本当の自殺
後味が悪いと思いますので、ご注意を。
僕は、学校からの帰り。
同級生達から、石を投げつけられた。
ごんっと、ゴムタイヤを殴ったような鈍い音が聞こえる。
視界が白く霞む。
やがて髪の毛の間から、ツツーと温かい血が流れ落ちていくのが分かった。
「この醜い化け物が」
同級生達が僕の事を、そう罵る。
取り囲んでいる全員が、蝋人形のような白い目で嘲笑っていた。
でも僕は、これぐらいの虐めには慣れている。
本当は痛かったけど、我慢した。
嫌がる素振りを見せれば、同級生達はもっと虐めてくるに違いないんだ。
僕は、頬にまで流れる血も気にせずに、帰宅しようとした。
その時。
髪の毛をギュッと引っ張られ、強引に引き倒された。
そのまま僕の手足を掴まれ、無理やりに自由を奪われた。
そして、顔に砂がかけられた。
シャベルで集められた大量の砂が口やら鼻に入り込み、息が出来なくなる。
ただ、苦しくて、苦しくて。
僕がひっくり返ったカブト虫のように足掻くが、誰も手を放してくれない。
涙や吐瀉物が体の中から迫り上がって来るも、栓がされているので逆戻りする。
もしかしたら、このまま死んでしまうのではないか。
そう思った時、同級生達は手を放してくれた。
僕は慌てて砂を払い、ゼーゼーと酸素を吸い込む。
その時、離れた所から、死ねーと叫ぶ声が聞こえてきた。
見ると、そこには僕の事で楽しく談笑している同級生達の姿が合った。
きっとそのまま、寄り道でもして遊びに行くのだろう。
夕日の中に、同級生達は消えていった。
僕は涙が出た。
それは苦しかったり、虐められたりしたから出たのではない。
同級生達が帰宅する姿を見て、
「あー、友達がいて羨ましいな」
そう思ってしまったからだった。
僕の目からは、涙が何時もより多く流れ落ちていた。
帰宅した後。
今日の事を母親に報告した。
すると、頭を撫でられた。
「あなたは、とても素直で優しい子ね。何時までも、そういう心を大切にして欲しいわ」
「……でも、辛いよ」
そう言って、僕は甘えようとした。
その時。
力強く、母は言った。
「聞きなさい。人は誰でも辛い時期があるのよ。そう誰でもよ。今はあなたの順番でも、やがてその同級生達にも回っていく日が来るわ。今は、歯を食いしばって耐えなさい」
頭をなでる母の手が、少し強くなっていた。
でも、本当に、そうなんだろうか。
辛い事が、当番制のようにグルグル回っているなんて、ありえるんだろうか。
今の僕には、そう思えなかった。
とてもじゃないが、もう待てない。
もう、辛いのは嫌だった。
深夜。
家族が寝静まった頃に、僕は家を出た。
遺書を残して。
出来る限り、母が悲しまないように書いたつもりだった。
何もしてくれない父の事は、一言も綴らなかった。
そして僕は死に場所を求めて彷徨った。
でも、お金は一円もなかったので、行ける所は限られている。
駅前、住宅街、神社、ビル群ぐらいか。
どれも、死に場所には相応しいとは思えない。
何より近所では嫌な思い出しかないので、死んだ後に後悔が残りそうに思えた。
仕方ない。
僕は、とりあえず遠出する為のお金を、父から勝手に借りる事にした。
最後なんだから、それぐらい良いだろう。
そう自分に言い聞かせ、僕は家に戻った。
すると深夜にも関わらず、明かりが付いていたのである。
家に近づくと、大声で話す母と父の会話が聞こえてきた。
「ようやく、あの子が死ぬ事を選んでくれたわね。長い間、逃げないよう精神的に追い詰めてきた甲斐があったわ」
「ああ。あの醜い化け物の顔を見て、何度殺したいと思った事か」