4-口の中の隠し球
9時に間に合いませんでした……。
僕たちに襲い掛かってきた二人組の兄弟盗賊は、自分たちの本拠地に僕ら二人を連行しようとしていた。痺れ薬を受けた僕は、表向きはまともに抵抗することができず、そして僕に助けを求めてきた女性は、自分の力ではこの男たちに勝てないと判断したのか両手をあげて降参の意を示していた。
「よーしヨツノノ、そのまま大人しくしてろ。変な気など起こすなよ」
ヨツノノ、というのはどうやら助けを求めてきた女性の名前らしい。何故盗賊が彼女の名前を知っているのか、彼女と盗賊はどういう間柄なのかは気になるが、彼女が誰かに助けを求めてきたのは事実だ。そこを疑うつもりはない。それに、僕もこのまま土産として連れていかれるつもりもない。
弟盗賊の肩にまるで荷物のように担がれた僕は、痺れ薬を喰らっても幸い口を動かすことはできたので、二人に気が付かれないような小さな声量でとある言葉を唱えていた。その言葉は今の状況を覆すに値する力を持っているのだ。顔を見られないように、そして声を気づかれないように、静かに言葉を紡いでいく。
「……ん? おいガキ、なんか言ったか? ぶつぶつ言ってねぇで、言いたいことがあるならはっきり言ったらどうなんだ」
「落ち着け兄弟。そいつは薬を喰らってまともに動けないんだ、大目に見てやれ」
「そうか、流石兄貴!」
……この盗賊たち、実は根が良い人なのではなかろうか。ガッハッハと陽気に笑う二人組を見て僕は心の中で密かにそう思った。もちろん盗賊という時点で悪い人ではあるのだし、根が良い人だとはいえ素直に運ばれるつもりはないけれど。
盗賊二人組が笑い終わると同時に、僕も言葉を紡ぎ終えた。地面に魔法陣が浮かび上がり、彼ら二人の頭上に小さな塊が創り出される。それは僕が密かに唱えていた地の魔法で生成した小さな岩石だった。その岩は何も気がつかない二人の頭をめがけ、ヒュンと勢いよく落ちていく。
「ぐぁッ」
「どうした兄だぅッ」
突如として現れた岩石を避けることができず、彼らは頭に衝撃をくらい、その場で気絶した。被り物をしているのだし、岩がぶつかったとはいえ小さな物だ。致命傷にはならないだろう。目だけを動かしてざっと確認したところ、血も出ていないようだ。
そうして僕は痺れ薬が切れるまで、気絶した盗賊たちと川の字になって平野に寝転んでいた。




