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ケイオスマジシャン

「おい……その望遠鏡でどこを見てるんだ」

裸のジョニーが少しうれしそうな顔で言ってくる。

「ちっ、ちが……魔力値がぁ……」

私は思わず、魔力測定器を落としそうになり

サッとミッチャムが支えてくれる。そして真剣な顔で

「お嬢様、これは……戦略を練り直さなければ

 ならないかもしれませんね」

「せっ、戦略?」

思わず裏返った声を出すと

「ジョニーさんの魔力があれば世間に認めてもらう必要はありません。むしろ、我々が世間です」

一瞬、私の頭に稲妻が走った。

「たっ、確かに……でもさジイ……魔力値が凄いのは私たちじゃなくて、そこで縛られてるアホだよ?」

アホなのは間違いなさそうだ。絶対にアホだと思う。自分の裸を見られて、ニチャアと気持ち悪い笑みを浮かべているし。

「……なので、ジョニーさんを私たちが手なづけるのですよ。いいですか?この世界のことを教え込んでそして我々に従うように一から教育するのです」

「できるかなぁ……アホだよ?」

思わず情けない声を出してしまうと

「やるのです。お嬢様と我が家が復興するにはもはや、ジョニーさんに頼るしかないのです」

ミッチャムは強い意志を帯びた眼差しを向けてくる。すぐにその気持ちが伝わって

「……うん……分かった!やろう!」

私がやる気を出したその後ろから

「……やる?乱交パーティーでもやるのか?」

ジョニーいや、アホが声をかけてきて私は裸の奴の身体の上に思いっきり布を投げつけた。


服を着せたジョニーを我が家の応接間に案内して紅茶と高いお菓子を出しながら、私と我が家の成り立ちについて説明すると

「そうか、何言ってるかほとんど分からんかったが、要するにお前は高校中退なわけだな。勝った。俺はそもそも中学までしか行ってないからな」

テーブルを挟んだ向こうのアンティーク椅子に座ったジョニーが偉そうに言ってくる。

「そっ、そうなの!?」

と思わず聞き返すとジョニーはかっこつけて紅茶を飲みながら

「ああ、それだけは間違いない。はっきり覚えてるからな。俺は中卒だ」

たぶん嘘だろうけど

「……ジイ、何となくこいつを仲間だと思ってしまう私のこの気持ちをどうしたら……」

「お嬢様、良かったではないですか、ジョニーさんとの共通点が見つかったのです」

ミッチャムは微妙なフォローをしてきたが、

さすがに私にもその真意は分かる。共感を誘いつつ、上手い事手なづけられるようにしていきなさいと勧めているのだ。

その突破口のために、良い共通点が見つかったとミッチャムは言ってくれている。

「……ジョニー、あんたと私は中卒仲間なわけだけどちょっと、私のお願い聞いてくれない?私たち、手伝ってほしいことがあるんだけど……」

「……俺に何か頼みたいなら、お前を抱かせろ。そろそろ童貞を卒業したいと思っていたところだ」

「……」

アホのゲス発言に席を立とうとした私を、ミッチャムが止めてくる。

「お嬢様、ここは我慢です。別の条件を引き出すのです」

私はコホンと軽く咳払いして、座りなおした。

「……ジョニー、あんたに私の初めてはあげられない。でも、別の条件なら飲めるかもしれない。言ってみて」

固唾をのんで次の言葉を待つとジョニーは口を歪めて笑いながら

「……お前らの様子と態度だと俺はどうやら、凄い力があるのだろう?そして、お前らは俺の凄さを使って金儲けとか、名誉回復を企んでいるわけだな」

意外と鋭いジョニーに愕然としながら

「ジイ……どうしよう、ただのアホじゃなかった……」

そう呟くと、ミッチャムは私の肩に手を置いてきて

「ジョニーさん、そこまでご理解くださっているのならば我が家の再建に手を貸していただけませんか?」

「いいだろう。だが、その前に力があるなら

それを試したい。庭で試させてくれ」

「しばし、お待ちを」

ミッチャムはそう言って、部屋から出て行った。


アホに嫌らしい目で見つめられながら何とか耐えているとミッチャムが戻ってきて

「属性スコープです。これでジョニーさんの属性がわかります」

紫色の金属でできた小さな双眼鏡を出してきた。人にはそれぞれ生まれ持った属性がある。火、水、土、風、光、闇、そして無属性の七種類がその属性で、複数持つ者も居れば

一つも持たない、つまり無属性の者も居るのである。そのスコープで、生き物を覗き込めば生まれ持った属性を知ることができる。

例えば私は、


火、水、風、光の四属性を持って生まれた。


なので、魔力をちゃんと鍛えれば

四属性の魔法を使いこなすことができるのだ。これは生まれつきの才能としてはけっこう凄い。私のちょっとした自慢である。

「どうせ、ジョニーは闇でしょ?闇っぽいし」

私は大きくため息を吐いて、ミッチャムから属性スコープで覗き込まれて計測されているジョニーにそう言った。魔王だろうし、あーあ、嫌だなぁ。五十三万ヌーレルの魔力を持った闇の魔王かあ。

「うっ、こっ、これは……」

ミッチャムがまたもやたじろぐ。

「えっ……また?」

たぶん、何もわかっていないジョニーがニヤリと不敵な笑みを浮かべているのがムカつく。ミッチャムは深呼吸して呼吸を整えながら


「お、お嬢様、ジョニーさんは無属性と雷と光の混合属性です」

 

と何とか言葉を絞り出して椅子に座り込んだ。

「ん?凄いのか?」

ジョニーが期待に満ちた顔で私を覗き込んでくる。

「け、ケイオス……ケイオスマジシャンなの!?」

ありえない属性の組み合わせは百年に一人くらい現れる。それをケイオスマジシャンというのだ。当然、もし生まれつきそうだったら

国の方が土下座して、名誉もお金も学校も仕事も全て用意してくれる。

「そ、その通りです。彼の魔法攻撃には、あらゆる魔法壁や物理障壁は役に立ちません……」

私は、全身の力が抜ける。こいつ、私が欲しいと想像すらしなかった才能を全て持っている。

「ふっふふふ……やはり俺は凄いやつだったか!」

ジョニーは立ち上がって、腰の入っていない

変な踊りをし始めた。しばらく二人で呆然と、変な踊りを見つめてから、とにかく、ジョニーを庭に連れて行って簡単な魔法を教えることにした。



庭にある広い魔法訓練場は両親が生きていた時に特訓で使っていたものである。

周囲を金属製の分厚い魔法障壁に囲まれた円形状の特訓場になっている。

私がジョニーにまずは、軽い光魔法を教えることにする。


右手を二百メートルほど離れた鉄色の魔法障壁に私はかざして、光の初級攻撃魔法

「ライトアロー!」

を唱えた。私の右手から真っ白な光の矢が

百メートルほど真っすぐに飛んですぐに消えた。魔力がもっと強ければ、もっとすごい距離と威力が出るのだが、今の私にはこれが限界だ。

「どう?やってみて」

ちょっと突き放した言い方をしてみて

ミッチャムと距離を取ってジョニーを見守る。

「ふん。こういうのはアニメで見たことある気がする」

ジョニーはよくわからないことを言いながら右手と左手を前に伸ばすと

「ダブルライトアロー!」

と力みながら叫んだ。しかし、何も起こらなかった。

「まだまだね。修行がたりな……」

私が嘲笑おうと、声をかけようとすると

いきなり、ジョニーの右手と左手の手のひらから二匹の大きな白銀の龍が、辺りに閃光を発しながら出現して


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


と恐ろしい咆哮を上げながら空へと駆け上がっていった。唖然としながら見上げていると

空で二匹の龍は絡み合い、そして花火のような七色の閃光を上下左右全てに放ちながらそして消えた。

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