7-思い出に浸って
結局三連休ではあらすじのところまで進められませんでした……。
一月中には必ず……!
焼き魚の骨を取ることを忘れながらも、定食を食べきった頃には既にパーティメンバーが食堂に揃っていた。こうして一緒に集まるのもこれが最後だと思うと、非常に寂しくなってしまう。
勇者であるライナが僕と一緒に故郷の村を出たのは、確か半年前くらいの出来事だ。最初は僕とライナとブレイさんの三人の旅だった。ブレイさんは王国の騎士団から幼い勇者を育てるために派遣された剣士であり、まだ小さなライナと僕を育ててくれた剣術の師匠だった。王国の命令は勇者を育てることなのでライナにだけ剣術を教えればよかったのだが、ブレイさんはただの村人である僕にも剣術を教えてくれた。それはきっと彼の優しさなのだろう。
次に仲間になったのはカルテさんだ。彼女とは旅の道中で教会へ宿泊したときに知り合った。その教会に所属していたシスターであり、教会の仕事をしながら魔術の本を買い集めて独自に研究をしていたらしい。好奇心が旺盛な彼女は神の教えよりも魔術の道を究めようとしており、この旅についてくることで更に知見を深めようとしていた。ちなみに彼女が教会を出るとき、何故か他のシスターの方々が喜んでいたが理由はわからない。
最後に仲間となったのはマーモさんだ。彼女は僕たちのパーティがある少年を助けるための薬草を探しているときに、たまたま森の中で出会った。動物の言葉がわかり、かつ動物を自由に動かすことができる彼女は、鳥たちを使役して見事に薬草の場所を見つけ出した。その唯一無二の能力を見たライナは感嘆し、マーモさんを仲間に勧誘したのだ。仲間になってからしばらく経った今だからわかるが、仲間に加わってくれたのは恐らく彼女が断り下手だからだ。
そういった経緯で僕たち五人は集まり、勇者パーティとして三か月ほど旅をしていた。元々の隊列は僕とライナとブレイさんの三人、後衛のサポートはカルテさんとマーモさんという並びだった。その後僕は後衛に下げられてしまったが、それでも前衛が逃した敵を倒すという役割を与えられていたのでパーティに居座ることができていた。前衛にいた頃は実力不足から敵を倒しきれずに他の人に迷惑をかけてしまうことがあったが、後衛に回った時はまだ役に立つことができていたのだ。……今はそれもできていないからパーティから抜けるように言われているんだけど。
「あのー、ウェンさん? ウェンさーん?」
気が付けば思い出に浸ってしまっていた。楽しくて充実していた輝かしい日々にまだまだ浸かっていたい気持ちはあるが、あくまで過去は過去だ。これから起きるであろう正反対の現実を受け止めるためには、その温かくて気持ちのいい思い出から抜け出さなければならない。一度大きく深呼吸をした僕は、気持ちを切り替えて現実である目の前の光景をしっかりと目に焼き付ける。
「……よしっ。何かな、マーモさん」
「いやあの、食後のコーヒーがですね」
そう言った彼女の指先を見ると、そこには冷めたコーヒーがあった。あ、そういえばさっき色々考えている間に食後の飲み物を頼んだ気がする。
すっかりと冷めてしまったコーヒーを飲んでしまったせいだろうか。切り替えたはずの気持ちがまた冷めていくのを感じた。