どういじったら
しばらく寝た後、ルナーから起こされ天帝専用の食堂で二人、遅い朝飯兼昼食を食べているとメイズが反対側の席に座ってきた。
「アイ様、会議で凡その方針が決定しましたわ。我が国は、これまで貴族たちが握っていた権益を取り戻し、税率を下げつつ、国民が働きやすい国を造ります」
「……わかりました。難しいことは分かんないからみんなに任せます。きっと上手くやってくれると信じているので」
私がそう言って、モソモソとサラダを口に運んでいるとメイズは美しい笑みを浮かべて
「テルナルドの使者の件はわたくしも伺いました。そのことは、今後の推移を見守るとして我が国としては、竜騎国と、私の祖国シルマティック公国をどうにかしないとなりません」
「……二か国とも同盟でいいんじゃないですか?」
最強のケイオスマジシャンであるジョニーに逆らう人たちは、もう居ないと思う。
メイズは綺麗な顔を少し憂い気にして
「いえ、竜騎国は好戦的な武を貴ぶ国家ですし我が祖国については、正直なところを言っても良いですか?」
「どうぞ」
私はジュースを飲み干す。メイズは軽くため息を吐いて
「わたくしのおじさまのノースは、一筋縄ではいかぬお人です。帝国に黙って、パルマウと密輸貿易をしていたり恐らくはジョニー様が居た頃は、裏で世界制覇すら狙っていました。さらに言うと、一族の方々は皆賢い人たちばかりです」
「……」
確かに。丸め込まれて、ジョニーと戦地に連れていかれたのはよく覚えている。
かなりしたたかな一族なのは間違いない。
ただ、公爵一族が悪い人たちだとはとても思えない。首都も繫栄していたし、私たちも悪い扱いはされなかった。黙って聞いていたルナーが
「メイズには悪いが、正式に皇后となった後にシルマティック家は外戚となる。そうなると一族にいいようにこの国が支配されてしまう可能性すらある。つまり、潰してしまうなら今だな」
ルナーの話を聞いたメイズは黙って私の顔を見た。
「……えっと、ちょっといい考えが浮かばないから、竜騎国は?」
ルナーは苦笑いしながら
「そちらについては竜騎国出身者として言うと、力でねじ伏せるしかない。思い知らせないと、竜騎国は永遠に分からないだろう」
メイズも深く頷く。
「……分かった。そっちは総力戦ね。あのさ、私としてもずっと黙っていたけど……」
私が言う前にルナーが頷いて
「……分かっている、暗黒竜オギュミノスだな。アイのご両親を殺したのは、竜騎国最強の巨竜だ」
「……戦争だから、竜騎国自体には、そんなに恨みはないんだけどその竜だけは、ジョニーに土下座してでも殺してもらわないときっと、私は……ずっと、思い悩むと思う」
メイズが真剣な顔で頷いて
「では、シルマティック公国の扱いについては、今晩国の要人たちを集めて、会議にかけましょうか」
私とルナーも真剣な顔で頷いた。
それから、ルナーは職務に戻り、私は宮殿内を散歩したり、自室でゴロゴロしたり、メイズに呼ばれたので二人でジョニーの部屋の裸婦画やエロ絵本を片付けたりした。
無心で通路に出して片付けている私たちをジョニーは見ながら
「ふっ。嫁を持った俺にはオナニーグッズなど必要ない。それらは過去のものだ。次元が上がった俺にとって塵のようなものだ。分かるか?所詮、それらは絵だ。二次元は俺の身体までもは救えない」
と意味不明な強がりらしき事を言いながら、すごく惜しそうな顔をしていた。
そしてその晩。
例の教室のような大会議室に、ジョニー、私とルナー、メイズの四人とコリー、レスリー、そして相変わらずビキニアーマーのドースン将軍、さらに黒装束、黒頭巾姿の特別傭兵の……うん、中身はミッチャム、の八人が
集まっていた。
ジョニーがさっそく
「シルマティック公国をどういじったら面白くなるかの大会議をこれから始める。最近はシリアスすぎたと思うんだよ。コリーが魔物的なアレをいきなり退治したり、アイがざまぁシーンをなんか真面目にやってしまったりと、これではダメだ。ウケない」
意味不明なコメントをして、それに真面目に頷いたメイズが
「さすがですわ。つまり、我が国の干渉によって公国をいかに楽しい国に作り替えるかということですね?」
レスリーがまじめな顔をして
「シルマティック公国の統治は基本的に上手くいっていますが、やはり、西の大半の領地を竜騎国に取られたのが響いているようですね」
私が黙ってみているとジョニーのアホが分かっているような顔をして、レスリーに
「そうか。じゃあ、いきなり横から協力して竜騎国を退かせるか。恩を着せつつ、色々と要求していじっていく感じでどうだ?」
レスリーは苦笑いして私の方を見てきた。
「あ、えっと……ジョニーがそれやるの?」
ジョニーは面倒そうな顔で
「アイがやってくれ。俺はメイズと子作りで忙しいからな」
「……今度はあんたも来なさいよ。ワープ魔法で……いや、ちゃんと行先を言ったワープ魔法で戦地にワープして、竜騎国を一方的に倒して戻ったらいいでしょ」
ワープの消費魔力値が五十万でも魔力値二百五十万越えのジョニーの魔力なら数回は使えるはずだ。
ジョニーは衝撃を受けた顔をして
「さっ、さすが高知能サイコパスだな……そんな発想は無かったぞ……」
むしろ、よく思いつけないなぁ、五歳の子でも分かるでしょと思いながら、私がため息を吐くとレスリーがまじめな顔で
「天帝代理様、それならばうってつけの戦場があります。現在、サウス・シルマティック率いる征西軍は元シルマティック公国領北西にあたるクナイア山脈付近で竜騎国から投入されたスカイ・プリンストルの軍に苦戦しているようです」
ルナーがどことなく嬉しそうな顔で
「私の二番目の兄様だ。敵兵を殺さない方針のシルマティック軍では絶対に勝てないだろうな。さらにその辺りは、険しい山岳地帯で土と風属性が強い。兄様の得意属性と一致している。攻防ともに手ごわいだろうな」
ジョニーがニヤーッとしながら
「またざまぁ展開が来たな!おい、ルナー!兄貴を倒してざまぁしてくれ!」
ルナーは首を横に振り
「私には勝てない。スカイ兄様は軍のトップエリートで百年に一人の天才だ。魔力値二十七万、イケメンで高身長、率いる竜騎士は三千人。他国の兵力で換算すると、七万人クラスの将軍だな」
ジョニーは胡乱な顔で、少し自慢げなルナーを見つめ
「……ブラコンだったのか?三十九のロリババアの兄なら四十越えだろ?いいのか?その年まで、そんなブラコンで。むしろさらに設定を盛っていくのか?大丈夫か?キャラ崩壊しないのか?」
ルナーは難しい顔をしながら黙ってしまった。皆、ルナーがジョニーに年齢詐称しているのを知っているようで横を向く。
ジョニーは首をかしげた。黙っていたコリーが
「ではー今回の遠征はー、アイさん、ジョニーさん、それからー……」
と言いながら、会議室の扉を指さした。
静かに扉が開いて、白いローブ姿のサニーが申し訳なさそうに入ってくる。
「お、サニーか、どうした?謝罪か?戦場で逃げ……むぐぐぐ」
私とメイズから同時に口をふさがれたジョニーの近くにサニーは足早に近づいてきて
「あのぉ……次こそ……私、やれますぅ……」
真剣なまなざしで見つめてきた。コリーはその様子に微笑むと
「ということでー三人で、竜騎国の精鋭部隊をうち破ってきてくださいねー」
私たちから口から手を離されたジョニーが不満げに
「コリー、なんか面白い混沌魔法を教えろ。そうしないと、せっかく大規模バトルが俺の圧勝で終わってしまうぞ。分かっているのか?どうせ勝つので、面白い勝ち方が重要なんだ」
コリーでなく今まで黙っていた黒頭巾のミッチャムが手を挙げて
「……戦場が土と風属性ということですので
属性移行魔法などどうでしょうか?」
コリーが頷いて
「良いと思います。つまり天帝様は手を出さずにシルマティック公国軍を操って勝つということですね?」
「はい。天帝陛下たちには高いところで、戦況を見下ろして頂いて戦場を操るということを楽しんでいただこうかと」
私が恐る恐るミッチャムに
「あの、そんなに強力な混沌魔法なの?」
ミッチャムは黒頭巾のまま頷くと
「シーチェンジという混沌魔法です。詠唱呪文は後々教えるとして、目に見える範囲全ての属性を入れ替えたり、消したりすることができます。魔力消費量は、恐らく一時間四十五万ほどです」
「……ジョニーに教えて大丈夫?」
学校で属性の重要性について教えられていたのを思い出した。
つい昨日、戦場で上級炎魔法が地形効果で弱くなっているところも見ている。
つまり地形や軍人たちの持つ属性を自由に変えていけば戦闘能力すら完全に無力化することすら可能だ。
心配する私にメイズが微笑んで
「大丈夫です。ジョニー様は属性の重要性を理解しておられません。相手の属性を考慮する必要のない混沌魔法の使い手だからです」
いきなり断言してきた。
アホのまま最強になったので属性の怖さを理解していないということだ。
つまり、覚えても一人では使いこなすことはできないので補助が要る。そしてその役目は、私とサニーなんでしょうね!
コリーをチラッと見ると
「アイさんー違いますよー?サニーさんは守り手ですー。アイさんがジョニーさんに指示を出してくださいねー?」
と言ってきた。




