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召喚魔法

連れて行っては良いと言ったものの、何をしたらいいか分からない私は、期待に満ちたトーミャと、そして眠そうなジョニーのアホと並んでランプに照らされた夜中の中庭のベンチに座っていた。

間にアホを挟んでいるが、やっぱりちょっと胸がドキドキする。

たぶん、恋とは違うと思う。恋ならば私にもいくつか経験があるし、いつも一方的な片思いで終わったけれど、その時の気持ちは覚えている。

ほんと、この胸がキュンとするのはなんだろう……そんなことを思いながら、二人と座り続けていると中庭を囲む回廊からルナーが駆けてきて

「アイ、すまない。首都内の制圧に時間がかかった」

汗だくの額を拭った。そして私の顔を見て

「……どうした?」

不思議そうな表情で尋ねてくる。隣のジョニーがニヤニヤしながら

「このショタにキュンキュンしてるんだ。なんか王族らしいぞ」

ルナーは一瞬、鋭い目つきでトーミャを見てから

「害意は無いな。……トーミャ・テルナルドか」

「はいっ!トーミャです!」

トーミャはわざわざベンチから降りて、ルナーの前に跪く。

トーミャが再びベンチに座り直し、ジョニーが笑いながらルナーに敬意を説明している間、私はトーミャをチラチラ見ながら胸のトキメキを感じていた。


すっかり事情を把握したらしいルナーが私の隣に座ってきて

「正直なところ、今後を考えると邪魔だ。しかし、アイが気に入ったのならば仕方ないな」

「いっ、いや……気に入ってはないけどね……何か気になるの」

ルナーは私の顔を見つめるとニヤーッと笑って

「……まぁ、飼ってみるのも一興か。トーミャ、お前、特技は何かあるのか?」

「……召喚魔法を使えます!ミャーミ陛下みたいに大きいのは無理ですけど」

ジョニーが口惜しそうに

「あのでかいのもっかい召喚してくれないかなぁ。俺が一撃で粉砕して、歴史に名を遺すんだが」

ルナーが苦笑いしながら

「お前の名前はとっくに歴史に残っているよ。それよりもトーミャ、使ってみてくれ」

「はいっ」

元気よく答えたその声に、また私の胸はキュンとする。

トーミャはベンチから立ち上がると、私たちの前で三メートルほど距離を取り

「……白き毛皮を毟られたもの……そして白き毛皮を取り戻しもの……イエナバーノシロウサギ!」

その瞬間、トーミャと私たちの間の地べたに真っ青に輝く魔法陣が現れ、その一メートルほど上にポンッと音がして、宙を浮く真っ白な大きめのウサギが現れた。

ウサギは私たちを見回すと、ルナーにフワフワと近寄っていき

「……癒されるべき者に、癒されるべき時を……」

意外と貫禄がある声でそう呟いた。同時にルナーの身体が激しく緑に光り、そしてウサギと魔法陣が消えると、緑の光も消えていた。

ルナーは驚いた顔で立ち上がり

「疲労が消えた……」

トーミャは恥ずかしそうな顔で

「召喚回復魔法です。でも、これ元気の前借りなので、ちゃんと寝た方がいいです。放っておくと、後で一気に疲れが来ます」

ルナーは理解した顔で頷くと、ベンチに座り直し

「テルナルド王家は、召喚魔法の使い手だという噂は本当だったのだな」

トーミャは真面目な顔で頷いた。私はキュンキュンし続けているので、とにかく黙って二人のやり取りを見守ることにする。

「外では披露しないようにしています。先ほど、陛下のマガツヒノカミが発動されましたがあれは、王になった時に予め催眠術がかけられていて緊急時にだけ召喚されるものです。あれほどの魔法だと、魔力の消費と、身体への悪影響が大きいので……」

「一族の秘密をペラペラ喋ってしまっていいのか?」

意地悪な顔のルナーにトーミャは慌てて黙った。私は、その姿にまた胸がときめいてしまう。


その後、ジョニーとトーミャは別室に待機して、二人と離されて高い玉座に座らされた私がスグルやルナーたちに次々に連れてこられる首都の庶民代表や協力してくれた群衆たちの代表への慰労をすることになった。

大人たちに高いところから何て声をかければいいかわからない私にスグルがメモを用意してくれていたので、それをチラチラ見ながら

「……大儀であった。初代天帝代理アイ・ネルファゲルトとして感謝する」

とか

「私は、貴公の尽力に感謝するぞ。下がってよい」

などと偉そうなセリフを、いいのかなぁこれ……などと思いながら読んでいると、左右をスグルとルナーに囲まれて、ゾズミィ・テルナルドが玉座の間に入ってきた。

上半身裸ではなく、ちゃんと貴族服を着ていて、髪もなでつけられている。

ゾズミィは私の前に跪くと

「この度は、元テルナルド王族の一人として

アイ様の寛大なるご処置に感謝いたします」

そう、かなり色んな感情が入り混じったような声で言ってきた。

この人に、なんかしたっけ私……と困惑しながらスグルを見ると彼は頷いて私の代わりに

「ミャーミ・テルナルド及び、旧王族は西の旧王族静養地に隔離して、取り調べを受けてもらう。その後の沙汰は追って通達することとする!」

そう言ってくれたので、私はメモをチラッと見て

「……よろしい。下がれ」

とそれっぽいセリフを選んで言うと、いきなりゾズミィは涙目になり

「くれぐれも、くれぐれも……息子のことをよろしくお願いします」

そう頭を床に当たりそうになるくらい下げた後、スグルとルナーに連れられ、項垂れながら玉座の間から出て行った。


謁見もどきも済んだようなので、ルナーに連れられて、私は宮殿内の私割り当てられた二部屋ある広い宿泊室へと向かっていく。

その扉を開けると、豪華な造りの室内ではなんと

「はい、また負けー!脱げー」

「くっ……はっ、はい……」

パンツ一丁とマントの姿のジョニーに指をさされたトーミャが下着の白シャツを脱いでいた。彼はもはやパンツしか履いていない。

「おい、アホ、何してんのよ……」

ジョニーは自慢げな顔で

「天帝自ら、卑劣なテルナルド王族に制裁を加えているところだ。ふふふふ……トーミャはチョキしか出せないが俺はグーしか出せないフェアなルールのジャンケンで負けたら一枚ずつ脱ぐという遊びをしている」

ルナーがニヤーッと笑って

「アイ、私とそれをやろう。私は永遠にチョキ側でいい」

「いやいやいやいやいや……ちょっと待ってよ。一方的にあんたが勝つそのルール酷すぎな……」

「これで終わりだトーミャ!じゃーんけーん!むぐぐぐ……」

私はとっさにジョニーの口を塞いだ。潤んだ瞳でこっちを見てくるトーミャに

「終わり!天帝の制裁はもう終わり!トーミャ君も服着て!」

トーミャはホッとした顔で服を着だした。ルナーが頬を赤らめて

「……アイ、私、一日頑張ったんだ。何かご褒美が欲しいな……」

「う、うん……あとで話し合いましょう……ジョニー……トーミャ君で遊ぶのはやめて」

私がアホに詰め寄って、睨みあげながら言うと

「……ふっ。アイは俺のストレスを想像したことはあるか?魔法も撃てずに、腹パンをくらって、テルナルド制圧に特に何もできなかった。それはもう、新キャラのショタで遊ぶしかないだろう。さらに言うと、もうちょっとでショタの全てが見えたんだぞ?この悔しさが分かるか?」

「分かるわけないでしょ……あんた、男に興味ないくせに……」

「アイ、分かってないな。性的趣向などと言うものは開発するものだぞ。興味を持ち、受け入れていけば、無限に世界は広がっていくんだ。暇だから、ついでにショタ属性と言うものを研究したいと思ってな」

「なんか頭よさそうなこと言ってるけど、要するにエロいことのレパートリーを増やしたいだけでしょ……。子供に手を出すような犯罪的な趣味を増やすのはやめて」

ジョニーはニヒルに笑うと

「天帝に法律は無いんだ。むしろ俺がこの世界の法律だ!」

「……はいはい、暇すぎて相手にしてほしいのね……」

かまって欲しくて調子に乗っているふりをしているアホに、もはや腹パンする気も起きない。


ルナーが部屋に持ってきてくれた簡易的な夕食を食べ、その夜は、トーミャと私とルナーで寝室のベッドに寝てジョニーのアホはリビングのソファに寝かせた。

アホの魔の手からトーミャを守るにはそうするしかなかったからだ。

「待て、三人でするなら、もはや四人でも変わりはないぞ!俺を置いていくな!女二男一ショタ一で新しい世界へ行くぞ!」

などと寝室の扉の外から煽ってきた暇すぎるアホのことは無視することにして、私、ルナー、トーミャの順番で横たわり、下着姿で寝る。

ルナーを間に挟めば、胸のトキメキで寝られないと言うことはなかった、

むしろ、すぐに寝入ったルナーが私の背中に抱き着いてきたのでトーミャの存在が薄れてくれて助かった。


翌朝、ジョニーが外から

「おーい。テルナルド南部が、アイへの徹底抗戦を表明したみたいだぞー。おーい、楽しい戦争パートの始まりだぞー起きろー」

嬉しそうな声で言ってきて、私は飛び起きる。

トーミャとルナーはまだスヤスヤしている

すぐに服を着て扉を開けると、パンツ一丁にマントのジョニーが不敵な笑みを浮かべ

「ほら、あれだぞ、テルナルド南部って言ったらなんとか教団がある暗黒地帯のどうとかに近いとこだろ?天帝国の謁見室でコリーが殺したやつの宗教がそこのだったろ?つまり、今までのアニメでの知識から言えば、魔物との戦いになるな!!」

寝起きで、ジョニーの異世界語を翻訳する気も起きなかったので

「アニメの知識も悪くないと思うけど、まずはスグルさんから話を聞きましょう」

いつの間にかリビングのソファに座っていたスグルがお茶を飲みながら

「あ、おはよう。僕がさっさと説明した方が早いってジョニー君が」

ジョニーがニヤニヤと

「余計な展開をはぶいてくれとスグルに言って、待ってもらったんだ」

「……ジョニー、悔しいけどとても良い判断だと思う……」

私はジョニーとスグルと対面側のソファに座ると、スグルが

「ジョニー君が今言ってた通り、テルナルド南部が即座に反旗を表明した。旗頭はヴァモスーミィ・テルナルドだ。戦争好きの前国王の四番目の弟だね」

ジョニーが不思議そうに

「なんでテルナルド王族はミャとかミィとかつく変な名前なんだ?」

私が魔法学園で教えられていた通りに

「旧テルナルド王家的には高貴なる音だからよ。ミャーミもトーミャもゾズミィもそうでしょ?」

スグルがニヤリと笑いながら

「僕は違うと思ってる。たぶん、テルナルド王族は純粋な人じゃないんだよ」

ジョニーと私が一斉にスグルの顔を見ると、彼は笑いながら目をそらして

「まぁ、そんなことより、南部なんだけど、ジョニー君が言ったように、この国から見て東南にある暗黒荒野地帯の宗教が明らかに裏から手を引いているね」

「……モチモッチモスウィーン教ですね……」

ジョニーがいきなり噴き出して、スグルが不思議な顔でそちらを見る。

「もっ、もちもっち……もすうぃーん……なんだそのふざけた名前は!」

私とスグルは首を傾げた。何が面白いのかを分からない。

ジョニーは爆笑し始めた。

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