3-その心意気は買ってやる
「何故それが俺のメリットになる?」
マントさんは口元に笑みを浮かべたまま、僕にそう問い出した。彼が出した質問は想定通りのものだ。僕はこれまでの考えをまとめ、彼を納得させられるであろう意見を発した。
「マントさんは自分の道を進むだけだと言いました」
「あぁ、言ったな」
「それは恐らく、マントさんが求めるものがあるのだと思います。その求めるものが物質的なものなのか精神的なものなのかはわかりませんが、どちらにしても簡単には手に入らないものなのではないかと考えます」
「何故そう思う」
「貴方の立場なら、ある程度のものは簡単に手に入るはずだからです」
「俺の立場だと?」
マントさんは口元の笑みを絶やさず、ただし少しだけ声を上ずらせた。驚いたということは、以前考えた僕の推測は正しかったようだ。やはり彼は地位のある人で、ある程度のものならば自力で手に入れることができるのだろう。良い推測だと、少しだけ自分を褒め称えた。これでマントさんも少しは僕を弟子に取ることを前向きに考えてくれるかもしれない。
そう思ったが彼は僕の予想に反し、少し考え込んだあとに納得したかのような声を漏らした。
「……あぁ、そういえば話したな」
「え?」
「俺が王国直属の魔法使いだということだ。戦闘中で無意識のうちに口走ってしまった。俺も迂闊だな」
「え? え?」
……そんな話あったっけ。今度は僕が驚いた顔をする側になった。
戦闘中、ということはクラーケンと戦ったときのことか。あの時は僕も敵を倒すことで精一杯だったから、敵に関すること以外は流してしまっていたような気がする。だが、そうなると僕の推測は推測でなく、無意識のうちに聞いたことをまとめていただけとなるのか。それも得意げに。
うわぁ恥ずかしい、顔から火が出そうだ。しかしマントさんが納得している以上、交渉の余地はまだまだあるはずだ。穴があったら入りたいという気持ちを必死に抑えて、僕はポーカーフェイス(をしているつもり)で話を続けた。
「……え、っと。そういうわけで、貴方が求めているものはそう簡単には手に入らないもののはずです。ならば一人で求め続けるのは難しいはず。そんな時、僕や僕の知る人が貴方を助けられます」
「それがお前に師事する報酬ということか」
「いかがでしょうか」
「ふん」
マントさんは本日二度目の鼻鳴らしをすると、その切れ長の瞳を改めて僕に向けた。
「お前に俺を助けられるとは到底思えんがな」
「今はそうかもしれません。でも」
「仮にお前が俺の実力と並んだとしても、その時には俺が道の先までたどり着いているだろうよ」
否定はできない。彼が持つ実力はとてつもなく高い。そんな彼をサポートするには尋常じゃない努力が必要なはずだ。
だけど、ここでこっちが折れるわけにはいかない。寧ろその実力を手にするためにも、彼の力を借りたいんだ。
「だが、まぁ」
その思いが通じたのか、マントさんは僕の方へゆっくりと近づき、そしてこう言ってくれた。
「交渉の提案としては悪くない。一日だけなら、お前に師事することも構わんよ」
修行編はそんなに長くならない……と思います。




