」「土産話待ってるぞ」等々言って、基本皆いい奴ばかりだった。


「さてさて、ハヤシの彼女はどんな格好で来るんやろか。楽しみやわ」

「なんで津山が楽しみにしてるんだよ……」


 確かにバラちゃんがどんな格好で来るか気になる。なにせ僕はバラちゃんが店でメイドのコスプレをしている姿しかしらない。


 彼女は普段私服は何を着ているんだろうか?


 清楚で大人しい服装かな? それとも僕と同じアニメが好きだから派手なオタク受けする可愛いフリルが飾り付けられた服かな? どっちにしろバラちゃんが着てればどんな服でも似合う。

 

「もしもさぁ、ハヤシの彼女が()()()だったらどうする? その場合俺はアリ」


 この場にいる同期の誰かがそう言うと、あとは全員アリかナシかを言い始めた。その結果殆どがアリと答えた。

 

「俺もアリっちゃアリやけど……ハヤシはどうや?」

「ナシ……かな」

「なんでや! お前選べる立場ちゃうやろ!」

「だってギャルってなんか怖いじゃん! オタクが一番恐れる女だよ」

「……まぁそう言われると確かに、今のハヤシにはレベルが違い過ぎて無理やろなぁ。てか今向こうに居るアレくらいギャルだったら流石の俺でも無理やわ(笑)」

「向こうのアレ……バラちゃんだ」

「ファーーーー(笑)」


 コンビニでバラちゃんと待ち合わせしていたら、ちょうどコンビニ前にある横断歩道に()()()()()()()みたいな黒い厳ついジャージ姿の一人の女の子が立っていた。


 皆も女の子に気づき、アリかナシかでいえばナシと評価を下した。


 だがそのヤンキーの女の子は横断歩道を渡って来るとこっちに真っ直ぐ向かって来る。


 そして距離が近くなって雰囲気ばかりではなく、顔がはっきりわかると、やっぱりこのヤンキーは正真正銘バラちゃんだったので僕はとてつもないショックを受けた。


「バラちゃん……だよね、えーとおはよう」

「おいハヤシ、なんか気の利いた事言わんかい。例えば君、えらい厳つい格好しとるなぁ、バリバリヤンキーやん……とか(笑)」

「ハヤシ……この人達ってハヤシの友達?」

「うん、そう……えーとこいつは津山で、他の奴らも自衛隊の同期だ。毎回皆ここで一旦集まって暇潰して別れるんだ」

「へぇ……そうなんだ」


 バラちゃんは津山の見た目とおちょくる態度で不機嫌になっていた。空気が悪い。それを察した津山が「ほな俺らはもう行くわ」といって皆を引き連れて去った。


「ん……津山からメールか」


【ヤバそうだったらすぐに連絡してこいよ、すぐに俺等で助けに行くわ】


「……」

「ハヤシ、さっきのあのハゲの態度悪くない? ムカつくんだけど」

「まあね……けど本当は頼りになっていい奴なんだよ」

「ふーんあっそ……。てかハヤシ今日は雰囲気違うね、センスいいじゃん」

「そ、そう……? ありがと(照) バラちゃんもその……雰囲気違うね、いつもメイド服だったからそんな感じの私服かと思ってた」

「あぁー……まぁ……普段はコレしか着るもの無いし、どうでもいいかな。それよりちょっとタバコ吸っていい?」

「えっ!? あぁ……うん、どうぞ……てかバラちゃんタバコ吸うんだ」

「まぁね……イヤ?」


 この時、ピンと来た!

 津山の教えの中に相手を否定しない事が確かあった筈だ。


「別に……僕はタバコを吸わないけど、別に誰が吸ってようが関係ないよ、そもそも職場じゃ皆休憩中タバコ吸ってるから慣れてるし、だから気にせずに一服して」

「あっそ」


 バラちゃんは慣れた手つきでタバコに火をつけて「ふぅ~」と煙を吐き出した。この瞬間僕の中でどんどんバラちゃんのイメージが崩壊真っ只中でどうすればいいのかわからなかった。


 そんな時、ふとバラちゃんが吸ってるタバコの銘柄が見えた。確かこのタバコは女性がよく購入するタバコの銘柄だ。


「バラちゃんの吸ってるタバコって〇〇ってやつだよね」

「うん、そうだけど……」

「やっぱりそうだ、昔コンビニでバイトしてた時に女のお客さんがよく買ってたから印象に残ってた」

「へぇ……」

「ところでそのタバコってどんな味するの?」

「ん? 普通にちょっとすぅ~と爽やかな感じがするのと甘い味がす感じ、試しに吸ってみる?」

「!」


 頭の中にギャルゲーの選択肢が浮かんだ。


 吸ってみる

 吸わない


 →吸ってみる

 吸わない


「それじゃあ一本だけ吸わせて」

「いいよ、はい」

「ありがとう、因みになんだけどタバコの吸い方がわからないから教えて」

「えーとね、まずは口に加えて……私が火をつけてあげるから吸って」


 タバコに火をつけて貰う際、バラちゃんが真正面に居るので彼女の顔がよく見えた。


 格好はバリバリ田舎のヤンキーみたいだけど、やっぱり顔は可愛い。コレはこれでアリなんじゃないだろうか。


「……」

「……どう?」

「確かに爽やかで甘い味だ……なんていうか、タバコってきつかったり咳き込むイメージがあったけど全然そんな事無い……寧ろ良いかも」

「そっか、良かった♪」


 余談だが、現在喫煙者の僕は、タバコはメンソールの物ばかり気に入って吸ってる。


「ハヤシ、このあとなにする?」

「えーと、映画とかはどう?」

「えー……映画は別に見たくないかな」

「……」


 いきなりデートプランが崩壊した。いったいどうする。そもそもぶっちゃけこの街自体田舎でデートするような場所が全くなかった。


「それじゃあさ、打ちに行かない?」

「打ちに?」


 バッティングセンターかな? それはそれで楽しそうだ。


 僕はバラちゃんの行きたい場所に向かった。


 ……。


「いらっしゃいませ、ごゆっくりごくつろぎ下さい」

「……(全然くつろげないんだけど)」


 店内は爆音のキュインキュインする音と玉が弾ける音でやかましい――そうここはパチンコ店!


「それじゃあハヤシ、今日は何打つ?」


 続く。


 

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