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後始末をしよう

リンリンとサニーが出て行ってから、ベッドに横たわっていると、白いビキニアーマーを直に着て背中の羽根を折りたたんだ、例の神々しい女性が良い匂いの湯気を立てた食器とコップをトレイに置いて持ってきた。

「ふふふ。あの二人なら今日は帰ってきませんよ」

まったく威圧感のない雰囲気に拍子抜けした私は上半身を起こしながらベッド脇に来た女性

「でしょうね……きっと、今頃、明日着てくる服について二人で考えてる頃でしょう……」

私もバイトをしているとき、あんな感じだったのでよくわかる。

一度に二つのことを覚えられなくて、よく店長から叱られた記憶がある。

女性は、ベッド脇にテーブルを寄せてきてトレイを置くと、胸に手を当て頭を下げ

「スゥインネァンコリーと申します。元天界に住まう大天使です。天帝様からは、長いのでコリーにすると」

あれ、今天使って言った?ということはメイズたちが言っていた帝都の地下迷宮に天使が囚われていたって……。

コリーはニコリと微笑むと、先ほどまどサニーが座っていた椅子に着席して

「約七百九十一年ほど幽閉されていました。

それを数か月前にシャドーさんから助けて頂いたのですけれど……」

そこで少し考えて

「アイさんも知っての通り、シャドーさんを操っている帽子はあまり良いものではありません。なので、申し訳ないのですけど、私が彼女を操ることにしました」

「ああ、ミイラ取りがミイラになる的な……」

天使を助けて利用するつもりが、天使に利用されているらしい。

うん……まあ、あのピンクのテンガロンハットもジョニーに光魔法撃たされたり天使に操られたり大変だなー……。

「あ、いただきます。お腹すいていて」

私はとりあえず軽く会釈をして、食事を口に運ぶことにする。甘い味のついたパンを蒸し焼きにしたものと、温かいお茶だ。

ありがたいなぁ……と思いながら食べていると、コリーがまた微笑んで

「気に入られたようで良かったです。アイさん、私は大事なことをあなたに伝えなければなりません」

おっとりとした口調で言ってくる。

「大事なことって?」

そう言った後に私がお茶を飲み込むと、コリーは真剣な表情で

「この世界は、長らく代替わりしていません。それは、前代の挑戦者が失敗したからです。それからというもの、ケイオスマジシャンたちは巧妙に伏せられた世界の秘密に殆ど気づかずに寿命に達して退場していきました。私は囚われたまま、それを眺めるしかありませんでした」

「ん……?どういうことですか?」

コリーは微笑むと立ち上がり

「アイさん、まずはこの地上世界を安定化させてください。ジョニーさん、私、そしてシャドーさん、そしてアイさんのお友達が居ればそれほど時間をかけずに達成できるはずです」

「えっ……?もしかして、私に天帝代理として天下統一しろとか言ってます?」

コリーは優しく首を横に振り

「武力による統一など必要ありません。あなたがこれからすることは、地上世界を平和にすることです」

「……あの、えっと、私、自分で言うのもなんですけどただの高校中退で、国を追われた元貴族の一般人なんですよ……。ルナーちゃんみたいに魔力も高くないし、メイズさんみたいに体力もないです」

コリーは微笑んで頷いて

「痛みを知る、普通の方が良いのです。それにあなたは、もう様々なことを知っています」

そう言うと、スッと立ち上がり、再び胸に手を当てて頭を深く下げてきた。

私は、コリーに軽く会釈を返して、とにかく食べることにした。食べ尽くすと安心して、そのまま寝てしまう。



……



翌朝、ルナーが私を起こしに来てくれた。

宮殿を歩いても恥ずかしくない着替えを持ってきてくれていて何とルナーはさらにおそろいの黄金のマントを用意してくれていた。しかし私は気づく

「これ、ジョニーが裸の上に着てたのと……」

ルナーは真顔で頷くと

「メイズが用意させた。天帝と一心同体であるという姿勢をマントで示すそうだ」

仕方なく頷いて

「……なんか昨日ね……」

コリーが言ってきた話を、ルナーにできるだけ詳しく説明すると

「そうか……アイはケイオスマジシャンに加え元大天使まで従える身か……。私から遠くなったものだな……」

さみし気にそう言ってきたので、慌てながら

「いやいやいやいや、待ってよ!ルナーちゃんが一番の親友だし遠くなられたら困るのは私だし!これからもずうううっとよろしくだし!」

ルナーはニヤリと笑って

「冗談だ。大天使なのはコリーから直接説明を受けた。それよりもリーノが帝都に迫っているが、天帝代理の意見を聞きたい」

私はさらに慌てる。そっ、そうかリーノさんが一族連れてこの帝都に攻め込んできてるのか……。

「えっ、えーと……緊急会議招集して!あと、ジョニーは絶対連れてきてね!めんどくさがったら、私が腹パンするって言っといて!」

私は慌てながらマントを羽織って、ルナーと部屋を出ていく。


一時間後。


女性と香水の匂いと、さらに殺意や嫉妬が充満した大会議室奥に私とルナーとメイズとその横の眠そうなジョニー、ニコニコしたコリー、さらにコリーに手を繋がれて、白目をむいて立っているハットを被ったシャドーが並んで立つ。

目の前の机に座る女たちは、相変わらずビキニアーマーや水着姿を着こんでいる人が

ほとんどだが、中にはローブ姿や、普通の鎧姿になっている者も多い。

中ほどの席に隣り合って座るサニーとリンリンは、十七の女の子が街に着てきそうな鮮やかな色合いの服装だ。その一角の光景に私はホッとしつつ、大きく息を吸い込んで、それから

「みなさん!おはようございます!天帝代理になったアイ・ネルファゲルトです!これからよろしくお願いします!」

そう言ってから、深く頭を下げた。当然、大半の女性たちは私を無視して、クスクス笑っている者すらいるがサニーとリンリン、そして卑猥な服装を止めた女性たちは大きく拍手をしてきた。

多分、五分の一くらいだなぁ……まあ、いいよ、バイトの時、見慣れた光景だ。

せっかくなので、辞めさせられるまで、頑張ってみるよ!もう一度大きく息を吸い込んで

「ヴァルガナン家の軍勢が帝都に迫っています!私としては!和平して、元の領地に帰ってもらおうと思うのですけれど!みなさんはどうでしょうか!」

サニーが元気よく手を挙げて、指をさすと

「天帝代理様!あの!ヴァルガナンの人たちは一回戦わないと納得して和平してくれないと思います!」

良い意見を言ってくれたので、私は深く頷いて

「その通りです!さすがですサニーさん!ということで!天帝陛下に徹底的に〆てもらおうと思うのですけど!」

私がジョニーの方を見ると、アホは嫌そうに顔を歪めてメイズの後ろへと隠れてしまう。代わりにルナーが

「ドーソン将軍、サニー将軍、リンリン将軍の三名と帝国軍の精鋭三万人で私が追い返す。天帝陛下も、もしもの時のためにメイズ皇后とついてきてくれ。いや、ください」

サニー、リンリン、そして最前列に座る身長百八十五センチはありそうなビキニアーマーを着た筋肉質で全身傷だらけの女性が立ち上がった。

女性は豊かな赤毛をかきあげながら、鋭い目つきでルナーを見つめ

「私ら四人合わせても、魔力値は三十万ちょっとだ。ヴァルガナン一族全員入れたら、百万ちかいはずだけど、どんな作戦が?」

他の女たちのクスクスという笑い声にも、ルナーはまったく動じずに

「ふん。戦は将軍個人の魔力値でするわけではない。兵士たちの動きや、風、地形、地形の属性などを読んでするものだ。作戦については既に立てた。これから別室で詳しく詰める。三人とも来い」

ルナーは手招きをして、三人と会議室から出て行った。

「えっと、じゃあそういうことで……」

私が会議を終わらせようとすると、コリーが肩を触って止めてきて

「みなさま、天帝代理様は、天帝陛下のお決めになったビキニアーマーを着ないでもよいと昨晩決められました。服装はこれからは自由です。よろしいですね?」

一糸乱れぬ女たちの返事のあとにコリーは微笑んで

「近々、メイズ皇后様の結婚式も執り行います。よいですか?暗殺、排斥などを企まぬように。帝都から去るのは自由ですからね?」

また返事があり、コリーは女たちに退出するように告げた。


私とメイズ、ジョニー、コリー、そしてブルブル震えているシャドーが残る。

コリーはシャドーを中心に座るように椅子を並べその周辺に自分と私たちを座らせると

「で、昨晩、考えられたんですよね?」

シャドーに恐ろし気な声色で尋ねる。

「わっ、わわわ私は、二代目天帝になれると、天帝様から聞かされている!なんで、こんな小娘たちが、私の帝国皇帝としての地位を……」

ジョニーが欠伸をしながら

「おい、シャドー。この間みたいに魔力のないジジイにお前をかぶせるぞ。二代目天帝の話は無しだ。アイに協力しろ」

「くっ……天帝様、あんまりではないですかぁ……」

泣きそうになっているシャドーにコリーが

「刑務所に収容されている元皇帝たちの解放もしてください。あと、不当な判決も取り消しましょう。いいですか?テーエスやアオハルは、世界のことわりを乱す危険な魔法です。軽々しく乱用すべきものではありません」

「いっ、いや、でもぉ……偉そうなおっさんたちを女の子にぃ……」

ジョニーがめんどうそうに椅子にもたれながら

「俺がお前をかぶってもいいんだぞ?お前の言う通り、女の子だけのパラダイスを造ってきたが結局、メイズや、アイたちと居た方が楽じゃないか」

そう言いながら、隣のメイズを抱き寄せた。

うん、触れない卑猥な女たちが幾らいても、触れる彼女にはかなわないよね。

というかジョニーあんた、いくらなんでもナイーブすぎでしょ……。

きっとシャドーが悪いこと企んできたんだろうけどあんたがパートナーじゃ、悪いことし甲斐もないないというか……。


私が多少、シャドーに同情していると、コリーが微笑みながらスッと、シャドーの頭から帽子を取り払う。その瞬間、シャドーは我に返った顔をして

「あれ……また、夢?あなたたちは?」

コリーがニコリと微笑んで

「しかるべき賠償をしますね。事情は別室で」

というと、なんと私の頭に、ピンクのテンガロンハットを被せてきた。

それと同時に、頭の中に甲高い女の子の声で

「魔力値千七百七十二……千七百七十二だと!?属性の数だけはあるが、魔力の器が狭すぎる!知性も教養も体力もない!おい、貴様、どうしたらこんなにしょうもない中身になれるのだ!これでは操れない!というか操る価値もない!」

私は無言でテンガロンハットを取ると、足元に敷いて強く踏みつつ、コリーとシャドーだった女性を見送り、残ったメイズとジョニーに

「えっと、ジョニー、刑務所に連れて行ってもらえる?元皇帝とか、捕まってる人たちの様子が見たいの」

アホがやりたい放題した後始末をしようと提案した。

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