8-ゆずれない願い
目の前から黒い液体が襲い掛かってくる。クラーケンの墨に毒などの成分は含まれていないはずだが、目に入れば失明などのリスクはあるはずだ。僕は両腕を使って顔面を覆い、襲い掛かってくる墨攻撃を防ごうとした。そして実際に、墨が目や口に入らないように攻撃を防ぐことはできた。
……ただ、予想外のことが起きてしまったけれども。
「足が――!?」
知らなかった。まさかクラーケンの墨がこんなに粘度の高いものだったなんて。
人間の横幅ほどある足を操るクラーケンは、一回墨を吐き出すだけで、船倉にいる僕たちの膝下まで埋まるほどの量のあるイカ墨を吹き出した。その墨は僕やマントさんの自由を奪い、まともに足を動かすことすらも困難にしたのだ。これでは次にクラーケンの足が飛んできても、避けることは困難だろう。それどころか――。
「近づけない……!」
そう、クラーケンに近づくことができないのだ。これでは攻撃を避けるどころか、こちらから攻撃を仕掛けることもできない。これでは先ほど話していた、僕が本体を狙ってマントさんがサポートをするという行動もとれないのだ。そもそも身動きが取れない状況なのだから。
どうしよう、これでは勝機が全くない。魔法を使って攻撃する手段も考えたけれども、マントさんはともかく、僕の魔法がクラーケンに致命傷を与えることができるとは思えない。それに、魔法を使う前の詠唱をしている間に、目の前にいるクラーケンの足で邪魔されるのが目に見えている。
悔しいが現状はかなりまずいものとなっているようだ。攻撃もできなさそう、魔法も使うことができなさそう、目の前にいる敵を倒すことができなさそう。
歯がゆくなった。敵は目の前にいるというのに、戦うことができないのだから。自分が無力だということを突き付けられた気がするから。やっぱり僕は実力不足の駄目な人間なのか。ライナの隣に立つことなんてできずに、ここで朽ち果てるのが運命だというのか。
――そんなの駄目だっ! 心の中にいる自分自身が叫ぶ。
「負けない」
ここで死ぬわけにはいかない。もう一度会いたい人がいるのだから。
「死ねない……」
ここで死ぬわけにはいかない。成し遂げたいことがあるのだから。
「死ぬわけにはいかない!」
ここで死ぬわけにはいかない。僕はまた、彼女の隣にいたいのだから。それだけは譲れないのだから。
近々、ウェンやライナのイメージ画像を描いてみようかと計画してます。
マントさんの画像は……後回しになりそうです。




