12-船浮上
そのうち魔法の読み方とか効果とかまとめようかと思います。
予想外の返答だった。先ほどマントさんは僕のことを愚かだと評していたし、僕に魔法で船を浮かせられるかどうか聞いていたから、てっきり僕一人で状況を打破しろと考えているのだと思っていた。
いや、もしかしたら「俺ならできる、だが貴様はどうだ」ということかもしれない。自分にできないことを頼む前にもっと現実的なことを言えと、そういうことかもしれない。僕は自分に甘いし、都合の良いように解釈しない方が良いはずだ。
しかしそんな僕の考えとは反対に、マントさんはクククと悪役の如く笑いながら僕の肩をバシバシと叩く。
「何か勘違いしているようだが、俺は自分で考えない貴様の態度が気に入らなかっただけだ。貴様が必死に頭脳を巡らせて考えた方法であれば、例え荒唐無稽な策であっても、共に戦った戦友として力を貸すことに惜しみはしまいよ」
マントさんは愉快そうな笑みを口元だけに残すと、今度はその切れ長の鋭い目でジッと僕を見つめた。僕は彼を初めて見た時にどことなくライナに似ていると思ったが、この目もそうだ。なんと表現すれば良いのだろう、強者特有の意思がはっきりした目、とでもいうところか。
「冷静になってみろ。お前の知り合いの中に、沈む船を一人で救うことができる人間がいるか?」
「……あ、確かにいないです」
「そういうことだ。俺のように自らの才能を磨き上げ、不動の実力を手にした者ならともかく、貴様のように凡庸な人間であれば一人でなんとかできると考えない方がいい」
なんて自信に溢れた人なんだろう。ここまで自信満々に自画自賛されると、全く不快な気分にならない。
だが、協力してくれるのであれば非常にありがたい。会話をしている間に水位がもう腰のあたりまで上がってきているのだ。マントさんも猶予は少ないと判断したのか口元を一の字に引き締めて目を閉じる。すると彼の周囲に緑色に輝く粒子のようなものが立ち込めた。風の魔法の詠唱が始まる合図だ。
「愚者には偽りの翼を与えん、夢幻に溺れ舞い上がれ――」
まるで地震が起きたかのように、足元がぐらぐらと揺れた。そしてマントさんが魔法を唱え終わる次の瞬間、船が大きく跳ね上がることとなる。
「――翔翼」
……本当に船が浮いた。
髪の毛が逆立ってしまうほどの強い風を下から浴び、同時に床に支えがなくなった。まるで宙に浮いているような浮遊感が全身を包んでいる。船自体が浮かんでいるのだから当然だ。
そして船の損傷で開いた穴から、墨と混ざった水が一気に抜けていく。先ほどまで腰まであった水位が、今は足首くらいまでしかない。今のうちに穴を塞いでしまえば風の魔法の効果が切れても船が沈むことはないだろう。そう思い僕が氷の魔法の詠唱を始めようとした瞬間、今度は下からではなく正面からの風を感じた。
「これ以上危機を長引かせるのも気分が悪い」
マントさんの呟きと共に、宙に浮いた船が動き出した。……え、動き出した?
自由になった足を動かし、急いで甲板に上がると、やはりそうだった。この船、宙に浮きながら陸地に向かって動いている。
船を浮かせるだけの魔法を唱えるだけでも異常なまでの魔力が必要だというのに、それを動かせるだなんて規格外だ。少なくともこれまでの旅中で、彼のようなことを成し遂げられる人を聞いたことがない。
驚きのあまり口を大きく開けて呆けている僕を置いて、船はゆっくり陸地に向かって進んでいくのだった。




