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アンデッド

「そ、相談って?まさか巨人を倒す方法ですかぁ!?」

驚いた顔のサニーに私は体中に力を入れて頷いた。もしジョニーの魔法が効かずにサウスの刀さえ通じなかったら、たぶん、これしか方法がない。私は頭の中に思い浮かんだ作戦をサニーに説明した。

サニーは最初は震えていたが、次第に真剣な顔になっていき

「た、たしかにそれなら、あの巨人を倒せるかもですぅ」

私に同意してくれた。


サニーを近くの尖った形状の大岩が連なっている岩場へと移動させ、私は遠くの方の斜面で、巨人からジョニーを抱えて巧みに逃げ回っているサウスに分かるよう、頭上へとライトアローを一発上げた。

サウスはすぐに私の意図を理解したようで、岩場をジグザグに駆けながら、素早くこちらへと向かってきた。

「アイちゃん!何か作戦あるんだよな!?」

遠くから野太い声で叫んできたサウスに私は両腕を〇の形にして頷いてサニーの方を指さした。

サウスは頷いて、瞬く間にそちらへと駆けていく。私はサウスと距離をあけて追ってくる巨人の間に入った。

そして両腕を左右に広げて立ちふさがる。

巨人は私の直前で、右側に九十度角度を変えてそして右横を走っていった。

私がすぐに背後のサニーが居るはずの場所を振り向くとサニーが土魔法で五百メートルほどはある、夜空へと至る長い土の橋を伸ばしていてその一番上の先端には、ジョニーを抱えたサウスが立っていた。

一直線に土の橋を巨人は登っていき、先端のサウスたちに切りかかる直前で

魔法が解除され、土の端は崩れた。

崩れる直前にジョニーはサウスの背中に強く掴まっていて、サウスは両手で刀を両手持ちすると落下のスピードに乗せ、下へと落ちていく巨人の、兜を被った頭めがけ

「ズンッ……」

と遠くから見ている私にも空気が切り裂かれる音が聞こえるような強烈な斬撃を叩きこんだ。

完全に体勢を崩した巨人が、尖った大岩へと突き刺さるように叩きつけられる。

全身が曲がった巨人は、たたき割られた頭の機械がむき出しの部分からパチパチとプラズマを発しながら動かなくなった。


着地したサウスがホッとした顔でジョニーを降ろし、動かなくなった巨人に近づいていく。私も駆け寄り、サニーも恐る恐るやってきた。

「ふっ、俺が無理でも仲間たちが助けてくれる。これぞ主人公補正だな。つまり俺が最強だからこそ、為しえる技だ」

アホが何かを言いながら私に近づいてきたので、無視しつつ、全身が曲がった巨人を大岩の下から見上げているサウスに

「……これで、倒せましたか?」

私も巨人を見上げながら尋ねると、サウスは

「……わかんねぇな。多分、追撃能力はもうないと思うが……」

彼がそう言った瞬間だった。

いきなり巨人が曲がった体の上半身を起こし、カパッと鎧の前部を左右に開けると、その中から出てきた六門の砲台から、弾丸のようなものがジョニー目掛けて発射される。


気づいたら私は両腕を左右に広げてジョニーを庇っていた。

「てめぇこのやろお!!」

激怒したサウスの地響きのような怒号が響いて、彼の空気を切り裂く太刀筋ぬ連続で襲い掛かかられた、大岩の上の巨人は瞬く間に鉄くずに分解されていく。

「アイ様!!ああ……うわわわ……」

サニーが真っ青な顔で私の傍に駆けてくる。

何か、全身の感覚がない。首も動かせない。

何とか動く口で背後に居るはずのジョニーに

「……ケガしてない?」

と尋ねると、アホは涙声で

「あ、アイ……お、おいおいおい!ダメだ!本当に序盤で死ぬモブにならないでくれ!!お前が必要なんだ!サウス!サウス来てくれ!サニーでもいい!体の傷や大穴を治すケイオスマジックは何か無いのか!?なんでもいい!!早く教えてくれ!」

サウスが大岩の上から跳躍してきて、立ったまま動けない私の身体を瞬時に見回すと

「ジョニー……ダメだ。そんなの知らねぇし、これはどんなヒーラーでも治せねぇ。アイちゃん、意識あるうちに何か、言い残すことあるか?」

怒りを抑え込んだような顔で尋ねてくる。

私は、何となく状況を理解した。

そうか、巨人の砲弾できっと、私の身体は穴だらけなんだ。なんだろう、悲しくない。むしろちょっと安堵してる。

「……あの、ジョニー……あんた、周りの人のこと、ちょっとは考えなさいよ。それとメイズさんを大事にして。サニーちゃん、ルナーちゃんにごめんねって伝えて」

そこで口から大量の血液が溢れ出て、倒れこんだ私はサウスに抱き留められる。

身体は痛くない、むしろ何か気持ちがいい。もう目が見えない。私は口から血液を吐き出すと、最後の力を振り絞って

「サウスさん、みんなにジョニーを頼みますって。じゃあ、みんな、またね……」

そこで喉に噴出した血液が詰まり、私の意識は消えて行った。





……





「あーめんどくさ。まぁ、お前と一緒に腐っていくのも嫌だから、さっさと起きんか」

頭の中に甲高い女の子の声が響いて、私は大きく息を吐きだした。

周りは真っ暗だ。右腕が動いたので触ってみると木材の感触がする。

「ここは……?」

言葉を発すると、頭の中の女の子の声が

「棺の中だ。わしの計算によると地上から四メートルといったところだな」

「……ああ、私は死んだのか、あのアホを庇って」

頭には帽子が被せられているようだ。

この声からして、例のピンクのテンガロンハットなのだろう。

「もしかしてもう帝都で葬儀されたあと?ルナーちゃんとかメイズさん泣いてた?」

頭の中の声が、嫌そうな声で

「いや、ジョニーが泣きわめきながらワープしてどこかに消えたのでサウスとやらが、サニーと麓の村で簡素な葬儀をしてサウスと数名の者たちが村はずれに極秘で埋めた。いずれ、この棺は天帝国の者が取りに来るだろうが……」

その意味が分かってしまい、私はため息を吐いてしまう。そっか……私の遺体すら政治的な取引の道具になるんだろう……。

親友のルナーなら公国から必死に取り戻そうとするだろうし、まぁ、天帝国最高責任者のジョニーが逃げちゃったらサウスの立場じゃそうもするよね。ということは

「サニーちゃんは捕まっちゃったってわけよね?」

「そうじゃな。今頃、魔法を封印されて公国首都に連行されておろう」

「なんであんたを、死んだ私が被ってるの?」

数秒の沈黙があった後に

「サウスとやらが、貴様のポケットから私を見つけ出し被せたのだ。愛用の帽子と勘違いしたのだろうな」

少し私も間をあけて

「死んだ私が意識を取り戻したのは、あんたの力なの?」

「ああそうじゃな。魔力で動かしている私を外したらまた貴様は死ぬ。どうする?腐敗も止めているが、完全に腐るまで横たわるか?」

考えるまでもない。死んだとしても意識があるのならみんなの所に帰らないと

「どうしたらいいか教えて」

「……仕方がない。貴様の微々たる炎の魔力を右手に集めよ。時間はある。できるまでやるがよい」

「わかった」


それから何時間も私は、右手に魔力を集中しようと棺の中、横たわったまま試し続ける。

どのくらい時間が経ったか分からないころに右手が赤く灯ると

「ようやくか。雑魚に教えてるのは大変じゃな。その右手で、右横に穴を開けよ。上はダメじゃ。土が落ちてきて、面倒なことになってしまう」

言われた通り、棺の右横を殴って穴を開ける。思ったより、あっさり穴が開いた。魔力で包まれて破壊力が増しているらしい。

「それから少しずつ穴を大きくして、横へ向けて掘り進めよ。いいと言うまで上に向かうのはやめよ」

甲高い少女の声に従って、数時間かけてひたすら横穴を掘り進んだ。

棺を壊して出てみてわかったが、左腕は動かない。そして、右足も太ももに大穴があいているのか動きが悪い。

さらに右横腹もなんか筋肉がない気がする。

でも、気にしている場合じゃないよね!とにかく外に出ないと!

横穴を掘って、その中を進んでいると、頭の中で

「よし!いける!斜め上へと掘れ!」

私はひたすらその位置から上へと赤く光った右手で斜め上へと掘り進めていく。


すぐに地上まで到達することができた。

明るい森の中だ。草木を払っていると、近くに人の気配を感じる。

「隠れよ。今の貴様はアンデッドだ。一般人から見ると化け物に過ぎん」

言われた通り、草むらに隠れると水汲みに来ていたらしきブリキのバケツを両手に持った村人が二名、前を通り過ぎながら

「なーんか、臭わねぇか?」

「気のせいだべ。そんなことより偉い貴族の娘っ子かなんかが死んだんだろ?」

「ああ、昨日の葬儀だか。サウス様があんなに泣くとはなぁ。まぁ、沢山お金貰ったから黙っておくに限るべよ。ここらも公国に戻ったばかりだしなぁ」

二人が通り過ぎた後に、私は自分の匂いを嗅いでみる。鼻が利いていないようで、まったく分からない。

頭の中で甲高い少女の声が嘲笑うように

「アンデッドとは臭いもんじゃ。さあどうするか。ここから帝都まで歩くと数か月はかかるぞ」

「どうするって言われても、歩くしかないでしょ?」

しばらく沈黙の後に頭の中で

「確か、この近くに、わしの創ったダンジョンがあったのう」

「そこは行くと何かいいことはあるの?」

「最深部には、何か役にたつものがあるかもしれん」

「……覚えてないの?」

どことなく恥ずかしそうな声で

「当時の、わしの敵たちをおびき寄せようと思っていたが結局来なくてな……それ以来、行っとらんのよ」

何か絶対、ろくでもないことが起こりそうな予感がするけど今はそっちに賭けた方がいいような気がしたので

「場所を教えて」

私はそう言った。

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