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6-偽りの本音

あらすじのところまでもう少しですね。

1月中にはたどり着けるように頑張ります。

 そのあとのことはあまり覚えていなかった。唯一覚えていたのは、魚介が入っていたはずの炊き込みご飯がゴムの入った何かにしか感じられなかったことだけだ。

 気が付くと僕はベッドに倒れこんでおり、精神的な疲労からか泥のように眠ってしまっていた。せめて夢を見ることができれば直前の出来事を幻と誤認できたかもしれないのに、目が覚めた時に寝る前の出来事を思い出せるくらいは快眠することができた。健康な体が今回ばかりは憎らしい。健康な癖にライナの役に立てないという事実が本当に憎らしい。そしてその憎らしい体はエネルギーが足りないと騒いでいる。僕はお腹をさすりながら重い足を引きずり始めた。


『ウェン。……明日から君は旅についてこなくて良い』


 扉を開けるのが辛かった。部屋の前にある扉が、階段の前にある扉が、食堂の前にある扉が。一つ一つの扉を開けるたびに、昨日のライナの言葉を思い出して、辛くて仕方なかった。


「やぁウェン、おはよう」


 宿屋の食堂にいるパーティメンバーはライナだけだった。彼女は柔らかな笑みを浮かべて湯気の立つ紅茶を静かにすすると、僕に目の前の席に座るように促してくれた。

 その自然な仕草はまるで昨日の出来事が夢だったかのように錯覚させる。しかしそんなわけはない。僕は物覚えが悪いけれども、一度ちゃんと覚えたことに対しての記憶力には自信があるのだ。つまり昨日の出来事は夢であるはずがない。


「昨日の酒場の料理が美味しかったから期待していたのだが、どうやらこの宿屋は当たりのようだ。先に朝食をとらせてもらったが、とても美味だった」


 彼女の言葉を聞きながら壁に掛けられている食堂のメニュー表を見る。この宿屋の一階にある酒場はどうやら時間によって食堂かラインナップが変わるようで、現在は定食や軽食などの炭水化物メインの料理名が並んでいた。

 その中からライナが頼んだメニューを推測するとなると、彼女の好物である肉類が入った塩漬けのハムサンドや、鶏肉を使ったリゾットだろうか。昨日まで港町は魚料理という認識をしていたが、港町だからこそ魚だけに限らず、ほかの地域から新鮮な食材が送られてくるのかもしれない。

 そのような考察をしながら僕はメニュー表の中から焼き魚定食を頼んだ。そして料理が届くまでの間、僕は昨日の話をライナに問いかける。


「ねぇライナ。昨日のことだけど」


 ライナの紅茶を飲む手がピタッと止まった。『昨日のこと』という言葉に敏感に反応しているようだった。


「あれって本音、なんだよね」

「……あぁ」


 ライナの相槌は、先ほどまでの声色とは一変した刃物のような冷たい声だった。

 心臓が鷲掴みされたかのようにズキっと痛む。いろいろ冷静ぶってはいたものの、実は僕自身の心は、パーティを追い出されていたことを夢だと思いたがっていたらしい。

 だがそれは夢じゃない。現実だ。ずっと一緒にいた幼馴染から実力不足を指摘され、共にいることを拒否された。それが現実だ。

 呼吸が苦しくなっても、頭が重くなっても、目の前が暗くなっても、現実は変わらない。泣いて辛い現実が無くなるわけじゃないということは、両親が亡くなった時に理解したはずだ。


「そうだよね。わかってる」

「ウェン、私は」


 何故かライナは少し泣きそうな表情を浮かべて僕を見る。しかしその視線は徐々に下がっていき、何かを言いたそうに唇だけをわなわな震わせる。やがて顔を隠すかのように額を手で押さえると、震える声で言葉を発した。


「いや、違うな。君はやっぱり、パーティから抜けるべきだ」


 額を押さえる掌の間から一筋の雫が流れていたような。……そんな気がした。

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