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ガイド


その後……


「お前らの最後の日を演出する殺戮の女豹コーマ・ン・リクットリスだ……死ね!」

とか

「人間どもよ!暗黒の棒使いマイーラチオ・ノドニー・ワルーイだ!」

だとか

「天帝!覚悟しろ!戦慄のペッティンガス・ビー・ブンルイだ!恐れおののけ!」

だとか

「魔軍鬼軍曹と呼ばれ恐れられるフィンガーテク・イカスだ!」

とかいう……もう捻ってもいない名前だと……。

「ドエムー・ムチスキーよ!かかってきなさい!」

ちょっとは考えてよ……トーミャに聞かせられないでしょという名前とか……。

「ふっ、わらわは、ショップン・カンゾウダ・メニナルー将軍じゃ……くくく、この暗黒臓物からひねり出されたダーク瘴気をくらうがよい……」

それシモネタなの?変態道に進もうとしてる人への警告では?むしろあなたの名前それでいいの?

という、もうよくわからないネーミングまで、とにかく変な名前のどう見ても人ではない人型の魔物たちを大体10~40秒くらいで抹殺し続けながら、日が暮れるまでに、補助魔法の移動効果で何百キロも進んだ私たちはテルナルド東南の高い山脈を樹海が覆う国境地帯に辿り着いた。


森に囲まれた山脈中腹の洞窟内の壁に寄りかかったジョニーが

「なんか、最後にかかってきた内臓バカバカ開閉してたマモノ将軍とか言ってたな……」

あまりのシモネタ乱舞に飽きてきたらしく、朝よりかなりやる気がない。

私は寝ている疲れて寝ているトーミャを膝枕しながら

「……女型マモノだったら服くらい着てほしいよね……」

すっごい胸とかお尻とか大きかった。全身紫と赤色に斑に光る肌だったけど……。

「別に乳首も筋もなかったから、アニメ的にはオッケーなんじゃないか?そんなことより、将軍が出てきたってことは相手方が早くも人材枯渇してきたってことだぞ?」

「かもねー……ジョニーの新魔法でやられたのもマモノの大軍団だったみたいだし、かなり戦力削ったんじゃないの?」

「なあ、アイ……」

ジョニーが真剣な顔で私を見てくる。

「なによ」

「疲れてないんだよ。俺もアイも魔法撃ちまくったのに」

「たしかに……」

眠気すらない。魔力値がない状態で魔法を使っているという異常な状態に加え、日中、恐らく数百万単位で魔力を使っているはずなのにまったく体に疲れがない。

私は、途中の街で買った食料を入れた布袋を開け水と乾パンをジョニーに渡しながら

「とりあえず、それを考えるのは、調査が終わったらしない?」

「……そうするか。メイズ、今頃どこかで元気にしてるかなぁ……」

「ねぇ、ジョニー、ルナーちゃんのこと考えたらね……」

ランプの光に照らされたジョニーは、私の考えを察した顔で頷いて

「ああ、そうだな。今は俺たちの近くにいない方がいいな。うちのばあちゃんだと判明したサニーもな……まだ実感がないが……」

「そういうのも、追々、調べて行こうよ。なんか、考えるほど色々と変だよ……」

「今更なんだが、ワープで直接本拠地にいけないのか?たぶん、使えるはずだと思うんだが」

私は少し考えて

「暗黒荒野地帯は、まともな地名や地図が無いの。行ったら意味が分かると思う」

「そうか……ちょっと楽しみになってきたな」

ジョニーはそう言うと横になった。

眠くない私は深夜まで色々と考えながら起きていてその後、ジョニーと交代で眠りについた。


翌朝、出発の準備をして、私が全員に移動や攻撃防御の補助魔法をかけ、そして山脈の頂上へとあっという間に辿り着くと、朝日に照らされて、地平線の先まで広がる暗黒荒野地帯の状態が一望できた。

ジョニーは感動した顔で

「そっ、そういうことだったのか……変なエロに拘る異世界アニメかと思っていたらモンスターハンティングゲームだったとは……」

と言うと、さっそく飛び込もうとしたので私が手を引いて止める。

トーミャが腕組みしながら

「魔力値ナンバー4の"うねる大蛇ヴァーヴァーマス"ですね……。実物を見たのは初めてです」

「私もそうだし……一生見ることなんてないと思ってたけど」

私たちが立つ高い山脈の遥か遠方の荒野では

数キロに渡るであろう長さの、遠近感がおかしくなりそうな紫の鱗をギラギラと光らせた超巨大蛇がのっそりと移動していた。

「魔力値ナンバー4とか言ったな、どのくらいあるんだ?」

ジョニーがワクワクした顔で言ってきて。トーミャが真面目な顔で

「僕が習ったところによりますと、百年前に七千二百万ヌーレルで五十年前の調査では、七千五百万だったそうです」

ジョニーがまた宙を駆けて行こうとして、私が手を引いて地上へと降ろす。

「あっ、アイ、倒させてくれ!あいつの鱗とか肝とか牙で!きっと凄い武器が作れると思うんだ!」

両目を輝かせているジョニーに、私はため息を吐きながら

「異世界で勉強したから知ってるけど、それ、有名電子ゲームの話でしょ?そういう相手じゃないって。それに、人間には敵意を持ってないよ。この山脈から北には絶対に出てこないからね」

ジョニーは残念そうな顔で

「なんだ、悪いやつじゃないのか……」

トーミャが思い出した顔でジョニーの方を見て

「最近の研究だと、オギュミノスも元々は、暗黒荒野地帯の生き物だったんですけど、あまりに暴虐を働いたので、他の巨大生物たちに追い出されて竜騎国に住まわせてもらったということらしいです。……それに、僕の専属教師が言ってました、あの手の生き物に人間で対抗できるのは天帝ジョニー様とテルナルドの英雄……」

チラッと私を見る。

「……えっと、私とジョニーが居なかった間に

テルナルドで私がすっごい無暗に神格化されてたのは分かるけど、あの……実物は、ほんと、そんなんじゃないので……」

オギュミノスでも大きすぎたのに、あんな相手と戦うなんて怖すぎる。


ジョニーが勝手に飛んでいかないように手を掴んで止めつつ、山頂から見える暗黒荒野地帯を見回しながらトーミャと、モチモッチモスウィーン教の本部がありそうな方角を話し合っていると不自然な黒雲が、フワフワと風に逆らって上空をこちらへと向かって来ているのが見える。

「ジョニー、なんかあの雲変だよ。魔法撃つ準備しといて」

「……トーミャ、あれも暗黒荒野の生き物なのか?」

「……分かりません。ハリケーンそのものの気象生物の噂はあるんですけど……」

黒雲はそのまま私たちの上空まで来るとピタッと停止して、そしてなんと、位置調整をするように風を無視して暗黒荒野地帯の方へと微妙に後退した。

そしてモクモクと下の方へと伸びていき

その伸びた部分が左右に膨らみ、巨大な男の顔のようになる。目鼻立ちはっきりしていて、濃すぎる顔立ちだ。

「……なにあれ……」

「おっさんの顔だよな……」

「人の顔ですね……」

私たち三人が、唖然として見上げていると、その顔はニカッと笑い

「天帝陛下、天帝代理閣下、そしてトーミャ王子、暗黒荒野地帯へようこそ!」

空中に響くような感じの良い低めの声で言ってきた。

「倒した方がいいのか?」

「ジョニー、ちょっと待ってて。敵意はなさそうだよ」

顔はボフッと小さく千切れながら消えると

小さく千切れた黒雲が下へと降りてきた。そして私たちの目の前で顔の形になり

「あーどうもどうも、たぶんこのサイズなら協定に反しないと思ってな。暗黒荒野地帯に住む、ヒハニーキって気象生物だ。気象生物ってのは、つまり生きてる雲とかってことだよ。実際は特殊なガスが核になってて、その周りに雲を纏ってるんだけどな。核も分裂させられるから、分身も作り放題って感じ?」

ジョニーがなぜか微妙に起こった様子で

「……おい、謎の生き物、いきなり設定を喋りすぎだ。そうでなくともこのアニメは長セリフばっかりなんだぞ?別に適当に流し読みしてもいいセリフの意味を必死に考えたことはあるか?俺はあるぞ。無茶な設定の辻褄を合わせるためだけに延々と続く登場人物たちの設定説明の会話シーンを見させられる、そんな視聴者の悲しみを考えたことはあるのか?」

「あーメタ視点ってやつ?そういうの大事だよねー。自分の後ろから別の自分が客観的に見ていて、その自分をさらに後ろの自分が客観的に見ているとか、そういうのって、メンタルにいいらしいぜ?色々とバカバカしくなんなくてさ。つーかさージョニー天帝陛下的には、アイちゃんについてどう思ってんの?

まだ好きなの?メイズ皇后陛下ともご無沙汰だろうー?」

「……」

ジョニーは嫌そうに顔をそらして黙り込んでしまった。

私が代わりにこのよく喋る黒雲に

「……えっと、ヒハニーキさんでしたよね?なんで、私たちのことを知っていて、どうしてここに来たんですか?」

ヒハニーキと名乗った謎の黒雲は、ニヤリと笑った顔を作って

「ここに来たのは二十一年前に、天使のコリーさんに頼まれたんでね。なんで、あんたたちのこと知ってるかってのは、協定違反なんだけど俺、時折、普通の雲に混ぜて、分身体を人間世界に飛ばしてるんだよ。それで、色々と知ってるってわけ。メイズ皇后とジョニー天帝陛下の身体の……いや、子供聞いてるからやめよ」

ジョニーはうんざりした顔をしながら

「お前、新たなスグルの感じがするぞ。主人公より主人公っぽいとか俺より長ゼリフとかそういう俺への嫌がらせを止めろ」

私はジョニーを体で遮りながら

「つまり、ヒハニーキさんは、二十一年前にコリーさんに頼まれたから、これから私たちに暗黒荒野地帯の案内をしてくれるってことですね?」

ヒハニーキは黒雲の身体を手の形にして、オッケーのサインを作ると、またすぐ顔の形に戻って

「そゆこと。ガイドってことだね。理解が早くて助かるわー。ちょっと待っててなー。本体とくっついてきて記憶の統合してくる。またこのサイズで戻ってくるから」

ヒハニーキはフワフワと上空の黒雲へと浮きがっていった。

残された私たち三人は、それを呆然と見上げる。

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