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5-優しくない嘘

「おーい。生きてるかい、少年」


 襲い掛かってきた盗賊を気絶させた僕は、痺れ薬の効果が切れるまでうつぶせの状態で倒れていた。まるで死体のように全く体を動かさない僕を心配したのだろう、共に盗賊に襲われた女性が僕の体を揺らして安否を確かめてきた。

 

「なんとか。お姉さんは無事ですか」

「まーね。これも君のおかげだ」


 そう言ってお姉さんは歯を見せてニカッと笑った。爽やかな、見ているだけで気持ちの良くなる笑顔だった。

 確かこの人はヨツノノさん、だったっけ。そういえば、この人は僕が気絶させた盗賊と顔見知りなんだよな。

 何故襲われていたのだろう。彼女と盗賊との関係が気になった僕が、そのことについて彼女に問いかけようとしたとき、既にヨツノノさんは僕の目の前から姿を消していた。どこに行ったのかと首だけを動かして必死に姿を探すと、彼女はいつの間にか気絶している盗賊たちの方へと移動していたのだった。


「さーてさて、さっきの薬でも貰っちゃおうかね」

「……何してるんです?」


 ヨツノノさんは盗賊たちの衣服に手を突っ込み、何かを探るようにゴソゴソと服の中をまさぐる。しばらくそうしていたかと思ったら、ヨツノノさんは先ほどナイフを投げてきた盗賊の服から液体の入った空き瓶を取り出した。毒々しい色合いから察するに、恐らく液体の正体は僕が味わった痺れ薬だろう。

 彼女は先ほどの爽やかな笑みとは打って変わった意地の悪い笑顔で、その瓶をねっとりと眺めていた。その様子を見て僕の胸には嫌な予感が漂っていく。


「よかった、まだまだ残ってる!」

「まさか……」

「いやさ、この薬が必要でさー。直接森に行って探しても良かったんだけど、ここの盗賊団が薬を持っているって聞いちゃったからさー。ほら、そしたら盗賊からとっちゃった方が早いじゃん?」


 あっはっはと陽気に笑うヨツノノさん。答え合わせは早かった。僕の嫌な予感、見事に的中。

 つまり襲われていると思っていたこの女性は盗賊たちと同じ盗人で、僕は盗人たちのいざこざに首を突っ込んでいただけだったのだ。確かにそれなら盗賊たち二人も「何を言っているんだお前」となるだろう。だって、急に部外者がやってきてよくわからないままに場を荒らしてきたのだから。この場にいるのは僕を除いて全員が盗人なのだから謝る必要はないけれど、それでもなんだか申し訳ない気分になった。

 しかし、そうなると一つだけ気になることがある。彼女が僕に言った言葉の意味だ。


「それなら、助けてって言うのは? 盗賊たちが急に襲い掛かってきたって言ってましたよね?」

「んん?」


 彼女はそんなこと言ったっけ、とでも言いたげな顔で僕を見る。そして数秒の沈黙の末、何かを思い出したかのように手を叩くと、彼女は再び陽気に笑い出し全く悪びれない様子でこう言った。


「あー嘘だよ嘘! 君は純粋だなー!」

「嘘……」

「あーでもしないと、あの状況を覆せなかったでしょ? だから被害者を装ったってわけ。少年も疑うことを覚えなよ、お姉さんとの約束だ!」


 そう言うとヨツノノさんは猪のような速さでどこかへ行ってしまった。……言いたいことはたくさんあったけれど、痺れ薬の効果が切れて僕が動けるようになる頃には、彼女の姿は全く見えなくなっているのだった。

今後平日に投稿する際は10時目安にしようと思います。

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