3-手の内隠して
こちらに踏み込んできた盗賊は、片手で持てるサイズの斧を大きく振りかぶり攻撃を仕掛けてきた。しかし振りかぶる時の動作が大きすぎる。おかげで彼の攻撃を避けるのは容易なことだった。この一連の動作を見るだけでも、目の前の敵が斧の扱いに慣れていないことは想定が付く。これなら攻撃をあしらいつつ、相手を無力化させることもできるはずだ。一対一の状況が続くのなら、の話だが。
「兄貴! 連携だ!」
「任せろ兄弟!」
そう、相手にしている盗賊は二人組だ。二人目の兄貴と呼ばれた盗賊は、唐突に背中を丸めた弟を踏み台代わりにすると大きく跳躍し、頭上から約十本ほどのナイフを投げて攻撃を仕掛けてきた。
これまで姿を見せていなかった兄貴のことを警戒はしていたが、突如繰り出された投げナイフによる攻撃を全て避けきることはできなかった。天から降り注ぐ数本のナイフのうち、一本だけは肩をかすってしまい、生まれた一筋の傷からうっすらと赤い血が流れる。
負った傷は深くない。他にも隠し玉はあるかもしれないが、だとしたら二人揃った今のうちに勝負をつけるべきだ。そう思った僕は相手に斬りかかろうとしたが、自分の体に違和感が発生した。全く力が入らなかったのだ。
「かかったな! そのナイフには強烈な痺れ薬を塗っていたのだ!」
「掠っただけでも五分は動けないぜ!」
そんな薬どこで手に入れたんだろう……?
体に生じた違和感の原因よりも、そんな強烈な薬の出どころの方が気になった。その薬があれば相手の動きを封じたりと、今後の戦いにも生かせると思ったからだ。ちょうど今倒れている僕のように。
そして倒れているうちに気が付いたが、幸いなことに頭は回るらしい。体に力が入らないだけならば、まだまだこちらのカードも残っている。
「兄貴、せっかくだからガキ共々アジトへ運んじまいましょうぜ!」
「そいつはいい考えだ兄弟。ヨツノノ、お前も来い!」
盗賊二人組は構えていた武器を下げてゆっくりと僕らの方へと歩み寄る。被り物のせいで顔は見えないものの、言動や立ち振る舞いから油断しきっているのがわかる。もしマントさんがここにいれば油断しきった彼らのことも、ついでに投げナイフを喰らった僕のことも愚かだと嘲笑っていただろう。ふん、と鼻を鳴らして笑う彼の表情が安易に想像できる。
弟盗賊が僕をアジトに運ぶため、肩に担いだ。兄盗賊は僕に背を向けて後ろにいる女性へと向かっていく。よし、今の状況ならば僕の口元が見られることもない。仕掛けるなら今この瞬間しかないと、僕は微かに動く唇で逆転の一手を取り始めた。




