10-そこにある違和感
スマホ、無事見つかりました。
爆発四散したクラーケンの死骸を眺める。先ほどまで人の命を奪おうとしていた奴の足も、今は全く動かずに墨の上を漂っていた。どうやら完全に倒しきることができたようだ。
ほっとして胸をなで下ろすが、まだ問題は残っている。僕は未だクラーケンが吐いた墨に足を取られて動くことができないし、この船は大イカが出現してしまったせいで船底に穴が開いてしまった。先ほどまでその穴はクラーケンの巨体が埋めていたものの、敵の体が爆発してしまったせいで、今は蓋が外れてしまった状態になっている。このままでは水が浸水し、船が沈んでしまうだろう。後はそうだな、まだ何かあったはずだ――。
……あ、そうか。クラーケンに投げた剣の回収もしないと。
そう思った直後、手元に違和感を感じた。その手元を見ると、僕は剣を握っていた。
僕が装備している剣は一本だ。二刀流なんて器用なマネができるとは思っていない。予備の剣なんて持っていないし、他に投げて攻撃できるようなものもない。
では、僕が勘違いをしているのだろうか。僕はクラーケンに対して何かを投げつけたわけではなく、実際は魔法か何かを使ってクラーケンを怯ませることができたのだろうか。うん、多分そうだ、と自分を無理やり納得させていると、背後からマントさんが嬉しそうに近づいてきた。
「誉めてやろう少年。お前があの時剣を投げつけていなければ、俺はあの海産物を倒すことに手間取っていただろうよ」
「え、僕は剣を投げていたんですか?」
「ん? 何を言っている。自分の行動も覚えていないほど切羽詰まっていたのか。貴様は手にしていた武器を投げていたではないか」
「手にしていた……」
勘違いではなかった。マントさんも剣を投げているところを見たのであれば、きっと本当に僕は剣を投げていたんだろう。ではその剣はどこに行ったのか。辺りを見渡したが該当するような物体は存在しない。もしかしたらクラーケンの爆発とともに粉砕してしまったのかもしれないが、全く武器の残骸が見当たらないのは不自然じゃないかと思ってしまう。
僕は再び握っている剣を見た。少なくとも、今現在の僕の手元には間違いなく剣が存在する。普段から使っている、見慣れた自分の剣だ。そうなると消えた剣は、そもそもどこから現れたのだろうか。
うーん、謎が多すぎる。これ以上は考えても答えが出るまで長い時間がかかってしまいそうだ。とりあえず今はこの謎の現象より、目の前の問題を片づける方が先決だろう。そう判断した僕は、一先ず置いていた二つ目の疑問をマントさんに尋ねることとした。
「ところでどうやって墨の中を歩いてきたんですか? 僕、未だに足を動かせないんですけど」
「俺のブーツは特別仕様だ。魔力を流せば沼地だろうと水上だろうと問題なく歩ける。先ほどは詠唱に集中するため、ブーツに流す魔力を切っていたがな」
え、そんな防具があったんだ。そんな感想を抱くと同時に、僕はマントさんの正体が概ね推測できた。
そのような特別な力を持っているブーツは、普通のショップで売られているような代物ではないはずだ。もちろん僕が知らないだけで市販されているという可能性はある。だが市場に出回っている便利なものがあるならば、世界を救うための勇者パーティへ優先的に情報が入ってくるようになっていたのだ。それなのに、そこに属していた僕が知らないということは市販品の可能性は低いはずだ。
つまりこの特別なブーツを所持しているマントさんは、自分で防具を作れるような魔法の知識が深い技術者か、それとも勇者より優先的に防具が与えられるような地位を持っている権力者か、あるいはただの盗人か。
きっと彼はこの中の権力者という立ち位置だろう。彼が装備しているマントが王国直属の魔法使いに支給されるもので、更に先ほどのクラーケンとの戦闘で見た察しの良さや魔法の扱いは素晴らしいものだった。あれほど実力が高いのであれば、本当に王国直属の魔法使いだと判断できる。現在こうして彼が一人でいる理由はわからないけど。
でも、渡りに船かもしれない。そんなすごい人ならば、この現状を打破できるようなアイデアがあるのかもしれない。他責志向となっている自分を反省しつつも、僕はマントさんに希望を込めた視線を向けた。




