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情報屋、いかがですか?  作者: 和泉明日
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不幸とは、立て続けに起こるものだ

「で、それ以降ずっと教室の隅っこに縮こまってたのか?」

「うるせぇ。俺は桜坂と違ってクラスに友達がいないんだよ。悪かったな」


2学期の始業式をなんとか乗り越えた俺は、放課後の教室で、同じ中学校出身の桜坂創真と雑談をしていた。

少しずつ暑さは収まってきたとはいえ、今はまだ八月だ。

もう7時になるというのに、日は完全に落ちきっておらず、夕日が俺たちを照らしていた。


「そんなこと言わなくてもいいじゃないか。確かに俺たち中学校から宮国高校に来たやつは、俺達を含めて3人しかいなかったが、お前のクラスには一条さんがいるじゃないか。この間も仲よさそうに話してたじゃないか?」


ちなみに宮国高校というのは、高宮国際高校の略称だ。


こいつ、人と会話をすることをさも当然かのように言っているが、俺にとって会話とはそんなに簡単にこなせるものではない。


会話とは、ポケモンみたいに人と目が合うと半強制的に始まる。

こちらにその気がなくても、相手が話しかけてきたらそこでスタートだ。

人の都合も考えず、身勝手に始まる聞きたくもない自慢話。

俺は相手の顔色を見ながら、完璧なタイミングで相づちを打ち、脳みそを限界まで使って相手のほしがっている言葉を考え、与える。

しかし、それだけでは満足せずに今度は俺のエピソードを語ってくれとばかりに期待に満ちた目をこちらに向けてくる。

そして、おれが一生懸命考えたユーモアあふれる話をしても、みんな決まってこう言う


「へ、へぇ~。春夏冬くんっておもしろいんだね」


そんなにがっかりするくらいなら、そもそもこちらに話しかけて来ないでほしい。

そいつらは、次から俺のことをバカにした目で見てくる。それが心底嫌だった。

なんでお前が無理矢理始めたことで俺が失望され、馬鹿にされなきゃならないんだ?と。


そんなことを入学から繰り返していた俺は、ある日、会話の心理にたどり着いた。

相手が求めているもの、それは俺の自虐ネタや失敗話。

ほら、ひとの不幸は蜜の味って言うだろ。幸いにも俺は今までひどい思いを沢山してきたので、ネタには困らない。そのエピソードを面白おかしく語るだけで、相手は勝手に満足して帰っていく。

がちトーンで話すと普通に引かれるからそこは注意な。


「あれは一条さんの高すぎるコミュ力のの影響を受けて、俺のコミュ力が一時的にだが飛躍的に上昇してたんだよ」

「何だよそのバトル漫画にありがちな現象は。お前もいい加減友達作れよ」


桜坂は、笑いながら俺の脇腹をつついてきた。


「や、やめろよ。なんで俺の弱いとこ知ってるんだよ」

「…。親友だからな」


ニコッと笑いながらそういった桜島を見て、俺は泣きそうになっていた。

これだよこれ!これが俺の求めてた友達だよ。

イケメンだ…。今まで友達があまりいなかった俺は「友達」と言う言葉に弱い。

親友なんて、俺を殺すには」十分すぎる言葉だ。


「そういや、今までずっと疑問に思っていたんだが、お前は俺や一条の前では普通に話せるのに、何で他のやつだと急に話せなくなるんだ?なんかあるんだろ。話してみろよ」


そうやって俺に疑問をぶつけてくる桜島の顔は夕日に照らされ、まぶしくてこちらからはどんな表情をしているのかわからなかった。


「お前らは、昔から知ってるからな。他の奴らに比べれば話しやすいに決まってるさ」

「嘘だ。お前は俺たち以外と話すときは明らかに顔色が悪くなってるし、目も合わせられないし、なにより少し苦しそうだ。本当は他になんかあるんだろ。話してみたら楽になるかもしれんぞ。」


こりゃあ話すまで帰してくれそうにないな。

ほんとに…こいつはどこまでいいやつなんだ。


「うそなんてついてねぇよ。いつまでも俺のコミュ力を馬鹿にするんじゃねえよ」


だからこそ、いえなかった。

こいつにまで変なやつと思われたら。俺は簡単に死ぬ自信がある。


「そうか、まぁなんかあったらいえよ。お前とは長い付き合いだからな。俺にしか話せないこともあるだろ」

まったく。どこまでいいやつなんだ。

そりゃあモテるわけだよ。俺が一人で納得していると、不意に後ろから声をかけられた。


「お前達、まだ残ってるのか」

「す、すいません」


俺が反射的に謝ると、そこには山本先生が立っていた


「春夏冬。お前には話があるちょっとこい」

「いや…俺今から帰るんで…」


無愛想な山本先生が笑っている…だと…?

嫌な予感がしたので帰ろうとするも、先生にがっしりと肩をつかまれあっさりと捕まってしまった。

桜坂は脇目も振らずに逃げていった。さっき感じた友情って何だったんだろう。


「ちょっと話がある。こい」


そう言って不敵に笑う山本先生の顔は夕日に照らされとても綺麗だったが、それ以上に怖かった。


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