テンプレートから始まり、すぐに終わりを告げる異世界転移物語(皇女様は白だった)
今日の俺は「鴨葱たんたん」だ。
商店街の催し物で人手不足により急遽、鴨葱たんたんの中の人となったのだが、こんなに苦しいものだとは思っていなかったので、安請け合いしたことに後悔していた。
そんな中、美人の女性が就学前の女の子を連れて俺の方へ近づいてくる。
「お母さん鴨葱たんたんがいる。いっていい?」
「いいわよ」
「わーい」
我が町のマスコットである鴨葱たんたんは刀剣市という市が町興しのために用意したマスコットキャラクターだ。刀剣を帯刀する鴨葱たんたんの刀はネギカタナ。淡いピンクの毛並みが可愛さアップの秘訣!をコンセプトに作られた。
それにしてもこのお母さんは滅茶苦茶若いな。今年で35歳になる俺よりも若そうだ。そして、無邪気な子供はなんて可愛いのだろう。君のお父さんになりたいよ。
「お母さんも一緒にモフモフを触ろうよ」
なんてナイスなアイディアを出す娘さんだ、将来有望だ。しかし、とんだ邪魔がはいる。
「鴨葱たんたん~作戦会議に来てください」
これは休憩の合図となっている。さすがに着ぐるみを着てから4時間が経過しているので流石に脱水症状を起こしそうだ。
「鴨葱たんたん、頑張って!」
女の子はキラキラした笑顔で精一杯手を振り送り出してくれる。これを見れただけでもこの仕事引き受けてよかったと思う。
「あ、大山さん、お疲れ様です。中で高校生のバイトの子が休憩していますんで、一緒に休憩してください」
俺は鴨葱たんたんの着ぐるみのままコクリと頷き休憩用に設置したプレハブ小屋へとドアを開けて入る。
しかし、そこは俺が知っている休憩所ではなかった。
更に女性が抱き着いてくるというハプニング付き。
「ようこそ、私の可愛いダー……誰?」
「……」
目の前には化粧の濃い女が胸の開いたジャケットにミニスカを履いて出迎えてくれる。一昔前のボディコンスーツいうものだろうか?
「……チッ、失敗した」
ちょっと待て、舌打ちして失敗ってどういうことだ?しかも鴨葱たんたんを見て失敗だとけしからん。基礎デザインしてくれた当時高校3年生の平山由香ちゃんに謝れ!
「それにしても、どうして旨くいかないんだろう。よりにもよって35歳のおっさんなんて」
こいつなんで、俺がおっさんだと気が付いた?
え?あれ、俺はいつの間に着替えたんだ?鴨葱たんたんの着ぐるみを着ていたはずなのに。
「あ、そうそう、言っておくわね。私は女神ヘカーテ。訳ありこのベッドから出られないの」
それを世間では何というか教えてやりたいと思う。しかし、こいつは女神と言っているが信じていいのだろうか?確かに、今まで出会った女の中でも最高峰といっていいだろう。しかも、肌の艶がやばいな。露出している部位が多いのでわかるがシミ一つない。
「でしょ!あんた結構わかっているわね」
「……!」
こいつ、まさか俺の思考が読めるのか?
「わかるわよ、だから女神やってるのよ。馬鹿にしないで頂戴」
「で、何が失敗なんだ?」
「あら、しゃべれるのね。それにしても、低くて汚い声ね」
五月蠅い、ほっといてくれ
「まあ、本当なら勇者召喚が行われていたから可愛い男の子を掻っ攫う、ゴホン、ちょっと話をしようと思ったんだけど間違えてあなたをこの部屋に連れてきてしまったの」
「ん?ちょっと待て、勇者召喚って」
「ええ、勇者召喚よ。あなたも本とかで知っているでしょ。それとも知らないの。あんたバカぁ?」
とっても腹立たしい女神だが、俺はグっと我慢する。そして、情報の整理を落ち着いて頭の中で行う。
えっと、休憩所のドアを開けるとそこはバカ女神のベッドの前だった。
バカ女神は勇者召喚されている人物を掻っ攫ったのだが、間違えて俺が来てしまった。
ということは、俺も勇者召喚されたのか?このバカ女神に?
「バカバカ言うなぁ!それに人聞きが悪い。掻っ攫う気はなくて婚姻とど……お話が終わったらすぐに異世界へ送るつもりだったんだから」
こいつ、結婚願望があるのか?もしかして、女神だけど、パセリか!
「し、し、し、失礼ね、ちょっと大らかな心で色々な方たちと接してきただけよ」
「まあ、どうでもいいや、俺を元の世界へ帰してくれ」
「どうでもいいやって、あなたねぇ、同期で結婚してないの私だけなのよ。惨めに思わないの?」
「俺も未婚だ」
「はぁ、そうね。あなたに聞いても仕方ないわよね。モテない中年なんて、フッ」
悪意の籠ったため息にいら立ちが募るがここは我慢だ、我慢
「それよりも、あなたを元の世界へ戻すことが私はできないわ」
「なんでだ?」
「わたしはこのベッドの上から動けないの。だから、あなたが帰るための必要な書類を用意できないのよ」
「書類ってお役所仕事かよ」
「色々あるのよ、だから、このまま異世界へ送るわ……あ、そうだ!これあげる」
「なんだ?呪いの指輪か?」
「違うわよ、女神の加護で困ったときに道を示してくれるものよ」
「そうか……で?女神ってまさか」
「そう、この私よ」
「じゃあ、要らない」
「なんでよ、女神の加護よ。しかも無料よ、タダだよ」
「只より高い物はないという」
「むぅ、持っていきなさいよ、せっかく用意したんだから」
少々涙目になっている女神に俺は引け目を感じてしまった。女の涙は卑怯の代名詞だ。バカかもしれないが、こいつの美貌には神々しさすらある。
「わかったよ、ホレ、これでいいか」
俺は指輪を受け取り左手の中指に嵌めた。
「……グヘヘ」
「チッ、気持ち悪いな、やっぱいらな……外れねぇ」
「アハハ!引っかかったわね、もう外せないから絶対に外せないから、私のことを馬鹿にするからよ」
「くそ野郎が、このバカ女神」
「あー口に出した!思っているだけならまだしも口に出した!」
「ああ、何度でも行ってやる、バカバカバカバカ女神」
「うわぁぁぁん、慶太がバカっていう」
本気で涙を流して泣き始める女神。俺は自分の年齢を考えると先ほどまでのやり取りに気恥ずかしさ覚える。ガキかよってね
「ぐすん……おこちゃま」
ああ、腹立たしい。何故か、こいつに言われるとすんげー腹立たしい。
「あ、もうそろそろ時間だから行っていいわよ」
こいつは虫を追い払うようにいいやがる、ぶん殴ってやりたい……
「もう仕方ないわね、ほらベッドに座って」
なんだ、殴ってもいいのか?いい根性してるじゃねえか!
「ほら座っていいよ、よし来た来た。それじゃあ、時間もないことだし……チュ」
キスされた、キスしやがった。しかも口に。こいつ何考えてんの?柔らかいよ。じゃなくて、何してくれてんの……
「あらピュアだね。顔真っ赤!アハハ!」
くそ、なんだよ。すごい眠気が襲ってくる。
「いってらっしゃい、慶太」
女神のベットでそのまま寝てしまいそうだ……あ、膝枕、いい香りがする。それに柔らかいな……ぐぅ
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あれ、俺は……。
のぞき穴がある……ん?
もしかして、また鴨葱たんたんの着ぐるみを着ているのか?
いつの間に…………。
「よくまいられました、勇者様!」
なんとも華奢な声が聞こえてくる。
先ほどまであたり一面真っ白でベッドがポツンと置かれた空間にいたが、今度は、ゴージャスな西洋の室内だ。しかも、レッドカーペットまで敷かれている。
「あのここは?」
今度も女の声だ。驚いたことに制服を着た高校生が4人ほど俺のそばにいた。ちょっと見たことがある顔だと思っていたら、備前刀剣市のイベントにバイトとして来た子か?まあ、俺が面接したから覚えているんだけどな。
「今、説明しますね。私はフルハイム王国の第一皇女、ヴィクトリアと申します。あなた方は勇者召喚によって異世界から召喚されました。これは私どもの勝手でありますが、どうかこの国をお救いください。異世界の勇者様」
なんともテンプレ的なセリフに違和感を覚える。それに勇者ってこの中の誰かが勇者なのかな。何となくだが、面接で一番正義感のありそうだった一条彩都くんだったかな?彼だろうな。ウンウン
「あの、わ、わたしは……お、お家に帰りたいです」
今にも泣きそうな女の子が精一杯の力を振り絞って自分の意思を訴えかける。あの子は確か、音大付属の……名前が京山朱莉さんだな。それにしてもこの子、胸大きいよな~。
「すみません、私はあなた達を元の世界へ帰す術はないのです」
「そ、そんな~お母さん……うわぁぁぁん」
泣いてしまうのも無理はない。今まで親御さんの元で生活してきたのだ。それが突如、訳の分からない場所に連れてこられて今後会えないとなるとそうなる。
「で、ですが、あなた方は特別な力をお持ちなので、一生国賓として扱いを受けることになります」
「特別な力って?」
この子は確か……えっと赤毛だったから印象に残っている。最後の方で面接した三木沙織ちゃんだったな。で、隣にいる大きな体で教室ではドカベン食ってそうな子は熊山大地くんだ。
「それはこちらの道具でステータスを見ることが出来ます。異世界から来られた場合は例外なく異能の力を持っています」
「僕が試してもいいですか?」
一番手に名乗りを上げたのは正義感のある一条君だった。流石だ一条君!度胸あるわ……
「はい、是非ともお願いします」
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ステータス
名前:一条 彩都
年齢:17歳
Ⅼv:10
種族:人間
称号:勇者・異世界者
魔法:爆炎魔法 Lv.10
空間魔法 Lv.3
技能:ユニークスキル『炎の申し子』
耐性:物理耐性 Lv.5
魔法耐性 Lv.5
異常状態耐性 Lv.5
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「おお、すごいですね、空中に文字が浮かび上がりました」
「す……素晴らしいです。爆炎魔法がレベルテンなんて初めてお目にかかりました。現在、我が国にいる最高の爆炎魔法使いですらレベルファイブなのですから……」
「そうなのですか?」
「はい、しかも、称号に勇者、レベルはまだまだ低いですがこれから成長すればともて素晴らしい……あっ、すみません。興奮してつい手を握ってしまいました」
「いえ、構いませんよ、あはは」
一条君、うらやましいぞ!
しかも「いえ、構いませんよ」って顔真っ赤ですぜ。やはりまだ、うぶな男の子だな。
あ、女の子が……たしか、三木沙織ちゃんだっけ?ちょっとちょっと、あからさまに睨んでる、あれは嫉妬だな……青春だね……。
まあ、それよりも自分のステータスが気になるなってみんな次々とステータスを見にいってるよ。
んー自分のステータスって簡単に見れないのかな?例えば「ステータスオープン」とかって感じで……
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ステータス
名前:大山 慶太
年齢:17歳
Ⅼv:1
種族:人間
称号:女神ヘカーテの下僕
魔法:自己強化魔法 Lv.MAX
技能:ユニークスキル『高位次元観測者』
イージスシステム Lv.1
耐性:物理耐性 Lv.MAX
魔法耐性 Lv.MAX
異常状態耐性 Lv.MAX
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おお、見れた!ってちょっと待てなんで俺があのバカ女神の下僕なんだよ。ま、まあ、それは置いといて、いくつかの項目でレベルマックスってどうなんだろう?一体、いくつがマックスになるんだろうな。
にしても、これは俺にしか見えていないんだよな?
これどうなんだろう……レベルマックスって、もしかして巻き込まれ最強勇者ってパターンなのか?
よし、ちょっと様子をしますか。
それにしてもすごいな。道具で映し出されたステータスって少しの間、空中に残るんだな。
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ステータス
名前:京山 朱莉
年齢:17歳
Ⅼv:7
種族:人間
称号:勇者・異世界者
魔法:回復魔法 Lv.8
技能:ユニークスキル『癒しの女神』
耐性:物理耐性 Lv.2
魔法耐性 Lv.5
異常状態耐性 Lv.5
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ステータス
名前:熊山 大地
年齢:17歳
Ⅼv:15
種族:人間
称号:勇者・異世界者
魔法:なし
技能:ユニークスキル『鉄壁』
ガーディアンウォール Lv.10
耐性:物理耐性 Lv.10
魔法耐性 Lv.1
異常状態耐性 Lv.5
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ステータス
名前:三木 沙織
年齢:17歳
Ⅼv:11
種族:人間
称号:勇者・異世界者
魔法:風魔法 Lv.3
技能:ユニークスキル『射貫く者』
鷹の目 Lv.7
スピアアロー Lv.7
耐性:物理耐性 Lv.3
魔法耐性 Lv.3
異常状態耐性 Lv.3
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あらすごい、みんな勇者なんだね。俺だけ下僕かよ、あのバカ女神め!というか皇女さん、興奮しているな。
「すっごいです、みなさん!こんなステータス画面を見たことがありません。しかも皆さん、まだまだ成長の余地がありますので将来有望も有望です」
皇女さんが興奮している中、俺はどうしようか迷っていた。なんせ俺だけ勇者ではないのだ。まあ、この際、勇者じゃないほうが、自由にできるか?だが、国賓扱いを捨てるのは惜しい……
「あの皇女様、まだ残っている人がいるのですが」
「え?もしかして、この奇妙なものは……人なのですか?」
どうやら俺のことは置物か何かと思っていたのだろう。なんと失礼な皇女様だ。俺はこれ見よがしに皇女様の目の前でステータス画面を道具を使って開く。鴨葱たんたんの着ぐるみを着た状態だと触りにくいがまあ、我慢しよう。
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ステータス
名前:鴨葱たんたん
年齢:5歳
Ⅼv:20
種族:マスコットキャラクター
称号:伝説の勇者・異世界者
魔法:古代魔法 Lv.10
技能:ユニークスキル『功労者』
耐性:なし
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「え?えええええ!古代魔法ってあの失われた魔法ですか!」
皇女様は古代魔法にとても驚いているのだが、俺としてはステータス画面が鴨葱たんたんで表示されることだ。
しかも、あろうことか中身の俺は下僕なのに何さらっと……しかも、伝説の勇者の称号なの?
もしかして、この着ぐるみである鴨葱たんたんが最強の本命?
じゃあ、俺は何?
おまけ?
……勘弁してください。
(……めくれ)
ん?声が聞こえる?周り人間は何も反応していないからもしかして、俺だけなのか?
(スカートをめくれ)
いや、だれだ?そんなたのし……破廉恥なことをいうのは!
(女神の命令です。皇女のスカートをめくりなさい)
その声はあのバカ女神か?何を言っているんだ?今、この場でってことか?
嫌なこった。殺されるのが目に見えてるじゃねえか。それよりも、バカ女神の命令を聞くのが嫌だね。
(ならば実力行使)
体が……いや、鴨葱たんたんが勝手に動いて……皇女の前にや、やめろー。
そんなことやったら俺は死んでしまう……いろんな意味で!
「えっと、どうされました?」
俺が急に目の前に来るものだから皇女さん戸惑ってるよ。
さあ、みんなの場所へ戻れ、鴨葱たんたん!
俺は抵抗した。だが、体が勝手に動くのだ。仕方ないじゃないか、俺のせいじゃない。あ、そうだ。今は鴨葱たんたんの着ぐるみ状態だから鴨葱たんたんの責任にしよう。うん、そうしよう。
フリルの付いたスカートが宙を舞う。
舞い上がったスカートはゆっくりと重力に逆らうことなく地面へと落ちていく。
時間にして僅か一秒ほど。
しかし、その場にいた俺を含め多くの男性はスカートの中のフリルの付いた御神体を見逃すはずはなかった。
「きゃぁぁぁぁ」
皇女の悲鳴が聞こえる。
俺はスカートの中身をしっかりと確認しながら死を覚悟した。もちろん白だったさ。
涙目で軽蔑の視線を向ける皇女様
そう、俺の異世界物語は一国の皇女のスカートめくりから始まるのであった。
というか、始まったと同時に終わったな。