4-勇者の心、少年の中に
臨時更新です。
阿鼻叫喚とは現状のようなことを言うのだろう。船員の叫びを聞いて、ある人は悲鳴を上げてその場にうずくまり、ある人は泣きじゃくり、ある人は近くにいた船員の胸倉を掴んで問い詰めている。悲しみが、絶望が、人々を襲っていた。悪魔のせいで甲板には負の感情が蔓延していたのだ。
こういう状況の時、ライナならどうするだろう。世界を救おうとする勇者である彼女なら、どう皆に接するだろう。
ふと、目の前で泣いている男の子が目についた。その男の子はまるであの時の僕のように、膝を抱えて泣いていた。
「大丈夫だよ」
そんな彼を見ていたら体が勝手に動いていた。うずくまる男の子の肩にポンっと優しく手を置いて、そのまま屈んで視線を合わせ、僕は男の子に語りかける。
「悪い悪魔なんか、お兄ちゃん達がやっつけちゃうから。だから君も大丈夫。みんなで一緒に港へ帰ろうね」
「……ほんと?」
男の子はようやく顔を上げてくれた。まだ不安そうな顔をしているけれども、涙は跡だけになっている。
「うん。任せて!」
そして立ち上がった僕は甲板にいる人たち全員を見渡した。不安なのはこの男の子だけじゃない。みんなの不安を解くためには、みんなの前で言わなければならない。きっとライナならそういうことをするだろうから。
「皆さんも! 安心してください」
大きな声を張り上げた僕に、甲板にいる全員の視線が集まった。それでいい。僕はそのために声を張ったんだ。
「大海の悪魔は僕たちがなんとかします。だから皆さんはここで安心して待っていてください!」
「安心してって、お前みたいなガキに何ができると言うんだ!?」
そう言ってきたのは船員の胸倉を掴んでいたおじさんだ。彼の言っていることはもっともだ。僕は勇者パーティを追放された身の十四歳。少なくとも自分が皆を安心させられるようなオーラを身にまとっているとは思えないし、本当に大海の悪魔を倒せる実力を持っているかなんてわからない。でも、さっきまでのまま皆を不安になんてさせられない。きっと僕が憧れた勇者なら、みんなの不安を取り除いて見せるからだ。
「僕はただの船客です。でも」
元々勇者の仲間だったから。そう言おうと思ったが、ならば何故今は勇者の近くにいないのか、結局は実力がないのではと不信感を与えてしまうかもしれない。だったら――。
「でも、悪魔の足を無傷で倒すことができました。それはそこの船員さんや、この人が証言してくれます」
そう言って僕は先ほど声をかけていた船員さんと、後ろにいるマントさんの方へと指をさす。正確に言えば倒したのは一本だけだから、自分の実力を少しだけ盛っているのだけれど。
「本体だって倒して見せます。だから安心していてください!」
そう言って僕は、大海の悪魔が出たという船底へと駆けていった。自分が盛った実力を実現させるために。そして、皆と一緒に生きて陸へと帰るために。




