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4話 暴走モード突入 バラちゃんを手に入れろ!


 自衛隊の駐屯地にて休憩中に誰かが今から()()()()()()すると宣言した。


 ※ジュージャンとはジュースジャンけんの略で、要するにじゃんけんをして負けた奴が、参加した全員分のジュースを買う遊びだ。


 但し気をつけなくてはならないのが、人が多く集まる場所でジュージャン宣言をしたならば、参加人数が十人以上に膨らんでしまい、もし負けた場合、たかが数百円のジュースを買うのに、数千円出費する事態になる恐ろしい遊びなのだ。

 

 そして案の定今回の参加人数は同期の隊員達で10人以上に膨らんで、絶対に負けられない戦いが始まった。


「おいハヤシ、お前も参加すんのか? 金あるんか?」

「大丈夫、今までこのジュージャンで負けた事ないから絶対に勝つよ」

「おっ! 強気やな、けどそう言って負けたらおもろいんよな(笑)」


 バカにした笑みを浮かべて話しかけてきた隊員は、僕より年齢が上の同期で、外見はハゲ頭にメガネの津山という男だ。


 こいつはちょっとウザかったが、社会人経験をして入隊している為、僕みたいな社会をろくに経験してない同期の若い隊員に常識を教えてくれる面倒見が良い兄貴みたいな存在だった。


 さて、話を戻そう。

 

 今回のジュージャンの結果――僕は宣言した通り余裕で勝利した。昔から勝負運だけは有った。


「ハヤシは流石やなぁ、宣言通りや」

「まぁね、ところで津山に相談したいことがあるんだけど」


 津山は「なんや言うてみ?」といいながら、負けて全額支払いをする隊員が止めるのを無視して、無慈悲に高い飲料水のボタンを押した。僕も続いて津山と同じボタンを押した。


「ふぅ、他人の金で買ったジュースは一味ちゃうなぁ。ほんで……どないしたんや?」

「実は……恋をしたんだ」


 津山は飲みかけのジュースを吹き出した。そして「ほんまかいな!?」と驚いていた。


「あぁ本当だ、今本気で恋をしてるんだ」

「ハヤシお前なぁ……ちぃと落ち着け、つい先月彼女にフラれてだいぶ落ち込んどったやないかい、急にどないしたんや?」

「実は、休日に外出した時に、ある女の子に出会って惚れたんだ。そのおかげで今やっと元カノの事を忘れる事ができそうなんだ」

「ほうなん。まぁええんとちゃうん? いつまでも元カノを引きづっとったらキモいしな……。しゃーない、相手はどこの女や?」

「夜の街の〇〇ってキャバクラの女の子で、珍しいメイド服着て接客してたんだ。あと因みに、その子は僕の事がタイプだってさ」


 津山は再び飲みかけのジュースを吹き出した。そして「お前は世間知らずのアホか!」と僕に厳しめに説教をはじめた。


「あんなハヤシ警告するで、その女は店と自分自身の売上の為にリップサービスでどの客に対しても、あなたの事が好きって言うてるんやで? そんなんに騙されんなや!」

「そう……なのかな?」


 警告が響かず、バラちゃんの事を信じきってる僕の様子に「こりゃアカン」と津山は強い口調でバラちゃんの悪口を言い始めた。


 曰く「水商売の女は客を金でして見ていないんや」とか「大抵そういう女は心が汚くて平気で人を騙す女や!」とか、差別と偏見が入り混じった聞くに絶えない事を沢山言った。


 だから僕は津山に腹が立って「お前にバラちゃんの何がわかるんだ!」と反論したが、逆に「お前こそたった一回しか会ってないくせにその女の何が分かるんや!」と返されて言葉に詰まった。まったくもって津山の言う通りである。


「けどさぁ……バラちゃんは……いい子なんだ」

「はぁ……、ハヤシはこれだけ言ってもまだ分からんのかいな、お前はホンマに純粋すぎるで」

「……バラちゃんもそう言ってた」

「ファーー(笑)完全にその女に内面まで見抜かれとるやないかい! こりゃええカモが来たと思うとるで(笑)」

「くっ……うっさい! お前に相談したのが間違いだった!」

「まぁまぁ気ぃ悪ぅすんなや、何やバラちゃんやっけか? 多分俺の分析した通りの()()やと思うけど、それでもハヤシは俺の警告を聞きゃせんやろなぁ……ほな、こうしよか。ハヤシ、お前その女にさっさと告って来いや」

「ええ!? たった一回しか会ってないのにそれは無理があり過ぎるよ、流石に僕でもそれくらいわかる」

「やけんよ。その女が仮にホンマにハヤシの事が好きなタイプなんやったら告白したらすぐ受け入れる筈や。せやけど断られたら所詮お前は唯の客っちゅうことで諦めがつくやろ? 俺としてはお前の恋は実る可能性が0やからさっさと終わらせた方がええと思うとるんや」

「お前……ボロクソ言うなぁ。少しは気遣いってもんが無いのかよ」

「無い(即答)」

「……」

「ほな次の休日にその女に会いに行って告って来いよ、できんかったら所詮お前もその子に本気じゃなかったっちゅう訳や……まっ、無理やろうけどな(笑)」

「……」


 僕の事を散々煽り散らかした津山は「おーい今度の休日にハヤシが女に告るで(笑)」と皆に言いふらして去っていった。すると他の隊員達は大笑いして「無理だろ(笑)」と僕をバカにした。


 だが皆は僕の性格を見誤っている。


 当時の僕は他人から「〇〇して来い」言われたら、冗談でも本気と捉えて、実際にやってしまう危うい青年だった。だから()()()()()と呼ばれて中学高校にいたヤンキー達から若干恐れられていた。


 ……因みに今はもう流石に落ち着いている。


「……やってやろうじゃないか。みとけよ津山、僕がバラちゃんに本気だって証明してやる」


 ……。


「あっ、ハヤシ♪ さっそくまた来てくれたんだ、嬉しい! 飲み物は前と同じウィスキーのロック?」

「うんそれで……あとバラちゃんも好きなドリンク注いで乾杯したあとに、ちょっと聞いてほしい事があるんだ」

「えっ? いいよ」


 こうして乾杯の後、僕はウィスキーを一気に喉に流し込み「よし、言うぞ!」と気合を入れた。


「ハヤシ大丈夫? なんか前と雰囲気違う気がする」

「大丈夫大丈夫、それより聞いてほしい事があるんだ!」

「うん、なになに♪」

「僕は君に惚れた! 付き合ってくれ!」

「……ええ?」

「……どう、かな?」

「うーん……ハヤシはさぁ、ずっとここに居るの?」

「いや居ない。一ヶ月後には他県の部隊に帰る」

「ふーんそうなんだ。それじゃあこの一ヶ月だけ私と遊びで付き合って欲しいって事?」

「違う、ずっとだ! 本気なんだ!」

「そっかぁ……いいよ別に」

「えっ? それってオーケーってこと?」

「うん、ちょうど私も暇って感じだし、職場も年上ばっかでウザいし、同い年の男の子と出会いもないし付き合おっか♪ それじゃ携帯出してメアド交換しよ」


 当時はまだスマホが普及しきってなくてガラケーの時代だった。そしてメアド(メールアドレス)を交換する為に、携帯の裏側にある赤外線通信の位置に、お互いの携帯を合わせてかざさなくてはいけない。


 こうしてバラちゃんのデコレーションされたキラキラの携帯と僕の黒いくてなにも変哲も無い地味な携帯が合わさってお互いの情報を交換した。


「……(やった! バラちゃんが彼女になった!)」

「ハヤシ、今日は沢山飲も! 私達の交際スタート記念って事で……かんぱーい!!」

「うん! 乾杯!!」


 この瞬間は本当に嬉しくてしょうがなかった。なにせ告白して受け入れられると言う事は男として認められたと言うことだ。

 

 ……そういえばこの時、引きづっていた元カノの存在は心の中でどうなってたかというと――以下妄想シーン始まり。

 

「ハヤシ君、申し訳ないけれど、貴方の事を嫌いになってしまったの、だから私達別れましょう」

「そんなK子さん……僕の何がいけなかったんですか!?」

「……とにかく、私はハヤシ君にはもうついていけない。だから次のいい人を見つけてね」

「嫌だ! 僕は貴方と将来結婚したいと考えてたんですよ! それくらい好きだったんですよ!」

「そう……でもごめんなさい」

「そう、ですか……」


 ……。

 

「はーい元気だしてぇ♪ ハヤシには直ぐに私いう可愛い女の子が現れちゃいましたから(笑)」

「バラちゃん!?」

「なんですかあなた……メイド?」

「へぇ、ふーん……アンタがハヤシの元カノなんだ。見た目は清楚でお嬢様、でも大人しそうでつまんなそう……しかもハヤシより5つも上かぁ……プッ、オバさん(笑)」

「っ!! ハヤシ君、この子はいったいなんなんですか? 私と言うものがありながら!」

「はぁ? アンタ自分からハヤシをフッたくせに何いってんの?」

「くっ……」

「もうさぁ、ハヤシはアンタに興味はないよ、だからさっさと心の中から消え去ってよ、これからはハヤシの心の中は私でみたされるからさぁ」

「そんな……ハヤシ君、私を忘れてもいいの!? 私は君の初めての彼女なのよ!? しかも色んな事も含めて全部私が初めての相手で、結婚も考えてたんでしょ!? なのにそんな軽そうな女の子と付き合ってもいいの!? 考え直して!」

「……K子さんごめんなさい」

「ハヤシ君!?」

「ざぁーんねーん♪ ハヤシは私に惚れてるからアンタはもう過去の女。だかはそっちも早くいい男見つけてね、じゃないと、どんどん年齢を重ねて手遅れになるよ♪」

「っ……いやああああ!!」

「バイバイ元カノさん♪」


 妄想終了。


 今は多様性の時代――色々と叩かれそうな妄想をこの場で披露して申し訳ない。


 だけど僕にとってはこのバラちゃんに告白して受け入れられた過去の場面は、妄想の中みたいに、アレだけ本気で好きでたまらなく愛していた元カノを、アッサリ忘れされるほど衝撃的で嬉しい思い出だったのだ。


「それじゃあさっそく今度デートしよっか♪」

「……うん行こう!」


 まだまだ嬉しい体験は続く。

 次回はバラちゃんと初デートをした事を話そう。

 


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