10-仲良しこよし
「ところで、一つお聞きしたいんですけど」
「ん、何かな。お姉さんの今夜の予定なら空いてるけど」
「勇者パーティが今どこにいるか知りませんか?」
「突っ込みすらなしかよ」
ヨツノノさんは少しだけ考え込むような仕草をするが、すぐに顔を僕の方に戻した。その表情から察することはできたが、彼女はライナ達の行方は知っていなかった。彼女がライナ達の場所を把握していれば良かったのだが、流石にそれは求めすぎだったな。
ならば酒場にいる他の人に声を掛けてみよう、そう思った僕はヨツノノさんに別れを告げて席を立とうとしたが、それよりも先に彼女が僕に質問をしてきた。
「でもどうして勇者サマを探してるの? もしかしてファン?」
「ええ。一番のファンです」
勿論パーティに戻るためという、本当の理由は別にある。でも実力不足な僕が勇者パーティに所属していたと伝えたら、彼女ら勇者パーティの箔というものが落ちてしまうかもしれない。そう懸念した僕は少しだけぼかした返答をした。
それに一番のファンというのは嘘じゃない。これまでは僕が一番近くでライナを見てきた。それだけ彼女に対して思いがあるし、熱意もある。だから僕はもう一度ライナ達と旅をするために行動しているのだ。
「ふーん」
僕の返答を聞いたヨツノノさんはどこか素っ気ない態度で面白くなさそうな表情を浮かべている。このやり取りに彼女の機嫌を損ねるところがあっただろうかと考えるが、検討がつかない。思い過ごしだろうと考えた僕は、今度こそ席を立とうとした。
「勇者サマって確か女の子だったよね」
しかし再び彼女の質問が僕を呼び止めた。質問の意図はわからないけれども、答えられる質問を無視するわけにもいかないだろう。
「はい、ライナは女の子ですよ」
「ライナ? ……あー、勇者サマの名前だっけ。君、勇者様を呼び捨てにしてるんだ」
「あ」
しまった。せっかく懸念事項があったのに、違うところでボロが出てしまった。
ライナは勇者という存在であることもあり、生まれはただの村娘だけども世間ではそれ相応の地位に見られている。噂では王様よりも偉い存在であるとかないとか。そんな人物を呼び捨てにできるのは余程の世間知らずかライナと地位の近い人間か、はたまた彼女と親密な人間くらいだろう。
どうしよう、素直に僕の過去を話すべきか。だがそれでは箔が……、いやもっと酷いことが起きるかもしれない。例えばこの場にいる誰かが僕を捉え、勇者パーティの弱点を聞き出そうと拷問をされることとかだ。実際に僕達勇者パーティは、盗賊や暗殺者たちから命を奪われそうになったことが何度かある。詳しい理由はわからないが、そういう人々も世界にはいるのだ。
それを考慮すると、迂闊に僕の過去を話すのは得策ではないだろう。拷問をされたくらいで弱点を話すつもりはないが、こんなところで死ぬのはごめんだ。であればはったりを言って乗り越えるべきだが、良い嘘が全く思いつかない。どうしよう。
「もしかして君さ」
ヨツノノさんが真っ直ぐな瞳で僕を見る。まるで全てを見透かされているようだった。もしかして僕の正体、ばれてる?
いや、まさか。でもこの人は嘘が達者だし、見抜かれてるかも。だったら正体をばらされるより、彼女にこっそり伝えてこの場は収めてしまった方が……。
そうやって色々悩んでいる間に、ヨツノノさんは僕に顔を近づけていた。もう息が届いてしまいそうな距離だ。緊張する、駄目だ、ごまかせない。諦めた僕はせめて彼女以外には聞こえないようにと、彼女の耳元まで顔を近づけようとした。




