表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

忘れられた7番姫は結婚して幸せになっています。父王さま、ザマァ展開が近づいてますが、私は何もしておりません。

作者: ひろ

夜中に目が覚めて、思いつくまま書いてしまいました。

いつものゆるふわ設定です。

宜しくお願いします。

「ロゼ!」

王城の廊下で魔術師のローブを着た長身の男が私を呼んだ。


「カイル、お疲れ、早かったね。私も今戻ってきたところ。」

魔術師は定期的に国境沿いに張られている結界の点検と魔力の補充をする。


「ロゼ、魔力、余ってる?俺、空っぽだから頂戴。」

耳元で突然カイルが艶のある声で囁いてくる。


「なっ!!!!」

私が驚いてカイルを見上げた瞬間、先ほどまでいた王城の廊下から、夫婦の寝室に転移していた。


「ちょっと、転移できる魔力があるなら、今すぐじゃなくても!」


「いいや、今すぐ欲しいんだ。愛する奥さん。」


そう、カイルとはこの春、結婚した。

同期だったカイルとは相棒で、一緒に仕事をこなすうちに奥さんへと昇格したのだ。

カイルも私も秘密を持っていて、お互い口にしない。

今はただの雇われ魔術師夫婦だ。


口づけを交わし、魔力を交換する。

私たちは特に相性が良いらしく、大概魔力の交換だけでは済まなくなる。

まだ昼すぎで窓からさす光は柔らかい。


「ロゼ、ローゼリッテ、愛してる。」


カイルが私の真名を口にする。

ローゼリッテ・フォン・ルクシア・ユーラ

このユーラ国の王族として、捨ておかれ忘れられた存在。


それが私だ。


「カイル・・・・私も、愛してる・・・」

執着強めの夫は、夫婦の営みも長い。

今日も夜中まで私を貪るだろう。

特に魔力切れが近いとそうなるようだ。


『ほどほどに・・・・お願いしたいけど、無理ね。』

ロゼは諦めて、その身をカイルに預け快楽の海を漂うのだった。




幼い頃のロゼは名前で呼ばれることはなかった。

7番姫。それがこの国に住む者が呼ぶ自分の名前。

ユーラ国の王族として生を受けた赤子は、祝福されることはなかった。


父である国王は王太后の唯一の子で、それは大切に育てられた。

まるで神の如く扱い、我が子のために優秀な側近を集め、婚約者も美貌もさることながら、優秀さも評判の令嬢を据えた。

国王は母の言いなりだった。母親の言う通りにしておけば問題ないからだ。

実際、周りが優秀で、国王自身も特に愚かではなかったので問題なかった。

ただ一つ、女性関係を除いては。


国王の女癖の悪さは母である王太后が生存中はなんとかなっていたが、王太后が亡くなると国王の評価は少しずつ変わっていった。


それでも優秀な王妃と側近たちのおかげで国はなんとかなっていた。

国王の女性関係が問題視されるのは時間の問題だったが。



そんな父が神殿の踊り子だった母を酔って手籠にし、一度きりの交わりで生まれた姫が私だった。

タイミングは最悪と言っていいだろう。


母の妊娠が分かると、父は本当に自分の子なのかと疑った。

責任を取りたくなかったからだ。

しかし、生まれてきた姫は王族しか持たない琥珀色の瞳を持っていた。

神殿の大神官も間違いなく王の子だと祝福し、認めざるをえなかった。


渋々、離宮を与え母子を住まわせたが、最低限の世話人をつけて父である国王はこの親子を忘れてしまった。


周囲からも名前で呼ばれる事もなく、公式行事にも姿を見せた事もなく、幻の7番姫と呼ばれていた。




私がこうして王城で魔術師として働けているのも、全て王妃様と異母兄姉のおかげだ。

忘れられた親子を密かに匿い、高価な魔道具で瞳の色を変え、ロゼとして学園に通い、魔術師の国家試験に合格した。

職場は城に勤務し、父親である国王とも顔を合わせることもあったが、国王は全く気が付かなかった。


カイルと結婚する時も王妃様はとても喜んでくれた。


神殿の踊り子だった母は、元々没落した男爵家の令嬢で、幼馴染の男性は母を諦めきれず、ずっと待ってくれていた。

母は名前を変え幼馴染の男性と結婚して今は幸せに暮らしている。


愚かな父王はまだ気がついてない。

私たちがいなくなっていることも、自分の罪を償う時が迫ってきていることも。


私は何もせず、ただ傍観するだけだ。


母を不幸にし、娘を放置し、そして王妃を、多くの女性を蔑ろにし続けた報いを受けるのだ。








「7番姫がいないだと?!」


すっかり周りから忘れ去られていた姫が注目を浴びたのは私が結婚して1ヶ月経った頃だった。

自分が思いつきで行った隣国イージスとの戦争は敗戦濃厚となり、父王は停戦条約を結ぶ為、忘れていた7番姫を隣国の王へ嫁がせて収めようとまた思いついた。


この頃には側近たちも国王の尻拭いに疲れ切っていたが、腐っても国王である。

停戦の条件に自国の姫を嫁がせ、賠償金を払うことでなんとか合意してもらったのだ。


王妃の子で国王が溺愛する6番目のナターリア姫は国内で婚約者を選定中で、手放すことはできない。

7番姫の存在を思い出した国王は、すぐに姫を連れてくるよう部下に命じたが、与えた筈の離宮には親子はおらず、朽ちたカーテンと埃が溜まった部屋はすでに使われなくなって相当な年数が過ぎていることを物語っていた。


「どう言う事だ!なぜ2人ともいないのだ!使用人はどうした!」


「年老いた使用人は10年以上前に死に、それから新たに誰も補充されていなかったらしく、おそらくその直後に城を出たのではないかと……」


「なっ!10年前?すぐに2人を探し出すのだ!絵姿をばら撒いて国中を探すのだ!」


「恐れながら、7番姫様の絵姿は残されておりません。」


「なっ……!」

国王はさらに絶句した。

7番姫が生まれる前の年、正妃が姫を出産した。

王妃妊娠中にうっかり手を出した神殿の踊り子を妊娠させてしまった王は後ろめたさもあり母子を遠ざけた。


大神官の手前、とりあえず認知して離宮を与えたが、産まれた時に一度見ただけですっかり忘れてしまっていた。

瞳が琥珀色以外髪の色さえも覚えておらずもちろん絵師に絵姿も描かせたこともなく。


「不味い……すでに隣国に姫を嫁がせる事は決定している……このままだとナターリアが隣国へ嫁ぐ事になってしまう!」


国王は背中に冷や汗を流した。

王妃をこれ以上怒らせるのは不味い。

王妃は元公爵令嬢で後ろ楯もあり、才能と美貌に恵まれ、社交界に君臨している。

婚姻は王家が強く望み、側妃はもたないという条件で成立した。

当時から女にだらしない王太子だった国王はそれでも優秀で美しい妃を得る為ならばと仕方なく条件を飲んだ。

もちろん打算はあった。

『身分の低い平民を愛妾にすれば問題ない。別邸に住まわせればバレないだろう。』

国王は身分が低い愛妾が産んだ子は正式な王族としては認められない為、継承争いも起きないだろうと安易に考えた。


王妃は婚姻後、2人の王子と1人の姫を産み、その地位を揺るぎないものにした。

その間、国王は2人の平民出身の愛妾を抱え、王妃にはできないような獣じみた交わりを楽しんだ。


10年後、王妃に内緒で囲っていた愛妾2人が男児2人、女児4人を産んだ事が明るみに出ると、正妃はすぐ愛妾を城に住まわせ生まれた子は城で養育し、成人後王族の身分は与えず母子共に貴族籍を与える事で決着した。

王妃のこの対応は周囲から称賛された。

そして国王は側近達の信頼を失った。


これ以上は子は増やさぬよう側近達に強く言われ、愛妾たちは子が生せぬよう常に薬を飲むことになった。


その後、王妃が最後の妊娠と周囲にも話した6番目の姫を妊娠した。


それなのに神殿の踊り子に手を出して妊娠させ、7番姫が生まれた事が分かった時の王妃の目は恐ろしいほど冷たいものだった。


殺されるかもしれないと本気で思った。

もう自分を庇ってくれる母親はいない。

震え上がった国王は側近達に縋った。

側近達が何とか取り成してくれたが、あれから王妃とは閨をともにしていない。


王妃が産んだ2人の王子達も父親を蔑み、上の姫は口をきかなくなった。

何も知らないナターリアだけが国王を父として扱ってくれていたのだ。

これで隣国へ政略結婚などと知られれば、どんな仕打ちをうけるかわからない。


「とにかく、琥珀色の瞳を持った18歳くらいの女を何としても見つけ出すのだ!」


「せめて7番姫様のお名前を教えて頂きたいのですが……」


「………名前………」


「まさか……名前すら知らないのですか!」


側近達が王を見限った瞬間だった。




それから一年後体調不良を理由に王は退位し、新たに第一王子が国王となった。

第二王子は臣籍降下をし、公爵となって兄を支えた。

1番目の姫も、侯爵家の跡取りである騎士団長の元へ降嫁した。

王妃は王太后として離宮で暮らし、裏で国を支えた。



7番姫も踊り子だったその母親も、その後見つかる事は無く、死亡と認定された。


王の退位が議会で満場一致で決まり、療養という名の幽閉が決まった直後、呆然としていた国王の部屋に王妃が訪れた。



「快楽に弱く、女を道具としか見ていない愚かな男もこれでおしまいね。

あなたに人生を狂わされた女性は何人いるのかしら?お手つきになって泣き寝入りした侍女が何人私のところへ来たかご存じ?

行儀見習いとして王城に勤めていた下位貴族の御令嬢は貴方から受けた仕打ちを忘れず、結婚しても夫と共に機会を窺っていたの。あの議会には貴方が傷つけた女性たちの夫が多くいたのよ。」


「そんな・・・・私は、国王で・・・私に愛されることは光栄だと・・・・」


「愚かな母親の言うことを真に受けた馬鹿な息子。その年齢になっても気づけないのね。あなたの公式な愛妾2人もさっさと城を出ていったわ。」


「そんな馬鹿な!あれほど可愛がってやったのに!」


「そう思っていたのは貴方だけよ。所詮金のために我慢したに過ぎないわ。」


「そんな………わたしは……間違えていたのか……」


元国王の愛妾2人は手切金を受け取り城を後にし、姿を消した。


1週間後、家族から見送られることもなく元国王は王領にある小さな城に静養と言う名の幽閉への道を僅かな使用人と護衛を連れて旅立った。

更に1年後、愚かな元国王は呆気なくこの世を去った。

表向きは病死であったが、強盗になりすました暗殺だった。

多くの女性から恨みをかっていた王の惨めな最期だった。



その後、7番姫ことローゼは隣国イージスへと移り住んだ。

カイルはイージス国王の異母弟で、公爵でもあった。


両国の停戦条約の条件通り書面では7番姫は降嫁した。


公には姫の降嫁はなく、賠償金の支払いだけとなった。

新たな国王となった異母兄はイージス国王と不可侵条約を結び、両国の平和を誓ったのだ。

イージス王は弟を溺愛しているので、7番姫をとても歓迎した。


異母兄の元第一王子、現国王は一見爽やかだが、実に食えない男である。魔術師時代は彼の下で馬車馬のように働かされた。

しかし愛情も深い人であった。

王太后と一緒に忘れ去られた7番姫とその母親に新たな戸籍を用意してくれたのも彼だ。


隣国へ旅立つ前日、兄に呼ばれたロゼは大量の回復薬を渡された。


「これは………何に使えと?」


「カイルってさ、夜の生活、滅茶苦茶しつこいでしょ?今まで私たちに気を使って抑えていたみたいだから、イージスに帰ったら、多分一歩も部屋から出られなくなるよ?」


「ええっ!?あれで抑えていたのですか?」


「彼、先祖返りって言われていてね、魔力量も膨大でしょ?龍神を始祖にもつイージス王族はたまに先祖返りと呼ばれる者が生まれるんだけど、どれも自分の伴侶を番とよんで、周囲から遮断するくらい執着するらしいよ?だから君もイージスに移住するとなると、体力勝負になると思ってね。

優しい兄はこうして回復薬を大量に用意したわけさ。」


「その情報、もっと早くに教えてください!」


「いやぁー、だって黙ってた方が面白いし、カイルにも恩が売れるし?両国も安泰だな!」


「腹上死したら絶対恨んででてきますからね!」


「大丈夫、大丈夫、カイルも死なない程度に加減してくれるだろうし。まあ、起き上がれないくらいにはなるだろうけどね、あははは!」


「鬼!悪魔!うわーん!」


そんなやりとりをした後、私はカイルに抱き抱えられ連れ去られた。


もちろん、イージスのカイルの邸に入ると、執事達に挨拶することなく部屋に連れて行かれ、数日に及ぶ夫婦の営みの後に悔し涙を流しながら異母兄から貰った回復薬を飲むロゼの姿があったのは言うまでもない。


7番姫は今日も愛されて過ごしている。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 戦争起こそうと言い出した時点で止めろよ。見限るのが遅すぎて何万人死んでるんだ。ざまぁの為に馬鹿になってるよな
2023/09/14 08:35 退会済み
管理
[気になる点] オチは余計。 ガチでキツそうで笑えない。 [一言] 愚王は、王太后辺りが気を利かせて、最初から実権を剥奪して、自由意志による合意が条件で女性を迎える後宮だけ与えて、そこに軟禁でもしてお…
[一言] …ちなみに政略に使われそうになった6番姫はどうなりましたか? 父王のやらかしを知ったときとかとかの反応はいかに …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ