8-這い上がれ凡人よ
「あぁ待て。一つ忘れていた」
敵に勝つよりも実力差を図ること。そんな戦法を聞いた僕は話がそこで終わったと思い、部屋から出ようとしたところを引き留められた。何だろうかと思い振り向くのと同時に、マントさんは何かを僕にめがけて投げつける。なんとか受け取ることができたそれを確認すると、渡されたのは深い紫色の宝石が埋め込まれた指輪だった。じっと見ていると吸い込まれそうな不思議な感覚に陥ってしまう、そんな妖しい輝きを放つ宝石だ。
「この先旅を続ける中で魔法を研究する施設があれば立ち寄っておけ。その指輪の刻印を見せればほとんどの施設には入れるだろうよ」
そう言われて指輪を見回してみると、指輪の内側に文字が刻まれていた。王国で作られたことを意味する文章と、人の名前と思わしき名詞が彫られている。
「ショウ・サマニーシ?」
「俺の名だ。もし盗人を疑われたら、そうだな、俺が盗人ごときに負けるわけがないと言っておけ」
確かに。彼が盗人に襲われてされるがままに物を盗まれるところは全く想像ができない。寧ろ襲い返して相手の身ぐるみを剥ぐ方が想像できる。
とはいえ、この支援はとてもありがたい。今までの旅でも研究施設に立ち寄ったことはあるが、ダンジョンへ入るために必要な道具を借りたりすることが主な用事だった。純粋に研究の内容を聞くことはなかったし、なんならゆっくり施設の中を見ることもなかったのだ。
「俺はお前に魔術の才能はないと言ったが、足りない才能は文明で補えば良い。研究施設に寄れば、旅や戦闘をサポートする道具を手にする可能性もあるだろう」
その言葉を聞いて真っ先に思い出したのは彼の履くブーツだ。彼のブーツは魔力を流すことで、水上や沼地を問題なく歩けるらしい。もし同じものを貰うことができたら、水辺の敵と有利に戦えるだろう。
もちろんマントさんだから使いこなせる道具や、彼の地位だからこそ共有されたものもあるはずだ。僕が施設に寄ったところで、何かを貰えると決まったわけではない。だが、研究成果だけでも見せてもらえることができたならば、何かしら自分の成長につながるはずだ。
「凡人に必要なのは自分が特別だという幻想を抱くことではなく、凡人であることを理解し、そのうえで最善を尽くすことだ」
「はい。僕にできることを理解したうえで、僕のやりたいことをやります」
できることは徐々に増やしていけばいい。単純な筋力、戦いにおいての立ち回り、道具を使った行動――。
抱いていた希望はどんどん大きくなっていった。凡人の僕でも、もっともっとできることがある。伸ばすことができる箇所がまだまだある。
いつの間にか後ろ向きな思考は全くなくなっていた。もう大丈夫。目指すべき場所は見えているし、そこまでの道もわかっている。あと必要なのは僕の意志だけだ。その必要な者は、既に僕の中に確固たるものとして宿っている。
「それでいい。這い上がって見せろ凡人。天の才能を持つ人間たちに嚙みついていけ」
絶対にたどり着く、彼女の元まで。
チャプター3終了です!
同時にようやく物語の本筋が始まりそうです。




