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3話 バラちゃんは可愛くていい女の子


 アイ――メイド姿のキャバ嬢。だが彼女のことを僕は()()()()()と呼んでいる。その理由は後に記すので、以下、アイ=バラちゃんと認識してほしい。


 さて、席で乾杯をしたあと、僕は緊張してバラちゃんと会話することができなかった。なぜならバラちゃんは誰が見ても可愛いくてレベルが高い


 具体的に言うと、肌は綺麗で白かった。目もパッチリしてて、メイクは目元に赤いチークを塗った地雷系。(※当時は地雷系なんて言葉は無かった)


 あと髪は肩まで伸ばした黒髪と前髪はパッツンだ。とても不思議な雰囲気がする女の子で、田舎出身の僕の周りにはこんな女の子は居なかった。


 まるで()()()の女の子みたいで、コスプレイヤーなのかと思った。


 ……でも10年後の今思い返してみたら闇を感じる雰囲気だった。


「バラちゃんは……アニメ好き?」

「勿論好きですよ♪」

「本当!? だったら〇〇って見た?」

「見てます!見てます! 〇〇に出てくるキャラが可愛くて好きで」

「わかる! 〇〇は俺の嫁←今は死語」

「あはは、お客さんもしかしてオタクなんですか?」

「オタクでなにが悪い!」

「全然いいですよ、てかお客さん全然そういう風に見えなくて」

「なんで?」

「だって丸坊主ですし、てっきり少年院から出所して来たのかといっちゃいました」

「……違うけど、あながち間違いじゃない」

「てかお客さん年齢お幾つですか? ものすごく見た目が若いですけど」

「2―歳だよ」

「えっ! 私とタメ(同い年)じゃん!」


 バラちゃんは僕が20代前半の同い年だとわかると急にタメ口になったのでびっくりした。


「ヤバっ、今何してるの?」

「実は……自衛官してる」

「ええ! すごっ。なんで自衛官になったの?」

「それはほら、()()があったじゃん」

「あぁ、アレね。大変だったよねぇ」


 アレ=東日本大震災。

 僕が入隊する前に起こった事で、僕の自衛隊の同期の殆どは東日本大震災の自衛隊の活躍を見て自衛隊になる決心をしていた。けど僕の場合は、単に就職できなくてニートだったから行くところがなくて入隊した。だから志の高い同期と比べて当時は浮いていた。

 

「あのさ……バラちゃんは何してるの?」

「私は見ての通りキャバ嬢、その前は()()してて……ていうか今も色々してる」


 色々ってなんだろう。疑問に思って聞いてもバラちゃんは「別にいいじゃん」と言って笑って誤魔化した。これ以上聞かないほうがいいだろう。僕は空気を読んだ。

 

「自衛隊ってなにしてんの? やっぱ匍匐前進?」

「それよく聞かれるけど、最初の教育の時だけで、あとは滅多にしないよ」

「じゃあさ、鉄砲撃つの?」

「当たり前だよ、あとそれ以外は駆け足とか筋トレかな」

「それじゃあ腹筋割れてるの?」

「うん」


 自慢じゃないが、当時は細くて腹筋は割れていた。だけど今は見る影もない。


「えぇ~、触らせてぇ♪」

「えっ……あぁ、うんいいよ」

「うわぁ、すごーい、ボコボコしてるぅ」


 バラちゃんは服の上から僕の腹筋を撫でるように触った。なんだかやらしかった。


「ねえねえ今度は頭触ってもいい? 男子の坊主なんて触る機会ないからさぁ」


 僕は許可した。もう何でも来てくれ


「へぇ、こんな感じになるんだ。ザラザラだけどなんか触り心地いいかも、てかタオルで拭いたら引っかからない?」

「目茶苦茶引っかかる。けど乾かすのが楽だよ」

「あぁ~確かに坊主だと楽そう。私さぁ気をつけてても偶に仕事で()()()()()から、その時乾かすの面倒なんだよねぇ」

「へぇ、そう……(酔っ払った客にお酒でもかけられるのかな?)」


 この時、頭を撫でている薔薇ちゃんの腕から()の良い香りがした。こんなふうに何故女性はいつもいい匂いがするんだろう。


「僕の頭汗かいてるから汚いよ?」

「そう? 別に気にならないけど」

「本当? 汗臭くない?」

「うーん、別にそこまで匂いはないかな、てか別に()()()()()()()から私気にならないし」

「へぇ……(女子ってすぐに男の匂いとか汗を気持ち悪いって感じると思うけど、意外と寛容なのか?)」

「緊張してるのぉ? 可愛い」

「僕が可愛い? 嘘でしょ?」

「ううん本当に可愛いよ、あとハヤシは童〇でしょ?」

「違げーよ! こうみえて一ヶ月前まで彼女がいて……やる事やったし」

「えっ! そうなの!? いがーい。 じゃあなんで別れたの?」

「その……初めての彼女だったから、がっつきすぎて嫌われた」

「あらら……」


 初彼女は5歳年上の大人しい女性だった。それにお淑やかなお嬢様で、僕には本当に勿体ない人だった。なので別れたあともずっと引きづっていた。


「私はハヤシの事タイプだけどなぁ……だってタメだし、絶対性格優しいし純粋でしょ?」

「よく言われる、けどあんまし嬉しくないな。中学と高校もそれで嫌な目にあってきたし、だから男らしくなりたい」

「それってオラオラ系ってこと?」


 そう聞かれてすぐに部隊の同期にいる柔道部出身の元不良の事を思い浮かべた。そいつは女の子にモテるが性格はクズすぎた。


「いやオラオラ系じゃなくて……なんていうかムキムキのマッチョ?」

「えぇ!? やめときなって、今の方が絶対いいよ。体細いしそのままで居なって」

「そこまでいうなら維持するけど……けどそれでモテるのかな」

「大丈夫、女の子は絶対そっちの方が好みだし、あとハヤシは顔はそこまで悪くないからちゃんとしとけば普通にモテるよ」

「そっかぁ……」


 女の子にここまで褒められるのは人生で初めてのことだった。


 バラちゃんは僕がネガティブな事を言うたびに否定してくれて盛り上げてくれた。そして自分に自信が持たしてくれた。だけど……。


「バラちゃん……君はいい子だね」

「私が? 無い無い、お世辞はいいって」

「お世辞じゃなくて本当だよ」

「ふーん……ありがと」


 逆にバラちゃんは自分の事をネガティブに思っているみたいだった。


「そろそろ帰る」

「ええ! もう帰っちゃうのぉ〜?」


 キュン♡


 可愛い


「ごめん、門限があってさ。遅刻したら外出禁止になる」

「そうなんだぁ、自衛隊って大変だね

「まぁね。あと今日はありがと。こんなに女の子と会話できたの初めてだし楽しかった」

「私も楽しかった。だってここのお店さぁ、来るお客さんって()()()()ばっかで()()()()()()()()から。あと、あいつら酔っ払って大声でつまんないギャグ言って滑ってもどうにかなると思ってるし、本当にキモくてウザイしムカツク。だから君みたいな若いお客さんの方がいいよ」

「へぇ……」

 

 バラちゃんの言葉は十年後におじさんになった僕の心にグサッと来る。だから飲み屋に行ったときや職場で若い子と接する時は発言に特に注意するようになった。


「また来るよ」

「うん絶対に絶対だからね!」


 こうしてバラちゃんと別れた。そして気分が良くて帰り道に、バラちゃんの店に案内してくれた黒服のキャッチにわざわざお礼まで言ったら「はぁ、良かったすね。またよろしくお願いします」なんていいながらポカーンとしてた。

 

「うわぁ……恥ずぅ」


 帰り道に調子に乗った行動を取ったことに後悔した。だけど久しぶりに心がウキウキしていた。


 ――僕はバラちゃんに恋をした。


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