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約束の日

バスローブ姿のジョニーと 、ビキニアーマーに兜をかぶった私たち三人でプライベートルームの通路を通り、外の廊下に出たところすぐに会議室の扉はあった。五分もかかってない。

「近すぎでしょ……ジョニー、こんなに近いのに行きたくないって……」

ジョニーは不敵な笑みを浮かべながら

「ふっ。強すぎる俺が居ないことでこそ公平な議論ができるんだぞ?あえてだ。あえて、会議に出ないこともある」

「それ、発言者があんたじゃなかったら多分感心してたと思いますけど!」

百パーセント面倒なだけなのは、私にはよくわかる。絶対に何も考えていない。


会議室の扉を開けると、むせ返るような様々な香水の香りと女性の匂いで、私は一瞬、気が遠くなりそうだった。

学校の教室のようにテーブルと席が並べられている広い室内にはビキニアーマーを着た十代後半から二十代くらいの女たちに、それ、服着てるの!?いや、よく見たら着てた……といった感じの殆ど紐でできた水着のセクシーな女たちが椅子にずらっと座り、それから教室で言えば教壇にあたる奥の一段高い場所に

真っ黒なローブとピンクのテンガロンを被ったシャドー参謀、そして、輝く銀髪を腰まで伸ばして明らかに折りたたんだ真っ白な羽根が背中から生えている、白のビキニアーマーを体に直に来た、神々しい美しさの女性が並んで立っていた。

メイズが眉をしかめながら、ジョニーの背中に隠れ

「女の園ですわ……みなさん、ジョニー様に見初められようとしていますね。それに、あの奥の女性は……明らかに羽根が……」

小声に私に囁く。私が頷いていると、振り返ってこちらへと尊敬のまなざしで注目してきた全員にジョニーが右手を挙げて

「みんな、今日は話がある」

すぐ後ろにいる私たちにしか聞こえないような声でボソボソ言うと会議室奥のシャドーが唇を読んだのか

「皆の者!天帝様は大事な話があると言っている!」

とすぐに大声で内容を告げた。


ジョニーと私たちは奥へと進んでいく。

"なに、あいつら"という座っている女たちからの明らかに敵対的な視線がつらい。

私、このアホに興味ないんですよ!と声を張り上げたいがグッと堪える。

奥まで進んで、ジョニーと共に一段上へとあがる。シャドーと並ぶ背中に羽根を生やした神々しい女性が

「ようやく、来ましたねーさあ、約束の日ですよー」

のんびりした口調で私にニコリと微笑んできた。声をかけられた瞬間に、全身が泡立つような気持ちになっていると女たちの方を向いたジョニーが、ボソボソと

「えっと……こいつがアイで、こっちがルナーで、これがメイズだ」

と指をさしながら、いきなり紹介して、シャドーが驚愕の表情をした後に

「みっ、みなのもの!この黒髪の女がアイ・ネルファゲルトで、桃髪がルナー・プリンストル、そして、この金髪がメイズ・シルマティックだ!」

会議室にいる全員に私たちの正体がばれてしまう。

一斉に、会議室に居る女たちの雰囲気が変わり、殺気すら飛んできはじめた。

いやいやいや、そこは偽名を使うとかさぁ……潜入してる私たちに気を使って欲しかった……うぅ、お腹すいていたから、私も気が回らなくて……アホに釘をさすのをわすれてたぁ……。

ジョニーはさらにボソボソと

「お前ら、俺はここに居るメイズを嫁にする」

と何と言ってしまう。シャドーが気絶しそうな顔になった後に

「天帝様は、メイズ・シルマティックを皇后にするとおっしゃられた!」

何名かの少女や女が立ち上がって、殺意に満ちた目でメイズを殺しに行こうとして、周りの女たちから止められたり、シャドーに遠くから手を翳されて闇魔法で動きを止められる

「それから、ルナーを帝国軍の一番えらいやつに任命する」

シャドーが泡を口から吹きかけて、隣にいる神々しい女性に手を握られ

正気を取り戻すと、大きく深呼吸した後に

「ルナー・プリンストルを空席になっていた帝国軍総司令の席に任命すると天帝様はおっしゃられた!」

席を蹴って出て行こうとした五人の女たちが、次の瞬間、全員その場で気絶する。

そちらへと手を翳していた神々しい女性が、私にニコリと微笑んで

「約束の日ですよー。さあ、アイさん、受けてくださいねー」

なぜか、私の名前を呼んでくる。

「それから、天帝の代わりに帝国の政治とか軍事とかそういうめんどいのを全部する、帝国内で、天帝の次に偉いやつをこの、アイにする」

ボソボソとジョニーはわけのわからないことを言ってくる。

シャドーは完全に白目をむいて気絶しているが、なぜか立ったまま、泡だらけの口を大きく開き、今までで一番大きな声で

「天帝様は、ここに居るアイ・ネルファゲルトを全権委任の天帝代理として未来永劫、帝国の支配を任すことにする」

いきなりシーン……とした室内から、拍手がパチパチと鳴る。

よくみると、中ほどの席でサニーが嬉しそうな顔で強く拍手をしていてサニーに目で促された隣のリンリンも、微妙な顔で拍手をし始めた。

それ以外の女たちは、私を値踏みするような目つきで見つめてきている。

あの……なんなんですかこれ……!?

何が起こってるんですか!?上級将軍にするとは聞いたけど皇后とか総司令とか、天帝代理とかそんなの聞いてないよー!

もしかして私……ジョニーに騙された!?

いや、このアホにこんな知能があるわけない。まっ、まさか……寝室でジョニーに吹き込んだのは……。

私が恐る恐るメイズの方を見ると、彼女は少し舌を出して申し訳なさそうな小声で

「すいません……ジョニー様の同意が取れたので……わたくしの一存で」

そう私に言ってきた。

空腹と衝撃で目が回り始めて、その場に倒れそうになると背中に羽が生えた女性が私を抱え上げ

「みなさーん。天帝代理様はお疲れですから、会議はここまでにしますねー。あ、この三名の方々に対して暗殺とか排斥を企んだら刑務所行きですからー。良いですねー?お返事はー?」

「はいっ」

と言う、一糸乱れぬ女たちの返事がして、私は気を失った。



……



目を開けると、私が寝ているベッドの脇からのぞき込む

サニー、それからリンリンの顔があった。

相変わらずのビキニアーマー姿の二人とも椅子に座っているようだ。

「あ、アイ様ぁ、起きられましたかぁ……?」

「う、うん……サニーちゃん、ここは?」

高い天井から、シャンデリアに照らされ虹色に鈍く輝く壁に囲まれた室内だ。

ただ、寝かされているベッドはシンプルな感じで、家具もほとんどない。

周囲を観察しながら上半身を起こした私に、サニーはニコッと微笑んで

「天帝代理様のお部屋ですぅ……あのーいきなりで悪いですけどぉ……」

サニーがモジモジしていると、隣のリンリンがいきなり立ち上がりそして、床に頭をつけて土下座してきた。

「アイ様!私とサニーちゃんをお傍に置いてください!」

サニーも慌てて、同じようにしようとするのを

「ちょっ、ちょっと待って!二人ともやめてよ!話はちゃんと聞きますから!座ってくださいよ!」

私は慌てて両腕を振って止める。

二人は恥ずかしそうに椅子に座りなおし、そしてサニーが

「あの、アイ様だったら分かってくれると思うんですけどぉ、私たちぃ……出世しないといけなくて、お金が必要でぇ……だから」

私はウンウンと頷く。言いたいことはすぐ理解できた。

そうかぁ……ジョニーに見初められるために頑張ってきたけど、あのアホは女の子たちにエロい格好させるだけで、一人も手は出せなくてそんなこんなしているうちに皇后の席にはメイズが収まってしまい、軍のトップである総司令の席にはルナーが入ってしまった。

描いていた出世コースから放り出された形となった二人としては天帝代理になった私と知り合いっていうコネを使うのが、まぁ……次なる出世への近道だよね……というか……

ここまで分かってしまう自分が悲しい。

両親が亡くなってから、いじめられて学校辞めたり、社会で少しは苦労したり、ジョニーのアホに振り回され続けたからかなぁ……一応、元貴族なんだけど……。

そんなこと考えていると、何も食べていない、私のお腹が鳴る。

「あ、すいません……あの、何か食べ物を……あと寒くないですか、その恰好」

サニーとリンリンはサッと立ち上がって、リンリンが意志の強そうな顔で

「アイ様がご不快なら、この格好やめます!」

と元気よく言ってきた。私は少し考えて

「ジョニーのアホ、いや天帝のことは気にせずに明日からは、お二人のお気に入りの服で来てください。あのアホ……いや、天帝にもビキニアーマーはやめさせるようにきつく言っておきます」

二人とも深く深く私に頭を下げて、退出していった。

食べ物持ってきてくれるかなぁ……私はそれだけが気がかりだった。

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